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復活の人

 トラック沖海空戦の大勝利と、その後の行動が世界で話題になったことを知って沸き立っている日本国内。


 ようやく退院した人がいた。三菱戦闘機設計のエースその人であった。海軍の姿勢に振り回され溜まりに溜まりきった過労と精神的負荷から、溜まっていたものが爆発し入院から長期療養に至ったのであった。


 退院後、出社の手配も整い出社したエース。

 上司が応接室で待っていた。


「お久しぶりです。長い間ご迷惑をおかけしましたが、本日より職場復帰いたします」

「もう出社して大丈夫なのか」

「医師からも大丈夫と」

「それならいいが…」

「何か?」

「いや、まあ、アレだ」

「十四試局戦ですね、どうなっているのでしょうか、中止と聞き及んでおります」

「うむ。それ以降は君の健康を考えて知らせていなかったのだ。わかってくれるね」

「ご配慮ありがとうございました。それで、何かありましたでしょうか」

「・・ああ、まあ見ればわかる、見れば」


 機体制作現場へ案内した。そして


「なんじゃこりゃ!」


(ああ、やはり)諦めの上司であった。

 

「なんですか、あいつは!」

「あいつは十六試局戦だ。十四試が流れたので苦情を入れたら十六試で帰ってきた」

「それ有りですか?」

「有ったんだよ。君も知っているだろう。シコルスキーショックを」

「ああ、速度がと言っていましたね。こちらは馬力不足で困っていたのにいきなり2000馬力発動機を許可するとか・・・・… ウガー!!」

「どうどう、落ち着きたまえ。そうだ!君に頼みたい仕事があるんだ」

(大丈夫じゃないな。よくこれで退院させてくれたものだ、まだ不安定じゃないか)

「ハ!? 私はどうしていました?それで仕事とは?」

「うむ。実はな、君曰く、なんじゃこりゃとかなんですか、あいつはの機体を元に艦戦にして欲しい」

「アレですか」

(いかん、目に見えて沈み込んでいく)

「確かに新規がいいのだが、時間が無い。海ぐ…いやお客様の都合で早くと言われていてな」

「そうですか…」

(やる気のかけらも見えん)

「川西が強風という艦上戦闘機を作ったのは知っているか」

「え?川西が艦上戦闘機ですと!」

「そうだ。かなり優秀らしい。現場の評判も上々ということだ」

「我が社はどうするのですか」

「十八試艦戦というのを貰ったがな。急ぐのでこいつの改造でも良いということだ」

「コレをやった奴らでは」

「いや、それがな。君が出社してくるというので皆頼りにしているのだよ」

「ほ、ほー」

(こいつ。急にニヤニヤしはじめた。照れとるな。もう一押しか)

「なので君が先頭に立って、こいつの艦戦化をして欲しいのだ。どうなのだ」

「そこまで頼られたのでは是非もありません。やります」

「そうか。頼むよ」



「発動機はこれを使って欲しいと」


ハ42-45

空冷二重星形十八気筒

排気量     54リットル

離昇出力    2450馬力

1速公称出力  2300馬力/2000メートル

2速公称出力  2000馬力/6200メートル

重量      1300kg


備考

機械式燃料噴射装置

水メタノール噴射装置


「これは…」

「どうだ、いけそうか」

「この発動機が有れば」

「そうか、やってくれるか」

「はい。やります。やらせて下さい」

「では、頼む」

「質問いいですか」

「ああ、良いぞ」

「どの程度までの改造は許されるのですか。期限は」

「そうだな。期限は19年春くらいに初飛行できればと言っていたな。改造範囲は間に合えばいいだろう、と思う」

「やってやりますよ。お任せ下さい」

(なんか不安になってきた)

「あの、やり過ぎないようにな」

「もちろん最強の艦上戦闘機にして見せます」

(いかん。聴いちゃいねえ。まあ、いいか)

