75話 罪禍背負いし淑女と悪魔(4/5)
場所は移り、廃墟となった聖堂の中。
「あはは!!遅い、遅いねモ=ナカ!」
「あくびが出るほど遅いねカ=モナ」
その聖堂を縦横無尽に、そして高速で駆け回る二人組、アイザックとダイコーはその中心で背中合わせになっていた。
道中、この双子と出会し、戦わざるを得ない状況となったためシオンとミークを先に行かせたのだ。
瞬間、ギザ歯が煌めく。
ーーードンッ!!
瞬間、影がアイザックの眼前に急接近。
「ぅおッッ!?」
しかし、紙一重でそれを回避してみせた。
「あー惜しい!」
「カ=モナ、殺気出しすぎ」
柱に姿を隠し、元の速度へ戻る。
「モナカ姉妹だ、帝国内でもトップクラスの戦闘者、『五耀星』の次期候補として名前が上がっていた」
「そ、そうなのか!?」
「ちなみにお前も名前が上がってたぞ」
「マジで!?」
まるで嵐、速度は次第に増していく。
木材が弾け、柱が轟音を上げ、砂埃が舞い、シャンデリアの装飾が雪のように降り注ぐ。
「アイザック、お前も戦闘者なら、この程度1人でなんとかして見せろ!!」
「一緒に戦わないのか!?」
「謝罪はした!詫びとして情報を渡した!それ以上は必要なーい!」
「無責任な!!」
「2人で何話してるのー!?」
「どっちが囮になるかじゃない?」
「ふん...!!」
アイザックは構える、先ほど現れた魔石から発する魔力が邪魔をするためうまく2人の魔力が察知できない。
まるで霧のように姿を掴めず、そして嵐のように素早い。
その時、ダイコーが静かに口を開いた。
「魔力で探知できないなら、直感を信じろ」
「は...そ、そうか!!」
アイザックはすっかり忘れていた、他とは違う自分だけの探知能力を。
「無理無理!」
「無駄無駄!」
「探知はできないよ!」
「魔力の霧が充満してるんだもんね!」
「霧は僕達の得意分野だよ!」
「本物の霧ならもっとよかったのにね!」
さらに速度が増す、もはや目で追うことはできない。
「男はバラそう!」
「女は売ろう!」
「お金になるね!」
「服も売ろう、白い奴の服はきっと高く売れるよね!」
「髪も売ろう、ボサボサだけどマニアに売れるよね!」
「何食べよう!」
「何食べる!?」
「そうーーー
ーーーお肉
「うるせぇッッ!!」
ーーードゴッ!!
衝撃。
アイザックは片方の首を掴み地面に叩きつけた。
「ぐぎゃーーッッ!!?」
カエルが潰れたような悲鳴をあげ、どちらかわからないが片方を鎮圧した。
「なッー?」
同様により足を止めたもう片方、アイザックはその隙を逃さない。
「魔塊弾ッッ!!」
ーーードッ!
「ぐげッ!?」
魔力の弾丸をまともに受け、後方に激しく転がる片割れ。
『死の風』、アイザックは自身に降りかかる厄災、攻撃を事前に察知することのできる第六感に近いものを備えている。
「んで、どっちがどっちだっけ?」
「わからん!」
以前のアイザックなら、なす術もなく殺されていただろう。
だが数々の修羅場を潜り抜けた今の彼にとって双子の奇襲はもはや脅威にすらならないほどに成長していたのだ。
「いいものを見れた!!」
そういうとダイコーは大きく黒い翼を広げた。
「え、どこいくの?」
「私は本来の目的であるオルゼ=スティングレイを追う!!」
「ついて来てくれないの!?」
「お前の戦いを見たかっただけだ!もう満足、ではさらばだ!!」
「なんだったんだ結局!!」
...
しかし、飛び立たない。
「...」
「今度はなに」
「ではさらばだ!!」
ーーーガチャ
翼を畳み普通にドアから出て行った。
「ふはは!予備バッテリーがあるとはいえ魔力は節約するとも!!」
「もうなんか面白いなアンタ!!」
...
そして場所は戻る、アイザック達とはうってかわって空気は冷たく雰囲気は重苦しい。
シュガーの目の前にいたのは、エウロペ。
ーーーしかも、2人。
「なにが...一体何が起こってるの!?」
シオンも動揺していた。『母を騙る悪魔』、そう呼ばれた女が2人に分裂したのだから。
正確にはバラバラになった肉片がそれぞれ再生したに過ぎない、だがその威圧感は言うまでもない。
「どうしたの?すごい汗じゃない!」
「ハンカチあるわよ!あ、塩分補給の方がいいかしら!」
「うるさい...!!」
シュガーは恐怖心を必死に押し殺して構える。
「震えてるわよ?寒いのかしら!」
「おうちにシチュー作り置きしてるのよ!もしよかったら食べに来る?」
「黙れ...本当に...黙れッッ!!」
「待って!」
シオンの静止を聞かずシュガーは駆け出す、狙うは右。
「あら!」
反応するよりと早く無防備な指先を掴んで捻りあげる。
ーーーギッ!
