中部太平洋 我が征くは勝利の大海
勝利するんですよ。
魚雷2本が命中したのはレキシントンではなくサラトガだった。そして酷く速力が低下した。1本は艦中央部だが、もう1本は拙かった。よりによって右舷外側推進軸付け根付近に命中。右舷外側推進軸のどこかに影響が出て1軸は回転しなくなってしまった。3軸は全開で回っていても1軸は停止してブレーキになっている。破孔も中央と艦尾に開いており速力はかろうじて自力発艦できる程度しか出せなくなった。しかも右舷側に抵抗源が出来てしまい当て舵を取らないと直進も出来ない。
だが飛行甲板に損傷はない。現在左右のツリムも取れており着艦は可能だった。発艦も軽荷なら自力発艦可能でカタパルト使用ならフル装備での発艦も可能だった。ただ、急降下爆撃は全て回避出来たものの数発が至近弾となり、舷側の対空火力に損害が出ていた。
サイパン基地航空隊の戦果はそれだけではなかった。
エセックスに銀河6機が急降下爆撃を仕掛け二五番2発と五十番1発が命中。着艦制動装置何基かを吹き飛ばし、舷側エレベーターを半壊させ、前部エレベーターの前に大穴を開けた。具体的には当面発着艦不能になった。魚雷は雷撃機を撃墜するか回避し被雷はなく速力は出る。
レキシントンも無事ではない。飛行甲板中央に二十五番2発が命中。雷撃機が火を噴きながら艦を乗り越えようとしたが力尽きたのか、機首を上げた態勢で機体下部が後部の飛行甲板と接触。機体は飛行甲板に叩き付けられ爆発炎上。それにより火災発生。魚雷は右舷中央に3本命中。大きく速力を落とし傾き炎上している。
35.1任務部隊はサイパン基地航空隊によって空母2隻を使えなくされたのだった。残りの空母1隻は回避運動もままならない状態になっている。防空艦として期待されたアトランタ級のアトランタが配備されていたが1隻では期待したほどの防空力は発揮出来なかった。35.3任務部隊には2隻が配備され高い防空力を発揮した。
35.3任務部隊も一機艦の攻撃で、ワスプ、インディペンデンス、ベロー・ウッドの空母3隻が使えなくなっている。アトランタ級はジュノーとサンディエゴの2隻が配備されており威力を発揮した。3個の部隊中一番防空力が低いと見なされたためで戦艦マサチューセッツとアラバマと共に艦隊防空力の要となっていた。
それも対応出来たのは迎撃で数の減った一機艦1次攻撃隊で機数があまり減っていない一機艦2次攻撃隊の前に奮闘するも沈んでいる。
35.2任務部隊のヨークタウン、ホーネット、エンタープライズの3隻はというと、二機艦とトラック基地航空隊の目標になった。
35.2任務部隊の迎撃指揮官は迷った。どちらも同じくらいのレーダー反応なのだ。そこで速い方が新型機で脅威だろうと予想し、部隊司令の了解を得た上でトラック方面からやってくる編隊を優先目標とした。
使える機数は68機。38機(F4F26機、F6F12機)をトラック方面の敵へ、30機(F4F22機、F6F8機)をもう一つの編隊へと振り分けた。3割程度が戦闘機ならこれでかなりの迎撃効果が期待出来るはずだった。やってくる機体が普通なら。
トラック基地航空隊は零戦34機、天雷16機、銀河14機、連山16機だった。天雷は4機が誉のご機嫌斜めで出撃見送り。トラック基地航空隊が保有する銀河と連山の機数はもっと多いのだが、故障機や索敵と哨戒に多くを割かれ攻撃隊を編制出来たのはこの機数になった。
天雷は爆装だったが、敵戦闘機と遭遇したときには投棄して爆装銀河と雷装連山の護衛を優先するとされていた。天雷搭乗員達は対戦闘機戦闘の訓練はろくにしていないと抗議するも退けられ、敵戦闘機を近寄らせないようにしろと命令される。
そして相当手前から迎撃を受けた。天雷は爆弾を投棄し戦闘機として戦うことになった。天雷には旋回性能は期待出来ない。機首の20ミリ4門をいかに目標へと向けるかが全てといえる。
『天雷隊、上昇し降下で敵戦闘機に当たります』
「了解した。あまり攻撃隊から離れないようにな」
『頑張ります』
だが上昇する天雷を発見したのか一部敵機も上昇してくる。かなりの上昇力だ。対応してきたのはF6Fだった。
これは攻撃隊から引き離したといえるのか。天雷隊を率いる斉藤中尉は思った。何しろ俺は水偵からの転向組だ。他の奴らも戦闘機経験者はいない。正面から撃ちまくるだけだ。
天雷とF6Fがすれ違った後には墜落する機体や煙を曳いて脱落する機体があった。天雷は2機撃墜されF6Fを3機撃墜した。
何だあれは?識別表に無い新型機か。天雷よりも速い?拙い。
「木田一飛、後方は」
『敵機見えません。あ、田中機の後方に敵機』
「警告しろ」
『田中機、後方敵機。田中機、後方敵機』
『反応しました。急降下で振り切るようです』
「アレには追いつけん。近場には見えんな。すれ違いざまに1機落としたと思うが。攻撃隊の上空に帰る」
『はっ』
田中機はF6Fを後ろに急降下していた。
『敵機離れません』
「しつこい。もう380ノットを超えた」
ちょっと振動が出てきた。制限速度が380ノットだから拙いか?