「では頼む。設計室には言っておく。今日は帰りたまえ。久しぶりで疲れただろう」

「はい。では、これにて本日は帰宅します。ありがとうございます」



 翌日。三菱重工名古屋航空機製作所。


「おはよう」

「「「「お早うございます」」」」

「長い間不在で迷惑を掛けたね」

「「「とんでもありません」」」

「また一緒にやろう」

「「「はい」」」


「でだ、この雷電という機体の経緯を知りたい」

「はぁ。では」

「斯く斯く然々」

「そうか。よくやった。時間が無い中そんなやり方もあったとは驚いた」

「頑張りました」

「見目はあまり良くないがな」

「「「「・・・」」」」

「良い勉強にはなっただろう」

「それはもう」

「この機体を艦戦に転用するという話だが、進んでいるのか」

「えー、それにつきましては、様々な角度から検討を進めておりますが…」

「進んでいない。と?」

「有り体に申しまして」

「何故だね。こいつは艦戦を元に仕立てたのだろう」

「重量問題で躓いています」

「重いのか」

「必要な高揚力装置や着艦フックなどを付けると川西の機体よりも重くなり、同じ発動機ですので」

「不利か」

「はい」

「では、本日の仕事はどうだ。なにか仕掛けている仕事は?」

「こいつの艦戦化です」

「そうか。なら各自明日の朝までにアイデアを出してくるように」

「アイデアですか?」

「そうだ。それを明日、使えるかどうか協議しよう」

「それはやりました」

「やった結果が今だな」

 ・・・・・・・・

「では、もう一度やろう。今度はひとり増えた。私が。増えればまた別の見方が有るかもしれない」

「「「「はい」」」」



 翌日である。


「なかなかこれはというものが出ないな」

「もう何回目ですから」


「これは?」

「なんですか?えーと、薄翼化して空気抵抗の軽減を図り、容積が減る燃料タンクは胴体内タンクの増量で対応する?」

「いけそうな気がするが」

「エース。実は新開発の30ミリ機銃を翼内に2丁搭載という話がありまして、20ミリよりも嵩があります」

「それでもそこまでは薄く出来るのだ」

「やるのですか」

「見たところ、かなり翼内に余裕がありそうだ」

「はぁ」

「そうだ。胴体も細くしよう」

「はあ?」

「入院中、どうやったら抵抗軽減が出来るかをよく考えていた」

「さすがですね」

「ああ、それで紡錘型はエンジンが有ると良くないのではないかと夢で見た」

「え?あれほどこだわっていた紡錘型をですか」

「うむ。プロペラ後流で空気圧縮が起きるだろう。紡錘型はその空気の逃げ道を狭くしているのだ。逆に抵抗が増えるのではないかと夢で見た」

「おお(夢って)」

「ついでに操縦席横を絞って推力式単排気管で排気を流すようにすれば、カウル内の空気もそこを流れるからカウルフラップを大きく開けることもなくなるだろうと夢で見た」

「抵抗が減りますね(また夢かい)」

「そうなるといいな」

「なりますよ(夢見がいいといいな)」

「ではその方向で行こうか」

「はい」



 試行錯誤と試作を繰り返して完成した雷電改どころではない機体は烈風と名付けられた。試験成績が良く即採用となったのだった。昭和十九年四月のことである。


烈風一一型

全幅     12.5メートル 折り畳み時11メートル

全長     10.2メートル

全高     3.9メートル

自重     3.55トン

全備重量   4.9トン

発動機  

ハ42-45

空冷二重星形十八気筒

離昇出力    2450馬力

1速公称出力  2300馬力/2000メートル

2速公称出力  2000馬力/6200メートル

水メタノール噴射装置

   

最高速度   361ノット/高度6100メートル

上昇力    高度6000メートルまで6分35秒

航続距離   1100海里

       300リットル増槽装備時+250海里

       長距離仕様として両翼下に300リットル増槽装備可能

       増槽3本で+700海里が可能 

 

武装     九九式二号四型20ミリ機銃4丁 装弾数各200発 

       両翼下に 左右六番4発ずつ可能


30ミリ機銃は開発中であり、図面上搭載可能となっている。



烈風爆誕回でした。

主翼折り畳み寸法を加えました。

次回更新 8月19日 05:00

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