78話 オルゼ=スティングレイの愉悦①
ーーー数刻前。
見上げる程の巨大な魔石の前で帝国最強の戦士は悪魔の暴走の対処に合われていた。
「ふぁははははははははーーーッッ!!」
ーーードンッ!!ドンッ!!ドンッ!!
剛腕が振るわれる度に地面が割れ、砂埃が舞う。
「ふぁははははは!!魂だ!!魂!!魂を!!もっとだぁああ!!」
「...」
ダイコーの目は闇に染まっていた。
ギュージ=カルワメ、『五耀星』の五番手にして悪魔。
彼は魂を求めてこの地底に足を踏み入れた、彼とは何度も殴り合い、そして力を競った。
...だからこそ、悲しかった。
「ふははははははははッッ!!ふぁははははははッッッ!!!」
ーーードンッ!!ドンッ!ドンッッッ!!
彼の拳は洗練のかけらもない。
ダイコーは彼をよく知るからこそ、そう思った。
「ふぁははははははひひひひははははははははひひひはははッッ!!!」
ギュージの目から滴る血の涙、口を赤く濡らして笑みを浮かべる姿はまさに「悪魔」。
しかし、それは彼の望んだ姿でもなく、ダイコーは見たかった姿でもない。
ギュージは感染していた。
口から滴る血は誰のものだろう、散らかる骨はなんの動物だろう、彼の「魂」の食べ方はそうでは無かった。
相手を傷つけず、「魂」だけを奪って静かに眠らせるような、もっと優しいものだった。
「ギュージ...どうしてそうなる」
人を殺す、その方法には悪魔である彼なりの誇りがあった。
『なるべく遺体は綺麗に遺族に返す』
今、五体満足な体で死を迎える者は殆どいない。
殆どはファイトで全身傷だらけになるか、玩具のように扱われて原型を留めないか、『獣』に食われて骨も残らない。
「違う...お前の」
死に体に施しを与えるのは彼なりの礼儀であると言っていた。
「それはお前の食べ方ではないだろう.........」
ーーーしかし。
「ふぁはははははははははははははーーーーッッッ!!!」
ーーードンッ!グシャッ!!バギッ!!
死ぬならまだいい、死んで肉体が消え魂となるなら救いだろう、しかし彼の惨状はーーーまさしく尊厳の破壊。
...だからこそダイコーはこのような地獄をまた見たくは無かった。
「...ぐ...あぁぁぁぁあああッッッ!!!」
ふつふつと湧き上がる『獣』に対する怒り、想起するかつての地獄。
「許さんぞ......許さんぞぉおおおおおッッ!!!」
ーーードパァァアンッッ!!
ダイコーの放つ拳はギュージの頭部を一瞬にして弾き飛ばした。
力無く倒れる肉塊を前に、ダイコーはただ佇んでいた。
「またか!?またなのか...!?私は...また地獄を見ろと言うのかァァァァッッ!!がああああああぁぁぁぁあッッ!!!」
ただひたすらに虚空へ向けて叫ぶ、その咆哮はアンダーハイを激しく揺らしていた。
...
..
.
ミークの目の前にはーーー。
「...」
「...」
アイザックが2人いた。
「な、なんか花粉の季節でしょうか〜目が霞んで、最近目の前の人が2人に見えるんです〜」
「エウロペもそうだったし気持ちはわかるけど現実よ」
アイザックではない男、ダウンジャケットに似た装いの下に見えるインナー、そこに浮き出る筋肉は威圧感すら醸し出す。
白い外套のアイザックとは対照的に黒を基調としている姿、そして今まで味わった事のない異様なまでのドス黒い魔力。
オルゼ=スティングレイ、それが彼の名前だった。
「エウロペの言っていた通り、確かに似ているな」
そしてアイザックとは違う、低い声で頷いた。
「あらあらオルゼ君!どうしたのかしら、魔石を持って帰る手段でも見つけたの?」
「!」
アイザックとシオンは気付き、2人はお互いを見合わせた。
ーーーエウロペは特別な収納魔法が必要な事を知らない!
「エウロペ!」
「何かしら!」
シオンが声をかけるとエウロペはぐりん、と振り返る。
彼女は分裂できる。
さらに高い戦闘能力、彼女に攻略方法を知られると大変なことになるのは想像に難くない。
物量にものを言わせて皆殺し、絶対させてはならない。
「私について来ーーー!!
「エウロペッ!!」
その時、言葉が遮られた。
「!?」
「!!」
「どうしたのかしらオルゼ君!」
「不味いッ!!」
オルゼは攻略法を知っている。
ゆっくりと口を開き、シオン、アイザックは口を挟もうと駆け出すーーー。
しかし...