『撃ってきました』
「この速度で撃てるだと?若菜、制動板を出す。敵の動きに注意」
『はっ』
何発か当たりガンガン振動が伝わってくる。
制動板が壊れなきゃいいが。ままよ。同時にスロットルを緩め操縦桿を引く。
速度が落ちる。ギシギシ言ってるような気もする。気のせいだ、きっと。
敵機は下方を追い越していった。が、そのまま逃げた。上昇してくればやれた気もする。いや無理だな。やはり単座戦闘機には勝てん。
さて制動板をしまうか。なんだ?赤ランプのままだぞ。まさか壊れているのか。速度が出ないのはそのためか。拙いな、攻撃隊に戻って護衛してもらおう。
『敵戦闘機離れます』
「よし。上昇旋回して上に出る」
混戦になれば天雷がF4Fよりも優速な事を利用してまず逃げるを選択しそれから反撃をするしかなかった。上昇力も負けていないので、その機動を可能としていた。
天雷16機は敵戦闘機多数を引きつけ十分役目を果たした。6機減ってしまったが。
天雷が敵戦闘機をかなり引きつけてくれたので、零戦が護衛する銀河12機と連山14機は所定の高度を取り攻撃に移ることが出来た。銀河が高度を上げ連山が高度を下げたときには敵戦闘機は機数が勝る零戦との戦闘に拘束され、戦闘機に纏わり付かれずにすんだ。
そこに二機艦第1次攻撃隊が雪崩れ込んだ。上空直援機はバラバラになり機数も負け阻止は出来なかった。
攻撃が終わり機影が消えた頃、35.2任務部隊の数隻から黒煙が上り、数隻は傾いていた。
ヨークタウンは雷撃こそ回避したものの飛行甲板前半部に2発喰らい、前部エレベーターを破壊されカタパルトは使用不能になった。エンタープライズは奇跡的には至近弾のみですんだ。ホーネットは左舷に魚雷2本を受け傾いている。爆弾も1発命中している。サンファンは爆弾が発射管に命中。魚雷の誘爆もあり船体中央部に大きな損傷と火災が発生している。ワシントンは空母にありつけなかった連中の目標にされ魚雷3本、爆弾4発が命中。大きく速度を落とし炎上中だ。そして使える空母が1隻となってしまった。
各任務部隊が損傷復旧と艦隊再編に躍起になっている頃、戦艦同士の砲戦は片がついた。インディアナとサウスダコタの沈没という形で。
一機艦の2次攻撃隊が戦場に着いたのがその頃で、目標になったのは1次攻撃隊と同じ35.3任務部隊だった。
大きく減ってしまった35.3任務部隊所属の戦闘機隊は残弾も少なくなり、残っていない機体もあった。応援に来てくれた戦闘機も同じようなものだった。10機程度各空母から新規で発艦できたが170機という機数相手に有効な迎撃は出来なかった。艦隊各艦の対空砲火も1次攻撃隊により減っておりやはり効果的な迎撃は出来なかった。
ジュノーとサンディエゴが優先的に狙われ次々と黒煙を吐いていた。
そして、空母はワスプ、インディペンデンス、ベロー・ウッド、カウペンスの4隻が沈み、防空巡洋艦ジュノーとサンディエゴが沈没。駆逐艦メイヨー、ニコラス沈没。ナッシュビル大破、ホノルル中破、アラバマ中破。オバノン中破。
35.3任務部隊は壊滅した。
生き残った空母はプリンストンだけで、残存機の受け入れで甲板上は混乱している。
2次攻撃隊は140機が帰投した。
35.3任務部隊への攻撃が終わった頃、35.2任務部隊に二機艦第2次攻撃隊が襲いかかる。
上空直援機は数少なく艦隊防空力も激減した艦隊ではたった90機(艦爆28機、艦攻27機)とはいえ2次攻撃隊の脅威になす術はなかった。
遂にエンタープライズが被弾・被雷してしまい、ヨークタウンも魚雷1本を受け速力が落ちた。ノースカロライナも被弾・被雷した。
35任務部隊は空母11隻だったのに、使える空母が小型空母プリンストンのみとなってしまった。
日本軍の航空攻撃は終わったが、まだ一艦隊が35.1任務部隊を追撃中だった。インディアナとサウスダコタ無き今、阻むものは速力しかなかった。その速力だがサラトガとレキシントンはその快速を発揮出来ず。一機艦に追いつかれるのは時間の問題だった。
一機艦に対抗するために、ワシントンと抽出された巡洋艦と駆逐艦が接近中だ。
その一艦隊はというと、問題を抱えていた。
「武蔵の方位盤は復旧せんのか」
