きっかけと決断 2
母さんからの提案を保留にした僕は、自室に戻った。
無駄に……なんて言ったら母さんが怒るかもしれないけど、全部屋防音設備がしっかりしているおかげで、時間を気にせずに配信やライブ映像をスピーカーで聞いていたこの環境。
今思えばこれすらも、このためのための布石だったんじゃないかとすら思えてくる。
それに、母さんが今やっている仕事も実は知っている。それが僕がやりたがらない理由の1つでもあったわけだけど。
母さんは今、Vtuber業界において2大巨頭と呼ばれる事務所のうちの1つ、『Virtual
Planet』で代表を務めているんだ。
もっと言うと、母さんは代表でありながら自らも配信者として活動している。
そんな母さんを見ているからこそ、自分にはVtuberは難しいと思っていた。
でも、他でもない母さんにVtuberとして活動するための機材を用意してもらった。
それは、自意識過剰かもしれないけれど、僕にもVtuberとして活躍できる可能性を母さんは僕の中に見出したんじゃないかなとも思えた。
まぁ、思い出づくりのために準備してくれてるだけかもしれないけど。
とはいえ、ここまでお膳立てしてもらっておいて、頑なに拒否するのは母さんにも申し訳ないし、ここまでずっとファンで居続けてきたVtuberという存在に対しても失礼になるな、と僕は考えた。
そして、活動するならば生半可な気持ちではやりたくない。
今、こうして時間をもらっているのはやるかどうかを考えるための時間じゃなくて、どういう設定でデビューするかを練るための時間が欲しかったからなんだから。
僕は、防音である自室の環境に感謝しつつ、最も信頼する親友に電話をかけた。
『もしもーし、遥輝がこの時間に連絡くれるなんて珍しいじゃん?どしたの?』
『そうだっけ?そんなことはいいんだけどさ、流唯に報告と相談があってさ』
『報告と、相談?なになに、気になるじゃん』
『実はさ、母さんから配信機材をプレゼント?っていうかもらったんだ』
『配信、機材!?ってことは遥輝もVtuberデビューするってこと!?』
『うん、それが報告。それで、ここからが相談なんだけどさ』
『うんうん』
『僕は、個人勢としてやりたいと思っててさ。そのために色々と設定とか練りたくて、流唯に相談したいんだ』
『おー、それはまた責任重大な相談だね?』
『うん、それでも既に個人Vtuberとしてデビューしている流唯だから、相談したいなって』
『へへっ、そういうことなら任せてよー!……せっかくだったら電話だと味気ないし、会って直接話さない?』
『え?いいけど、どこで?』
『遥輝の家!』
『んー、とりあえず母さんに聞いてみるけど、多分大丈夫だと思うから今から来てくれていいよ』
『わかった!!すぐ行くねー!』
そう言って元気な声が途切れる。なんとなくそんな気はしてたけど、うちに来ることになった親友の流唯のことを一旦母さんに伝える。
「母さん」
「どうしたの?」
「今から友達が来るんだけどいいかな?」
「友達?……あぁ、流唯ちゃん?」
「な、なんでわかるの!?」
「わざわざ家まで来る遥輝の友達って流唯ちゃんくらいしか思いつかないもの」
「くぅ……否定できない」
「そんなことは置いておいて、流唯ちゃんが今から来るんでしょ?いいよ!ちょうど私は出かけるところだったしね?」
「そうなの?」
「うん。だから……いっぱい相談して納得のいく形にしなさい?」
「えっ」
「じゃ、流唯ちゃんによろしく言っておいてね!」
そう言ってそそくさと家を出る母さん。
やっぱり母さんには全てお見通しのようだ。頭が上がらない。
そんなことを考えていると、玄関のチャイムが鳴った。
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