「ーーーお前、失格らしいぞ」
「え」
それは意外な宣告だった。
「ど、どうしてぇ!?」
エウロペすらも驚愕の声を上げた。
「参加者はバンドを外すと失格だとよ」
「そ、そうなのォ!?」
そもそも死なないと外せない仕様だ、バラバラに吹っ飛んだ場合は...運営も想定外だろう。
「えー!ひどいわ聞いてないわ!横暴よ〜!」
子供のように地団駄を踏む「母」の姿は異様だった。
「さっさと帰りな、上の階層へ戻る通路がある」
「ぶぅー!でもルールはルール...仕方ないわね...」
しばらくすると吹き飛ばされたエウロペは次々と集まり、結合して一人に戻る。
肉体、肉が混ざり合い骨が蠢く融合する様子でさえ気持ちが悪い。
「は〜い、それじゃあアイザック君!」
「え!?」
突然名前を呼ばれ飛び上がる。
「もし良かったらだけど、『リトルポイント』っていう私が経営してる孤児院があるの、都合が合うなら遊びにきてね、子供達もきっと喜ぶわ!」
「...」
「それに私も貴方のこと、もっと知りたくなっちゃった」
綺麗な女性に言われたなら、男なら誰でも喜ぶだろう。
しかしその笑顔が、眼差しが、アイザックにはとても悍ましく見えた。
エウロペが去り、束の間の静寂が流れる。
「さて...」
「おい」
「?」
今度はアイザックが遮った。
「お前の所にダイコーっていう鳥みたいな人が行ったはずだ」
「...さぁ?」
そう言うとオルゼは不敵に笑う。
「アイザック...初めまして、かな?」
「お前は...確かオルゼ」
まるで合わせ鏡のように対照的な二人、オルゼは腕を組み余裕の態度でアイザックを見下ろす。
「カルを倒したらしいな」
「!!」
カル...カルヴァトス、彼女が自分にそう呼ぶよう許した名前だ。
「カルの能力を看破した上で、そして感染する事なく討伐に成功した」
「勝ってねぇよ」
「そうか...ーーーところで」
「?」
空気は徐々に重く、そして魔力がのしかかる。
歪む二人の空間、まさに一触即発の状況、シオンもミークも手が出せずにいた。
「あの魔石、どうやって持ち運ぶか知ってるか?」
「...知ってるよ、バンドが必要なんだろ」
「どうするつもりだ?お前は...確か相手を殺さずに勝ち続けて来たと帝都でも話題になっていたが...今回、殺さずにやりとげられるか?」
「あぁ?全員殴って気絶させりゃいいだけだろが」
「ふ...自分の顔でバカなことを言われると、むしろ笑えてくるな」
ケタケタと不敵に笑うその姿、アイザックであるなら絶対にしないだろう故に気持ち悪さも醸し出していた。
「現実を見ていない、その場その場だけのガキ、だがそれが逆に面白い」
「...んで、やるのか、やらねぇのか」
これ以上話すと頭がおかしくなりそうだった、アイザックは魔力を発して構える。
「ーーーだが、そんなお前に俺からのサービスをしてやろうと思う」
「は?」
「こうすればいいんだよ、っていう、手本をな」
「ーーーッッ!!」
その時激しく吹き荒れる風、オルゼの魔力量が上がっていくのが肌でわかる。
「よーーーーく...見とけよ」
その魔力がオルゼに集約...そして...。
静かになった。
...風は吹かない、『死の風』すらも、ただ流れる静寂だった。
魔力の奔流も、殺気も、衝撃もない。
ただ、重たい沈黙だけが落ちる。
――嫌な静けさだ。
アイザックの背筋に、遅れて冷たいものが走る。
そしてオルゼは、ただ一言。
「『魔光電導砲』」
「ミーク!!シオンーーーッ!!!」
「「!?」」
ーーードッッ!!
オルゼの指から放たれる雷撃、それは一直線の光となって...アイザックの真上を通り過ぎた。
外したのではない。
狙いはその先にあるもの。
シオンとミーク。
「あーーー」
そして...。
ーーードォォォォオオオオオンッッ!!
「ぁぁぁぁッッ!!!」
突風、そして肌が焼けるほどの熱風を浴びて最悪の事態は訪れる。
「シォォオオオオンッッ!!ミィィィィィクッッ!!」
「ははははははははッッ!!!」
二人の声が、交差して響き渡る。
次回投稿日は3/20 7:10!!
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