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シコルスキー出現

ようやく出てきた。

 日本海軍がシコルスキーを戦場で確認したのは、昭和十九年十二月のマリアナ沖海戦だった。

 十月頃から確認はされていたが、実態ははっきりとしなかった。

 ようやく再建なったアメリカ海軍機動部隊がサイパン島を無力化すべく前回並みとは言わないが大艦隊を繰り出してきた。サイパンを落とせばトラックは枯れると。

 出撃拠点は再びマーシャル。昭和十九年九月に敵襲があり、監視鞘しか置いていないので再びあっさりと奪取される。




 昭和十九年九月


 海軍元帥として奉られてしまった前連合艦隊司令長官。周囲が喪うことを恐れ内地に御鎮座ましました。


「山口君、勝てるだろうね。俺のカンが大丈夫と言ってるが」

「軍神様にそうまで言われれば勝つしかありません」

「俺はまだ生きてるよ。軍神扱いは止めてくれ」

「ですが『山本神社』『五十六神社』の構想も海軍省辺りから漏れ出ています」

「本当か?なんとしても阻止せねば」

「しかし、本当に私でよろしかったのですか」

「君が一番良いとカンが告げた。何より小澤君は現実よりも理論寄りのところがあるし角田君は全艦で突撃しそうな危なさがあるんだよ」

「わかりました。この大命承ります」

「よかった。参謀達は君が指名してくれ。話は通しておく」

「よろしいのですか」

「黄金仮面みたいのを付けられて辟易したよ。自由にやってくれればいい」

「ありがとうございます。宇垣軍令部総長が何か言ってこないでしょうか」

「奴は自叙伝の編纂で忙しいだろうから、大丈夫だろう」


 海軍元帥はもう海軍内に勤務出来る場所がなく、独立した元帥府の指揮を執る海軍元帥という立場にある。元帥であり海軍内では最上位なのだ。上司は大元帥しかおられない。役職に就ければ絶大な権限を掌握してしまう。忖度と追従と阿諛迎合(あゆげいごう)で取り巻きになろうとする者も多いだろう。情けないが海軍士官も人間であり海軍もお役所である。それを避けようと周囲が政治的に立ち回った結果が元帥府として独立すること。いわばご意見番である。いつでもどこでも口を挟むことが出来る立場だが自らはそれをよしとせず、重要事項と思われることのみに関わろうとしている。

 軍令部総長を推薦とか、連合艦隊司令長官の指名とか。退役した殿下の影響は大きいが元帥という立場はその影響を最小に出来た。

 結果、うるさい奴は軍令部総長に押し込んだ。能力を疑っているわけではない。ただ嫌いなだけだった。

 そして、ハンモックナンバーを飛ばして山口多聞連合艦隊司令長官が誕生した。



「偵察は不調か」

「帰還率1割では出せません。現地からも抗議が来ています」


 トラックから長躯マーシャルへの航空偵察の結果ははかばかしくない。九月の奪取された頃なら9割帰ってきたが十月になると異常に帰還率が低下した。逆ガル翼の高速戦闘機が居て銀河や連山では逃げ切れず、グラマンには追いつかれない高速の彩雲や一〇〇式司令部偵察機三型でも未帰還が多数出ていた。これが開戦前噂になったシコルスキーではと言う声も多い。


「陸軍さんに頭を下げる」

「何か策がおありで?」

「一〇〇式司令部偵察機の新型がようやくものになったという話を聞いた」

「それは聞いております」

「では陸軍と交渉だ」


 陸軍と交渉し一〇〇式司令部偵察機四型を5機借りることが出来た。陸軍でも最新鋭なうえに偵察機ということでもともと生産量が少ない。陸軍でもまだ20機程度しか配備していない機体だ。



一〇〇式司令部偵察機四型

全幅       15.6メートル

全長       11.6メートル

全高        4.1メートル

自重        4.4トン

発動機      ハ45-23

離昇出力     2000馬力

1速公称出力   1880馬力/2500メートル

2速公称出力   1630馬力/7200メートル

最高速度     680km/h/7000メートル

航続距離     2400km

         両翼下300リットル増槽2本で+1100km

         両翼下600リットル増槽2本で+2100km


600リットル増槽は銀河用を転用した。       


 ハ45-11搭載は早い時点で着手したのだったが、途中でより高性能の本命ハ45-21が実用化されたことでハ45-21搭載に変更された。これで開発期間が伸びたのだった。更に2速全開高度を上げ高空性能を向上させたは45-23が出来ると変更を指示された。三菱はたまったものではないが発注側の指示である。何度も「実用化が伸びるのが」と聞いても「かまわない」という返事だった。

 大きく重くなったのは発動機自体重くなったのだが、主に馬力に対応するためと航続距離を伸ばすため。そして重くなれば機体も強化しなければということで、原型よりも1トン以上重くなっている。

 現時点で間違いなく世界最高性能の偵察機だと陸軍は自負している。


 それを借りたのだった。


 十月下旬から十一月上旬にかけて行われたマーシャル偵察は成功した。5回出して全機偵察行を成功させたのだ。

 結果は厳しいものがあった。マーシャルに大艦隊が集結している。浮きドックや輸送船も多い。一大作戦を展開しようとしているのは確実だった。前回はこれほどの浮きドックと輸送船は居なかった。

 マーシャルに飛行場も建設されつつあった。本気で腰をすえる気だと思われた。

 この時、追撃してくる単発逆ガル翼の戦闘機をカメラに納めることが出来た。シコルスキーと思われる機体の本邦初写真であった。

 高度7000で一〇〇式司令部偵察機四型とほぼ同等の速度性能を持つ恐ろしい機体であった。しかも建設中でまだ使えないと思われる飛行場で運用されるとも思えなかった。開戦前の想像通り艦上戦闘機として運用されているのだろう。事実と思われ開戦前の海軍の艦戦では勝てないという予想は正しくもあった。ただ、海軍も強風三三型と烈風一一型の実用化でさほどひけはとらないと思われる。十分対抗可能と誰もが思った。




「どこに来るのだろうね。フィリピン目標ならトラックだろう。しかし、輸送船が多いのが気になる」

「マリアナですと我が国の喉元に刃を突きつけられることとなります」

「B-29か」

「成都から北九州まで飛んできました。マリアナからなら本土全域が攻撃範囲内です」

「どちらか迷うな」


 結局フィリピンという線も捨てられず、連合艦隊はトラックとパラオに分散して待機することとなる。




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