マッチング またの名は 泥縄
あるところでは余り、あるところでは足りない。困難な時期にとても困る。
そんな状態を満足させることをマッチングともいう。あるいは、泥縄的対応ともいう。
以下の状態はマッチングなのか泥縄なのか。
中島の場合
「発動機が余る?」
「はい。天雷の受注数が思ったよりも伸びずハ45-11の生産が過剰となっています。既に50基溜まっています」
「他に使う機体も無いな。しかも生産を止めることもできん」
「部品も同じハ45と言いながら互換性は少ないですし。鍾馗に載せましたがハ45-21が順調で取って代わられました」
天雷は高性能多用途機となっていたが、実戦の結果は対戦闘機戦闘では確実に不利であり対地対艦攻撃はもっと航続距離が長く精度も威力も高い攻撃が出来る銀河や連山があった。結局対大型機となるのだが、配備先にはほぼ飛んでこない。たまに台湾へB-29が飛んできたが何回か撃退した後は飛んでこない。
海軍は優先度が低下したとして発注数を絞った。中島は誉二一型への再換装を目論むが海軍は現状不満無く一一型で行くと言われた。
鍾馗三型
全幅 10.2メートル
全長 9.1メートル
全高 3.4メートル
自重 2.4トン
発動機
ハ45-11
離昇出力 1800馬力
1速公称出力 1650馬力/2000メートル
2速公称出力 1460馬力/5700メートル
最高速度 655km/h/5900メートル
上昇力 5000メートルまで4分30秒
航続距離 900km
両翼下150リットル増槽2個装備時
+350km
武装
機首 ホ103 2丁 装弾数各250発
主翼 ホ5 左右各1丁 装弾数各150発
爆弾 左右主翼下 30kgから100kgを各1発
胴体下に250kgを1発。
生産機数 150機
主翼を改設計しホ5を搭載可能としたほか主脚や尾輪など各部を更に強化した。プロペラは疾風と同じ物を流用している。胴体内燃料タンクの増量で、ハ45搭載による燃料消費量増大に対応した。
ホ5搭載は大阪方面でB-25に攻撃力不足を実感したせいであった。
エンジンカウリングが若干細くなり前方視界が向上した。
望遠鏡式照準器から光像式照準器になっている。
生産は昭和十八年十二月と昭和十九年一月のみ。
鍾馗四型
全幅 10.2メートル
全長 9.1メートル
全高 3.4メートル
自重 2.5トン
発動機
ハ45-21
離昇出力 2000馬力
1速公称出力 1880馬力/1900メートル
2速公称出力 1670馬力/6100メートル
最高速度 670km/h/6200メートル
上昇力 5000メートルまで4分15秒
航続距離 900km
両翼下150リットル増槽2個装備時
+400km
武装
機首 ホ103 2丁 装弾数各250発
主翼 ホ5 左右各1丁 装弾数各150発
爆弾 左右主翼下 30kgから100kgを各1発
胴体下に250kgを1発。
生産中 疾風との生産比率は疾風2に対して鍾馗1。
陸軍機中最速戦闘機となった。疾風よりも高速。
疾風の成功により生産停止となるはずだったが、ハ45搭載により速度と上昇力で疾風を上回り、打撃力も変わらないとして一転生産継続となった。疾風よりも調達費用が安いというのが隠された理由だろうと噂される。
昭和十九年二月下旬から生産開始。
「困ったね。21が快調で載っている機体も多く今更11ではな」
「はい、おっしゃる通りかと」
「どこかに載せてくれる機体は無いかね。少しは値引きもしよう」
「当たってみます」
「頼むよ」
川崎の場合
「困った」
「どうしましょう」
「まさか焼き入れ工場が」
「焼けるとは」
「名古屋で何やってくれたのか」
川崎で製造しているハ40のクランクシャフトは陸軍の資源割り当てでニッケルが使えず不良品の山だった。陸軍も急かしてくるが無い物の代用材料ではどうにもならなかった。そこで、アツタを製作している愛知航空機に相談した。もちろん陸軍には内緒だ。メンツが大事の陸軍にそんな相談すれば相手にもされないだろう。
愛知航空機は生産力増強で焼き入れ工場の強化をしたばかりだった。こちらは資源の制限はなく焼き入れさえまともならまともなクランクが出来ていた。
陸軍の資材担当を抜きにした航空機担当者同士の内密の交渉は川崎と愛知と陸海軍とも合意が出来た。
こっそり愛知のクランクを川崎でも使うようになった。ハ40はこの頃からクランク周りのトラブルが激減した。これには配備先部隊からも好評であった。
