逆襲のハ45
疑問。なんで天山に誉が積まれなかったのか。誉が高回転型で実使用時の回転数でトルクに不安があるなら流星にも積まないはずだし。年代的にも積めたはず。誉の生産数が限界だった可能性も。と言うことで中島に余裕があるから天山に積んでみる。
中島は焦っていた。海軍から主力発動機(誉)開発を任されていたが、いつの間にか海軍の主力発動機は三菱ハ42系統に移っていた。それもこれも十五年末のシコルスキー騒動が悪い。誰だ、あんな報告書出した武官は。と言っても、対策しなければ今頃一敗地にまみれていただろう、と言う考えが主流だ。
トラック・マリアナではアメリカ海軍戦闘機と対戦してその高性能に驚いた。後継機の開発を怠っていた零戦では絶対に勝てないだろうと思われた。マリアナ沖海戦で見せたシコスルキーの高性能は最新の烈風や強風三三型でやっと対抗出来る代物だった。
シコルスキー騒動で馬力と速度に目覚めたからかろうじて対抗出来たと言える。
翻ってハ45搭載機はどうだろうか。
中島
鍾馗
本来予定になかったが試験的に搭載したところ望外の高性能を発揮。疾風登場によって生産打ち切りのはずが生産継続になってしまった。自社の機体なので痛し痒しである。しかも疾風ほど儲からない。
疾風
大本命である。今のところ予定通りと思いたい。
天雷
何かの間違いで誉を積んだら、あら驚きの高性能多用途機に。機首の20ミリ機銃4丁が対大型機には絶大とも言える威力があり生産は減ったが継続中。
彩雲
これぞ中島、と言う意地の1機。艦載機としてはもっとも高性能な偵察機。であるが、シコルスキーははるかに高速で捕捉されれば逃げ切れない。しかし、他に無く生産継続中。
川崎
飛燕二型
内緒でクランクを生産していたところが火事になったのをきっかけにハ45を積むことに。かなりの高性能となる。ハ45-21を渡すと疾風の立場が悪くなるかもしれないのでなんだかんだ理由を付けてハ45-11と33のままにしておく。
空技敞・生産愛知
彗星二二型
飛燕と同様だが、ある意味自爆とも言える。自社工場の火災で仕方が無く誉を搭載。高性能になったが扱いにくい部分も。
三菱
一〇〇式司令部偵察機四型
当然三菱は嫌がった。陸軍からの強い要望で搭載。ウチとこも天山に火星を積まされたんだ。我慢くらいしろ。かなりの高速機でシコルスキーでも捕捉に苦労するらしい。おそらく世界最高性能の偵察機。
そうだ、天山に誉だ。これはいい組み合わせになりそうだ。火星など放りだしてくれるわ。
残念ながら換装されてしまった機体
空技敞・生産中島
銀河
当初は誉の予定で開発していたが、誉が予想外に手間取りハ42に。くっそいまいましい。
他には、無い。どいつもこいつもハ42に行きやがって。誉の小型高性能はどうした。小型機には最適だぞ。まあ天山の時は護が、直近では大型18気筒発動機ハ44の開発も失敗したけどな。大型に弱い中島というレッテルを貼られそうだ。そしてハ44を使う予定だったキ87も当然流れた。
どうするか。そうだ、川崎で双発機やっているな。それに積めないかな。
「毎度。中島です。川崎さんにはお世話になっております」
「こちらこそ。中島さんには飛燕の発動機ではお世話になりました。本日はどういったご用件ですか」
「ハ45を使っていただけないかと思いまして」
「は45ですか。飛燕は良い機体となりました。感謝しておりますよ」
「どうでしょう」
「どうでしょうと言われましても。今やっている機体は要求性能からしてハ112で十分な性能を発揮しています。それに屠龍はハ105ですし。開発の方からもハ45を積むなら新型の方が良いと」
「今やっている機体ではハ112で十分ですか。なら研究中の機体はどうでしょう」
「それもハ112ですな。成層圏戦闘機を目指していて必須である排気タービン過給機が三菱なんですよ。ただ品質が安定しません。安定してもとてもアメリカ製の性能までは届きませんけれどね」
グッハ。これは効いた。ウチなんか三菱よりも・・・三菱は総合企業だからな。ウチは飛行機屋だ。おお、立ち直れたぞ。
「高高度性能があればいいのですか」
「そうですね。安定していればなおいいでしょう」
「社に持ち帰り検討したします」
「良い結果が出ればいいのですが」
「頑張りますので」
「おい、アレどうなった」
「アレって、なんですか」
「マレーで墜落したスピットファイアの発動機。過給器が特殊だっただろ」
マレーやビルマの防空戦で時々回収出来る機体がある。その中に新型スピットファイアの発動機が良い状態で墜落した奴があった。そいつを技術資料として各メーカーに公開したのだった。
