就寝起床
塩むすびだけの食事をしていると、窓の外がだんだん暗くなってきた。
「あ、まずい。電化製品全滅なんだから、これ日が暮れたら真っ暗になるんじゃ……」
普通だったら家の中の電気を消しても、何かしらの電化製品のランプがついていて真っ暗になることはないけど、この家は電気が来てないから本当に真っ暗になってしまいそうだ。
「えー、なにか電気の代わりになるものは……」
慌てて食事を中断して、懐中電灯やろうそくがないか探す。
「ないか……」
キッチンの棚にサラダ油があったから、何か芯をつければ非常用のろうそく代わりに使えるかもしれないが、そもそも火をつけるマッチやライターがない。
「スマホはライト代わりに使えるけど、これたぶん使った分の電池は減るよな?」
異世界転移ものあるあるの、スマホの電池が減らないシステムだったら良かったのだが、今見たスマホの電池は80%くらいだったから、たぶん電池は減ると思う。
というか、俺が現実世界でスマホ充電器を置いていたようなベッド脇のサイドテーブルに充電ケーブルが置いてあるから、ほぼ間違いなく充電の必要がある。
「仕方ない、さっさと片付けてベッド行っとくか。
チビ、おかわりは良かったか?」
「ワン」
チビは塩むすび1包みで足りたようなので、自分も食べかけだった2包み目の塩むすびの残りを口に入れて水を飲み、チビの水入れだけ残して食器とゴミと残りの塩むすびをキッチンに持って行く。
食器を洗うのは明日でいいだろう。
「はー、間に合った」
ざっと片付けてベッドに移動する頃には、部屋の中はかなり暗くなっていた。
ベッドの足元で長靴を脱ぎ、ついでに脱ぐのを忘れていた麦わら帽子も脱いでサイドテーブルに置く。
「えーっと、パジャマとかは無さそうだったから、オーバーオールだけ脱ぐか」
さすがにジーンズ生地のオーバーオールは寝心地が悪そうだから、オーバーオールと靴下は脱いで、長袖Tシャツとパンツだけになった。
幸い部屋の中は暑くもなく寒くもない気温で、この格好で寝ても問題なさそうだ。
「あ、チビはどこで寝る?
ベッド来る? それかソファとか?」
俺が聞くと、チビはベッドの方にきて「ワン」と鳴いた。
「こっちで寝る?
……よかった〜。
なんとなく不安だったから、チビ一緒に寝てくれた方がありがたいよ。
あ、抱っこするよ」
チビを抱いてベッドの上に上げると、チビはベッドの足元の方に移動して、ぺたんと腹ばいになった。
俺としては一緒に布団に入ってもらっても全然いいんだが、まあそういう控えめなところは今日一日だが一緒に過ごした感じではチビらしいとも言える。
「あ、やばい。本格的に暗くなるぞ。
チビ、カーテン閉めるよ」
ベッド横の窓にかかっていたカーテンを閉じると、やはり部屋は真っ暗になった。
「うわー、本当に何も見えないな。これはもう寝るしかないな」
スマホの電池を節約したいとなると、真っ暗の中でできることは何もなくて、俺は手探りで布団の中に潜り込む。
「じゃあチビ、おやすみ。
また明日」
布団の中からそう言うと、足元の方から「クゥン」という小さな声が聞こえる。
そんなに疲れていないし、さすがにこんなに早く寝れないと思ったが、やはりゲーム世界転生して環境が変わりすぎたせいで、精神的にはそれなりに疲れていたんだろう。
俺はベッドに入ってすぐに寝てしまった。
────────
「コケコッコー」
窓の外から、いないはずのニワトリの鳴き声が聞こえて目が覚めた。
目が覚めた、と認識したと同時に、俺は自然とベッドの上で体を起こしてあくびをしながら伸びをする。
「うわっ、何これ、体が勝手に」
目が覚めたばかりで、起きようとか考える前に勝手に体が動いてベッドから出ていた。
ベッドから降りるといつのまにか昨夜脱いだはずのオーバーオールや長靴や麦わら帽子をつけている。
そのまま勝手に体が動いて、アイランドキッチンに付属していたカウンターチェアというのか、背の高い安定感の悪い椅子に座る。
「いただきます」
勝手に声まで出て手を合わせると、用意した覚えもない朝食──トースト、目玉焼き、ベーコン、サラダにミルクというど定番の洋朝食──を食べ始めた。
「うわー、自動的に体が動くってことは、朝のルーティーンもゲームシステムの一部ってこと?」
「はい、そうです」
声がして隣を見ると、二足歩行でエプロンを付けた姿に戻ったチビが、俺と同じように朝食を食べていた。
よく見れば俺の手も肉球付きに戻っていたので、きっと人間の姿になるのは夕方から翌朝までの間だけなんだろう。
「あ、おはよう、チビ」
そう言いながらも、俺の体はまた自然に前を向いて、朝食を食べ始める。
体は自動的に動いてあまり自分の自由にはならないけど、しゃべるのは普通にできそうだ。
「はい、おはようございます、ポチさん」
チビも隣で朝食を食べながら返事をしてくれた。
「これもゲームシステムってことは、毎朝同じ感じ?」
「はい」
「やっぱり」
例えて言うなら、農園ゲームでキャラの朝のルーティーンがムービーで流れるような感じだろうか。
ゲームのムービーなら2回め以降はスキップできるだろうけど、実際にゲームの世界で生きている俺は、きっとこれからも何回も同じ朝を繰り返すことになるんだろう。
勝手に朝食が出てきたりと便利なこともあるが、自由に体が動かないのはちょっとやっかいだ。
「この時間はわんこ全員が揃いますから、食事中にその日の作業の打ち合わせをしておくといいですよ」
「あー、なるほど。
って言っても、今はチビと2人だし、作業も米作りか塩むすび作りの二択だしなぁ。
あ、チビはどっちがやりたいとかある?」
「いえ、どちらでも」
「うん、まあ、そうだよな。
まあ、レベルアップボーナスで畑をもらえることが多そうだから、追加設置するのに俺が畑の方がいいか。
じゃあ、チビは次にレベルが上がる……いや何か新要素が出たらでいいか、それまで塩むすびを頼むよ」
「わかりました」
そうやって打ち合わせらしきものをしている間に2人とも食べ終え、「ごちそうさま」と手を合わせて席を立つ。
席を立った後でちらっとカウンターを見ることができたけど、食べ終えた食器類は消えてなくなっていたので、朝食に関しては後片付けもいらないようだ。
俺とチビは2人そろって家の外に出た。
今日もいい天気で、太陽は(たぶん)東から上って少ししたところといった感じだ。
俺たちが畑に向かって気をつけの姿勢で待っていると、どこからかめちゃくちゃ聞き覚えのあるメロディが流れてきた。
「うわっ、ラジオ体操か。
高校以来かも。
お、覚えてねぇ……」
久しぶり過ぎるラジオ体操の順番を覚えていなくても、ゲームシステムで体は勝手に動く。
俺はたまに体操内容の順番を間違えそうになって、その度に勝手に自動修正する体の動きに振り回されつつも、チビと2人でラジオ体操を続けた。
犬の目って暗いところで光るんじゃ?と思って調べたけど、少しの光を反射して光るということらしいので、本当に真っ暗だったらもしかしたら光らない?
不明だったので本文中に入れるのはやめておきました。