だが、上がらない。
そもそも指どころか、腕が動かない、自分の腕もエウロペの腕も。
「えい!」
ーーーバギィッッ!!
「ーーーッッッッ!!!」
軽く。
本当に、肩に触れただけだった。
それだけでーーーシュガーの肩は音を立てて沈み込み、関節が外れ、腕が力なく垂れ下がる。
遅れて痛みが爆発した。
「ぐっ…ぎィィッ!!」
「貴方のやり方を真似してみたのよ?」
エウロペは首を傾げる。
「肩を固定して、体重を落とすんでしょう? 合ってるかしら?」
「はぁ...はぁ...ぁぁああああッッ!」
ーーーゴギッ!
痛みに耐え、一思いに関節を戻した、外すことができるならはめなおす事もできる彼女ならではの芸当だ。
しかし。
「ふん!」
ーーーバギ!
「なっ!?」
エウロペは自分の肩を自分で外し...
「ほっ!」
ーーーゴギッ!
...そしてはめなおした、シュガーがやったように。
「でもやっぱりすごく痛いわね!他の人にやったらだめよ?」
「ぐ...ぅぅぅぅーーー!!!」
屈辱。
シュガーはこの技術を得るのに何年もかかった、何度も人体を研究し、自身の身体でも試した。
血の滲むほどの努力だった、しかし目の前の女はそれを否定し、我が物として見せたのだ。
「ぐ...ぁぁあああああーーッッ!!」
自分が何度も壊れながら覚えた身体の使い方を、彼女は一度見ただけでなぞってみせた。
そんなはずはないと分かっているのに、胸の奥で何かが軋む、積み重ねてきた時間が、価値ごと揺らいだ気がした。
そして同時に理解してしまう、これは技量の差ではない。土台そのものが違う。
ーーー格の違い
「ガチ...ガチガチ」
これ以上どうしようと言うのだ、相手は増える、自分の技の全ては効かない。
逃げれば助かるかもしれない。出口までは一直線だ、だが、背を向けた瞬間に、自分が自分でなくなる、全てが壊れる。
そのような姿を他人に見せられるか?
否、否、否ーーー
それだけは、許せなかった。
技術も、技も、誇りも、意味がないのなら。
ーーーダンッ!!
踏み込む。
拳を叩き込む。
蹴りを叩き込む。
しかしそれでもエウロペは笑っている。
射つ、打つ、撃つ、鬱、それでも撃ち込む。
「いいわいいわ! 元気な子は好きよ!」
ーーーもう一撃。
ーーーさらにもう一撃。
「もっとよ!!」
その時。
背後で、何かが湿った音を立てた。
ーーーぐちゃり。
シュガーは気づかない。
目の前しか見えていない。
ーーーぐちゅ。
肉が編まれる音。
...その時、シュガーの背後から何かが包んだ。
「は!?」
「え!?」
その異様な、さらに異様な光景をシオンもシュガーも見た。
「なん...で......」
「ばぁ」
目の前のエウロペ2人とは違う、シュガーの後ろにはエウロペがいた。
ーーー三人目
エウロペが優しく包み込んでいた、まるで我が子を包み込むように、愛するように、愛でるように。
「よいっしょ!!」
「ぎ...」
シュガーに抗う力は残っていなかった、肉体ではない、精神が限界だった。
完全に仰向けに組み伏せられ身動きが取れないシュガー、そしてさらに絶望を与えるようにシュガーの視界を覆うもの。
「あらあら大丈夫!?」
「お腹痛いの?」
「大丈夫よ、お母さんがいるからね!」
「すごく辛そう!」
「ごめんね!疲れてるところすごく申し訳ないんだけど」
「貴方の技をたくさん知りたいの!」
「ごめんね!」
「すぐ終わるからね!」
「痛くはしないからね!」
「大丈夫!貴方がバラバラにした分だけ」
「お母さんはげんきになるの!」
「さあ!」
「さあ!」
「さあ!」
「「「「母のお膝元へいらっしゃい!!」」」」
目の前に映る地獄。
しかし、本当の地獄はまだまだこれからだった。
次回投稿日は3/14 7:10!!
なんかオルゼ君の活躍奪われてないです?
皆様たくさん読んでいただいてありがとうございます〜!!
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