――「花火」~夏の思い出――
遠くで鳴る太鼓の音に、胸は早鐘を打つ。
貴方と待ち合わせたいつものバス停。
でも、そこで待つのは“いつもの”貴方じゃなくて、
制服じゃないのが、なんだか不思議に思えた。
「お待たせ」
「…おぅ」
「…?」
黙りこんで他所を見つめる貴方。
何かまずい事でもしたかしら…。
それとも、来るのが遅かった?
待ち合わせまでは後5分…余裕を持ってきたつもりなのに。
「どうかしたの?」
「…別に」
“別に”なんて、答えになってない。
不満顔で覗き込んでみても、貴方は私から眼を逸らすばかり。
なんなのよ、もうっ。
折角一年に一度の『夏祭り』。
今日くらいは楽しく過ごしたいのに――。
新調した“浴衣”に身を包み、いつもより大人しく。
“浴衣で花火!”
二人で決めた『夏の思い出』――。
「行こうぜ」
「…うん」
目を合わせることなく歩き出して、神社の石段へと近づく。
人は予想以上に多くて、人並みに押し流されそうになる。
慣れない下駄に、大和撫子を目指した“浴衣”が邪魔をして、
ちょっとした段差にまで躓いた。
「あっ」
思わず手をつきそうになった私の右手は、
いつの間に傍に居たのだろうか、今は貴方の手と重なる。
どちらからともなく、会話はなくて、
それでもはぐれない様に、転ばない様に、
繋がれた手が少しだけ汗ばんでいた。
さりげなく歩幅を合わせてくれるとこ、
人にぶつからないように人の少ない方を歩かせてくれた事。
そのさりげない“優しさ”が、大好きだった。
「あのさ」
「ん?」
不意に手を引かれ、貴方の息が耳に触れる。
くすぐったいような、甘い時。
「綺麗だよ」
「…!?」
「マジ、びっくりした」
無言の理由を耳打ちされて、頬が熱くなるのを感じる。
“不意打ちは卑怯だよ”
文句の一つも言ってやりたいのに、
その言葉は、“空を彩る光の花”にかき消されてしまった。
「花火っ!」
「きれーっ」
耳をつく轟音と、弾けて消える花火は
まるで泡沫みたいで、
ちょっとだけ切なかった――。
「思い出」
「えっ?」
隣で呟く貴方の言葉が、花火の音にかき消えて
私は顔を近づけて聞き返す。
「っ!?」
突然に触れたのは言葉じゃなくて、微かな熱――。
お互いに赤い顔を、花火で隠しながら微笑んだ。
“一緒だよ”
触れた瞬間、降る言葉。
優しい、優しい、貴方の言葉――。
咲いては弾ける泡沫を見つめながら、
遠い未来を約した二人。
あの日の“花火”はもう見れないけれど、
心に咲いた思い出は暖かい。
いつか弾けて消えるとしても、
今は、この思い出だけを抱いて生きていけるから―――。
こんばんわ^^
今回は短編チックに仕上がっています。
もう、ホントに、寸前まで悩んで、悩んで、悩んだ結果がコレです(汗)!!!
夏の思い出って、あんまりないんですよねorz
最近じゃあ「お祭り」らしいお祭りも近場でやってないし…花火は家から見えないし;;
音だけは聞こえてます(笑)!
今年はTV放映の花火をちょろっと見た位ですね^^;
淋しい夏の思い出でした~。