そこにこの事故である。もちろん愛知もアツタ発動機の生産が出来なくなってしまった。川崎は従来品のクランクで凌ごうとするも既に製造ラインは他に転用。
ハ40の生産が不能になったことを陸軍に報告した。愛知もアツタ発動機の生産が不能になったと海軍に報告。
その後、各部を巻き込んでゴタゴタがあったがクランクの生産再開を急ぐとして機体のみ製造している。
首無し機体が滑走路を埋め尽くすのも、もうじきだろう。
愛知飛行機の場合
「これではどうしようもないな」
「全くです。狙ったようにアツタのクランク焼き入れ過程だけ焼けるとは」
「焼きがまわっとらんのだろう」
「焼きを入れすぎましたかな」
視察に来た海軍の担当者はアホなことを言って現実逃避をしていた。焼き入れ工場の火災現場である。既に鎮火しどうしようかと言っている頃。
施設の修理には資材の集積を含めて2ヶ月ほどを要し、生産が安定するまでは更に1ヶ月を要すると見積もりが出た。
それまで機体工場を遊ばせておく訳にもいかないので、機体だけは作られるだろう。現に今も絶賛首無し機体が増え続けている。
「ありました」
「はあ?11の充てがい先か。なんであるんだ」
「斯く斯く然々」
「そうか。では行くか」
「は?」
「陸軍と海軍、川崎と愛知だ」
両機とも空冷化なら三菱金星が機体バランス的には適していたが金星の供給余力が足りず、多少無理をしてハ45-11を積むことになった。どうせなら大馬力のハ42を積もうという話も出たが重量と大直径が両機に適していないとされた。
中島からハ45-11の供給が始まり、首無しの飛燕と彗星に搭載されることとなった。かなり前後バランスに苦労して後部に重り代わりの防弾鋼板増量増厚とか機体強化もした。
空冷飛燕と空冷彗星の初飛行は焼き入れ工場の火災から2ヶ月後のことだった。
飛燕二型
全幅 12メートル
全長 9.3メートル
全高 3.8メートル
自重 3.2トン
発動機
ハ45-11
離昇出力 1800馬力
1速公称出力 1650馬力/2000メートル
2速公称出力 1460馬力/5700メートル
最高速度 631km/h/5900メートル
航続距離 1300キロ 増槽2本使用時2200キロ
上昇力 5000メートルまで5分50秒
武装
機銃
機首 ホ103 2丁
装弾数各400発
主翼 ホ5 左右各1丁
装弾数各150発
爆弾 左右主翼下に30kg~250kgまで各1発
主翼下は増槽との排他利用
ようやく機体と出力のバランスが取れたと言ってもいい機体が出来上がった。機体前方の重量が重くなるので後部の防弾鋼板増量増厚などで重量バランスを取った。ホ5の収納空間を設けるため主翼の機関砲周辺にバルジが設けられた。首無し機は4丁ともホ103のままであった。
予定されていたハ140発動機搭載は液冷発動機自体が開発中止となった。
後期型は風貌を涙滴型に変更し発動機も過給器を新型にしたハ45-33に変更。視界の向上と高空性能の向上を果たしている。高度8000以上の高空性能は日本戦闘機中最高と言われた。
後期型は三型とされている事も多いが書類上は二型乙である。
既存機にも過給器の交換を行った機体が多いとの記述と写真もある。
ハ45-21に再換装されなかったのは不思議と言われている。
性能の向上と稼働率の向上があり、部隊から評判が良かった。
彗星二二型
全幅 11.5メートル
全長 10.3メートル
全高 3.1メートル
自重 2.8トン
発動機
誉一一型
離昇出力 1800馬力
1速公称出力 1650馬力/2000メートル
2速公称出力 1460馬力/5700メートル
最高速度 325ノット/5600メートル
航続距離 670海里 増槽2本使用時+450海里
上昇力 6000メートルまで8分20秒
武装
機銃
機首 7.7ミリ機銃 2丁
装弾数各400発
後上方 7.92ミリ機銃 1丁
装弾数75発
爆弾 胴体下 二十五番または五十番 1発
左右主翼下に三番~二十五番まで各1発
主翼下は増槽との排他利用
こいつもプロペラは疾風と共用のもの。丁度都合が良かった。
性能の向上と稼働率の向上があり、地上部隊から評判が良かった。
着艦速度が上がり空母部隊からは「もっと下げてくれ」と言う文句も出た。空中性能には何の不満も無かったようである。
飛燕と彗星の誉換装成功で液冷発動機は不要とされ、生産設備は空冷発動機製造へ転換がなされた。
次回更新 8月27日 05:00 かなり怪しい予定。
ハ42は飛燕と彗星にはデカすぎて重すぎてだと思います。