中島は過給器に注目。そいつは2段2速過給器だった。
「さすが英国です。ウチでは同じ仕様で作れません」
「ダメか」
「同じ物は不可能です。似た物なら」
「似た物?」
「能力的に7割から8割程度なら」
「それで出来るなら、大至急やってくれ。ハ45に積む」
「いいのですか」
「馬力的にはどう考えても大排気量のハ42が有利だ。このままではウチの発動機はじり貧で終わる」
「そら拙いですね」
「三菱の排気タービンが完成する前に2段2速過給器を実用化してしまう」
「川崎さん。出来ました。渾身の高高度用ハ45-33です」
「21じゃないの」
「何故か21だと上手くいかなくて、11系だと上手くいくんです。それで区別するために制式化で33となっています(海軍は誉三三型だけど)」
「そうですか。試験用の機体に積んでテストしてみましょう」
「お願いします。ウチの社内試験でも良好な高空性能を発揮しました。天雷に搭載するのは海軍も認めてくれました」
「ほう、それならやってみます」
「中島さん。中間冷却器がデカい。形状を変えてもいいですか」
「そういえば双発の天雷用そのままでした。申し訳ない。飛燕に収まるようにお願い出来れば」
「やります」
飛燕二型乙
全幅 12メートル
全長 9.3メートル
全高 3.8メートル
自重 3.3トン
発動機
ハ45-13
離昇出力 1800馬力
1速公称出力 1700馬力/3000メートル
2速公称出力 1500馬力/8000メートル
最高速度 650km/h/8200メートル
627km/h/10000メートル
航続距離 1300キロ 増槽2本使用時2200キロ
上昇力 5000メートルまで6分10秒
武装
機銃
機首 ホ103 2丁
装弾数各400発
主翼 ホ5 左右各1丁
装弾数各150発
爆弾 左右主翼下に30kg~250kgまで各1発
主翼下は増槽との排他利用
ハ45-33は過給器で過給された空気の温度が空気圧縮で高くなりすぎるので中間冷却器を設けた。水メタノール噴射装置とどちらがいいかと試したが、中間冷却器の方が整備性が良く水メタノール切れの問題も無いため中間冷却器になった。ただし場所を取る。
結局飛燕では中間冷却器が機体下面に一部露出。奇しくも液冷の時はラジエターが着いていた場所であった。
中島製2段2速過給器はRRのようにコンパクトには出来なかった。大型化することで能力の差を埋めめた。
天雷二三型
全幅 16メートル
全長 12メートル
全高 4.6メートル
自重 5.8トン
発動機
誉三三型
離昇出力 1800馬力
1速公称出力 1700馬力/3000メートル
2速公称出力 1500馬力/8000メートル
最高速度 335ノット/8300メートル
323ノット/10000メートル
上昇力 6000メートルまで8分40秒
航続距離 800海里
両翼下300リットル増槽2本で+330海里
武装
機首 九九式二号三型20ミリ機銃4丁
装弾数各100発
後方 13ミリ旋回機銃1丁
装弾数250発
雷爆装 胴体下のみ
航空魚雷 1本
五十番または八十番 1発
二十五番 2発
搭乗員 二名
天雷二三型は急降下爆撃のための制動板を取り去っている。爆撃と雷撃は一応出来ますよという態で、搭乗員の雷爆撃訓練も一通りやる程度と実際は高高度戦闘機となった。
日本の量産機中、高度1万で軽快な機動が取れるのは、この発動機を積んだ飛燕と天雷だけだった。他の誉搭載機がハ45-21から載せ替えると性能低下が大きく高高度性能と引き換えるほどではなかった。
軍としては本命であっただろう三菱の排気タービンは量産が効かず終戦までに少数(500基程度)しか生産されなかった。それを取り合うのだから会社辺りの割り当ては少なくなる。更に初期にありがちな故障も多く、排気タービン付きは結局多くても数十機、たいていは数機と増加試作機程度の数しか作られていない。
飛燕と天雷は偶然からとはいえ、終戦まで高高度防空の主役になった。
「天山に誉?うーん。どうするかな。まあ、一一型ならいいでしょう。ただし中島の自主開発という形で頼みます。機体の使用許可は出しましょう」
天山に誉は実現した。カウリングが小さくなり前方視界が「一気に開けた」と搭乗員には評判である。
空気抵抗の低下でほぼ同じ馬力で速度が10ノットも向上した。
ただそれだけであった。
その頃海軍としては雷爆兼用の次期艦攻、愛知・流星(ハ42搭載)に意識が行っていた。
笑気ガス噴射は止めて2段2速過給器を。排気タービンは三菱なので。
天山は打ち止めですね。
次回更新 8月28日 05:00 超予定 無いかもしれません。