「電路の切り替えと点検をやっていると報告が。艦橋の指揮所が艦橋に被弾した衝撃で使えなくなって、後部射撃指揮所にも切り替え出来なかったそうです。また後部射撃指揮所は主砲管制可能となっていましたが、実際は管制不可能だったようです。どこが悪いのか不明だそうです」
「まだ砲側照準のままか」
大和は大和で上部構造物はボロボロだった。バイタルパートと喫水線下に被害はないが左舷側対空砲火と前後副砲と左舷副砲は破壊され使えない。飛行甲板は廃墟だ。メインマストも倒壊して通信能力が著しく低下している。煙突も途中から排煙が吹き出している。その影響で後部指揮所に熱風が押し寄せ全員退避した。
一機艦では、
「3次攻撃隊は無理だな」
「あまりにもやられました。2次攻撃隊帰投後でないと編成が出来ません」
「今日は無理か」
「そうでしょう」
二機艦では、
「3次攻撃隊はどのくらい出せそうだ」
「戦闘機22機、艦爆12機、艦攻10機です」
「それだけか」
「そうです」
「止めだ。出さん。搭乗員には休養に入るようにな」
「はっ」
一艦隊は放棄され自沈していくレキシントンとサラトガ達を見つめている。勿体ないな俺にくれよ。と思いながら。速力が上がらない艦の維持を放棄し乗組員は味方艦に移乗させる時間が無いので脱出させた。
一艦隊は見捨てられた乗組員の救助をしているのだ。結局、ワシントンとの砲戦は起こらなかった。35任務部隊は撤退を優先したのだ。
救助しても助けた乗組員を乗せるには大和と武蔵の甲板は廃墟になっているので長門が選ばれた。トラックから急ぎで輸送船を呼び寄せている。他の海域でも放棄された艦から乗組員が脱出。一艦隊が分散して救助をしている。
翌日、トラックの索敵網から逃れられなかった35任務部隊は一機艦と二機艦の合同攻撃隊の襲撃を受けた。トラック島から航続距離の関係で銀河のみ22機が出撃した。250機にものぼる航空攻撃をプリンストンだけでは支え切れず生き残ったアメリカ海軍空母はずべて沈んだ。損傷していたノースカロライナとアラバマも沈んだ。さらに2次攻撃隊40機と1次攻撃隊の再出撃となる3次攻撃隊200機がワシントン他を沈めている。
最終的にアメリカ海軍は空母11隻、戦艦6隻、巡洋艦7隻、駆逐艦22隻を喪失した。
マーシャルに逃げ帰ることが出来たのは巡洋艦3隻と駆逐艦14隻だけだった。
最新鋭空母や新鋭戦艦を含む空母11隻と戦艦6隻が沈んだトラック沖海空戦はアメリカ海軍にとって史上最大最悪の敗北となり日本海軍側の損害が少なかった事から「二代目ロジェストヴェンスキー現る」とか「日本海海戦再び」とか「太平洋にアメリカ製バルチック艦隊現る」とか「東郷を継ぐ者」とかいろいろな見出しで世界各地の新聞や出版物の表紙を飾った。
また第一艦隊が追撃よりも救助を優先したことから「名誉ある行動」とか「海の男達はその精神を失っていなかった」とか話題になった。マレー沖でもバダビア沖でもやっているのだが。これは結果オーライで、損傷艦も多く追いつく見込みがなくなり追撃を機動部隊に任せた結果だった。
現実は後処理が大変で一機艦と二機艦のトラック帰投は相当遅くなった。原因は溺者救助。一艦隊が救助してしまったために一機艦と二機艦はわざわざ足を伸ばし溺者救助を行っている。一艦隊はボロボロの艦も多く目の前の要救助者だけで精一杯だったのである。
撤退する35任務部隊が残存艦に拾い上げた要救助者はもちろん多い。だが交戦海面に取り残された要救助者も多かった。およそ600人発見出来たのである。それらを拾い上げトラックに帰投した。
その後、最出撃をしマーシャルに向かったがもぬけの殻。何も残さない見事な撤退劇であった。
トラック沖海空戦でアメリカ海軍太平洋艦隊主力を撃滅することに成功した日本海軍。そこに漸減作戦の影はひとつも無かった。
一方、アメリカ海軍では、大敗北した上に放棄した艦の乗組員の救助を日本海軍に任せたことは問題とされたが、ほとんどが救助されたので見捨てたことはともかく判断は正しかったとされた。
トラック沖海空戦で、日本海軍は名を上げ、アメリカ海軍の名声は地に落ちた。
ご都合主義は終わり、かな。
連合艦隊司令長官は元帥になるのでしょうか。日本に上級大将は無いですし。
次回更新 8月18日 05:00