きっかけと決断 1
『今から君もVtuberに!!』
キラキラした表情のアバターを動かしながら、可愛い声でそう宣伝しているのは、ここ数年流行しているバーチャル空間で活動する配信者、Vtuberの募集だ。
今となっては大企業から中小企業まで、様々な形態のVtuber事務所が存在するようになり、街に流れる広告もそれに関するものばかり。
ここまでどこでも目にすると、さすがに飽き飽きしてくる。
とはいえ、こんなことを言いながらも僕もVtuberは大好きで。
なんだったらむしろ普通の人よりもハマってて。
まぁ、僕は見ているだけで十分。
だったのに…………
「じゃーーん!買ってきちゃった!!」
「買ってきちゃったって何を!?」
「ほら、遥輝ってVtuber好きでしょ?だから、したいかなって思って」
「だから、何を!?」
「……配信機材?」
「はいぃぃぃい!!?」
うちの母さんは、いつも突拍子もなく大きな買い物をしてくる。
今住んでる家だって母さんがある日突然「引っ越すよ!」って言ったかと思えば一括で購入していたりする。
その価値観の違いについていけなかったりすることはあるけど、それでもいつも新しいことに挑戦し続けて、結果を出し続けてる母さんのことを尊敬してるし好きでもあった。
だけど、それとこれとは別問題である。
「どう?やるでしょ??」
母さんの問いに、僕は久しくしてこなかった反抗をする。
「……僕はいらないよ」
「……えっ?」
僕が拒否すると思っていなかったのか、母さんは動揺を隠せない。その様子に少し心は痛むけれど、自分の想いを伝えることにした。
「確かに、僕はVtuberが好きだよ。憧れの気持ちだってある。だけど、それはあくまでもそこにある偶像に対しての憧れであって、自分がその存在になりたい!!ってわけじゃないんだよ」
「……それは、本心なの?」
「…………」
そんなこと、言わないでほしい。本当の本当のことを言ったら、僕だって興味ないわけがない。
だけど、普通の人よりも多くのVtuberを見てきた僕だからこそ、憧れるだけで夢を掴めるような世界じゃないことはわかってて。
だからこそ、自分がなりたいっていう憧れは心の奥に秘めてきたんだ。
だから、改めて僕は必要ないって言おうとした。
それなのに、言葉は出てこなくて。
そんな僕の様子を母さんは何も言わずにただ見守ってくれた。
多分母さんはわかってくれてたんだ。
僕がやりたいと思ってることも、それを諦めてただのファンでいようとしていることも。
わかった上で、憧れに挑戦するチャンスを与えてくれたんだ。
そう思うと、胸が熱くなって。だけど、そんな母さんの優しさと想いに今のままだと応えられるだけの自信はなくて。
「母さん」
「?」
「少し、考える時間をください」
「……うん!ゆっくり考えて決めて?私は遥輝のお母さんなんだから。貴方がどういう選択を選んでも、精一杯サポートする」
「うん、ありがとう」
突然舞い降りてきたVtuberデビューのチャンス。
18歳の夏。僕の人生の道は大きく開かれようとしている。
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