衝撃情報入る 650km/hのシコルスキーショック
強力発動機採用のために軽微な歴史改変をしています。主に海軍へ。
ハ104は昭和十五年に陸軍で制式化されています。何故海軍でも制式化しなかったんでしょうね?その逆もあったような気もしますが。
昭和十五年師走。
年も暮れると思ったら駐米武官から衝撃的な情報が入ってきた。
アメリカ海軍の試作機が650km/h(350ノット)を出したというのだ。海軍だ。艦上戦闘機に決まっている。と思われた。まあ本邦では局地戦闘機などやっているが、まだ飛びもしない。計画速度が325ノット程度では対抗がやっとと思われた。しかも局地戦闘機で艦上戦闘機では無い。ましてや艦戦の新規計画は無い。零戦では改修で出ても300ノット程度と予想されている。50ノットも違えば戦闘にならないというのが航空本部や搭乗員の見方だった。
艦隊航空戦での不利が見えてきた。漸減作戦で敵艦隊の航空戦力を削りその後も敵艦隊への航空攻撃を行う役目の空母部隊だが、この速度差では勝つことも出来ないし攻め込まれれば艦隊防空も怪しいと思われた。
海軍航空関係者は狼狽えた。軍令部も漸減作戦の構想を変えなければいけないのかと狼狽える。十二試陸攻の問題と併せて漸減作戦は大幅な構想の変更を迫られた。
いろいろな部署で師走ならぬ士走となった年末。
十二試陸攻の問題とは?
漢江攻撃で零戦の優秀さが発揮されたが問題点も浮き彫りになった。簡単に撃墜される九六陸攻と同様の防弾皆無な機体で搭乗員が重傷を負い帰還したものの搭乗員としての命を絶たれた。
以前から有ったが同じ事例が重なり「防弾は必要」現場の声が強くなった。この声を格闘戦性能絶対派や搭乗員や機体の事など数でしか考えない海軍航空関係者も無視できず、零戦と十二試陸攻に十三試艦爆と十四試艦攻にも搭乗員保護と燃料タンクに防弾が施されることになっている。いるが零戦と十二試陸攻はそれによる性能低下が著しい。何故なら絶望的に馬力不足なのだ。なので試作はされても防弾装備の実装はされていない。
零戦に開発が始まったばかりの誉を積もうという話も出るが、誉では重量バランスが取れない。バランスを取れば重くなるだけで翼面荷重も増えたいした性能向上が見込めない。燃料消費量の増大で今の機体では必要な航続距離も確保できないという見込みだった。だいたい即戦力で性能向上させたいのに未完成でものになるのかさえわからない発動機など候補にも出来ない。
零戦には金星装備を命じるしかなかった。それでも大幅な航続距離低下が見込まれている。
十二試陸攻には機体設計と同じ三菱でやっている火星の派生型である陸軍名称ハ104を海軍としても制式化し搭載することとなる。名称は「木星」とした。陸軍は大いに気をよくし統一名称ハ42を海軍に提案。海軍は受け入れた。陸軍としても搭載機がキ67のみでまだ初飛行さえしていない。名称変更に不都合は無い。
この措置により零戦も十二試陸攻も防弾装備を施しても十分な性能を保つことが出来た。両機種とも航続距離の低下は運用方法を変えることで対応するとなった。
この措置によって、零戦は一時的に生産が減少し十二試陸攻は制式化が1年遅れる。十二試陸攻は二式陸攻として制式化されることとなる予定だ。
十二試陸攻の問題は航続距離で、すなわち索敵範囲や攻撃半径が狭くなるということ。計画では九六中攻同様の長い航続距離を持たせたはずだった。漸減作戦の構想はこれも加味したものであるため、新たな機体性能を参考にして練り直す事になった。
現状一番の問題はアメリカ海軍の新型艦上戦闘機に対抗可能な手段が無いことである。
試算ではハ42発動機搭載でも速度を出せないだろうとなった。しかし、新規発動機開発には時間がかかる。ハ42の強化を行うこととなった。
肝心の機体設計であるが。三菱はエース堀越技師が十四試局戦で手一杯。十四試は零戦設計者で海軍も期待しているが上手くいっていない。
そこでほぼ同じ規模の発動機を積んだ水上戦闘機や水上偵察機を開発中の川西に白羽の矢が立った。
昭和十六年三月
水上機が得意なとある会社にて。
「無理です」
「何故だね。待望の陸上戦闘機だろうに」
「人員がおりません。十三試大艇と試製強風と試製紫雲で手一杯です」
「あー。それなのだが。少し方針が変更となった」
「は?」
「アメリカで時速400マイル、350ノットだな。海軍の試作機が飛んだという。当然艦上戦闘機だろう。だが海軍に対抗可能な機体が無い。そこで対抗できる機体を用意することとなった。つまり今、事前打ち合わせに来た十六試艦戦を最優先とする」
「なんですとー!?」
結局、仕事を受けるしかなかった川西である。
海軍も無茶だと思っているのでそれほど過剰な要求はしていない。と思っている。
十六試艦戦 要求概要
1.速度を第1とし、艦上機として安定した発着艦性能を持たせること。
目標速度は330ノット以上。
2.格闘戦性能は求めない。しかし高度な運動性能を追求しないだけで
戦闘機としての使用に耐えるだけの運動性能を持たせること。
3.発動機は統一名称ハ42を使用のこと。
4.航続距離は機体側燃料のみで巡航1000海里。
5.防弾に配慮すること。
6.機体規模は空母艦載機としての範囲に収めること。
7.機銃は九九式二号銃4丁とする。
川西の開発体制を整えるため海軍は試製強風の中止を決めた。試製紫雲はまだ続けている。
川西設計陣に救いだったのは高度な運動性能を追求しないだった。これまではひたすら旋回性能を求められてきたのだ。デカいフロート下げた水上戦闘機でさえも。
後から、川西に文書が届いた。正式な文書である。迂遠な官僚的文章であったが、内容は20文字にも足りないものだった。
『 目標速度に届かなくとも不採用とはしない。』
一方、海軍のハ42採用はいろいろな余波をもたらした。
馬力不足を何とかしようと悪戦苦闘している十四試局戦にハ42の使用許可を出したのである。堀越技師は海軍の姿勢に振り回された結果、精神的爆発を起こして体調不良となり長期休養を余儀なくされた。十四試局戦の完成が危ぶまれる。
三菱は海軍に苦情を入れる。海軍は十四試局戦を中止として新たにハ42搭載と九九式二号銃4丁搭載と防弾のみを必須条件とした十六試局戦を発注した。艦戦に転用可能だとうれしいと言いながら。
試製誉の開発も海軍は力が抜けてきた。十五試陸爆もハ42へ変更の話も出た。完成しない1800馬力弱の発動機よりも制式化されている1800馬力強の発動機へ変更したらどうか、という話だ。それなら完成も早くなるのではないかと。また十二試陸攻の航続距離問題は十五試陸爆の航続距離問題でもあった。十二試が短くなるなら十五試も短くてもいいのではと。
どうしても距離を稼ぎたいなら増槽を機外に複数搭載でしのげばいいとも。
今後、過去作から使い回し機体が出てきますが気にしないようにしてくれるとありがたいです。
次回更新、8月3日 05:00