74話 罪禍背負いし淑女と悪魔(3/5)
ーーーザァァァァァ
雨。
紅い雨。
その雨を浴びているのは、勝者であるシュガー=ラッシュだった。
エウロペ=バレーナの関節という関節を壊し、動けなくなった所を爆破しバラバラに吹き飛ばした。
「...」
達成感があるわけでもない、ただ自分の目的のために邪魔な存在を排除しただけ。
ーーーバシャッ!
「...」
音のなる方向を振り向くと、エウロペだったものの下半身が落ちていた。
滑らかな黒いストッキングはもはや見る影もなく焼けこげ骨が至る所から露出している。
「無様ね」
その時、自分ではない誰かの足音が鳴る。エウロペではない、誰かの足音、2人分。
「...!!」
「ふぉあ!?」
「な、なにが起きたの...!?」
現れたのはシオン=エシャロットとミーク=キャメル。
ミークは名前だけは知っていた、有名な歌姫だ。
そしてもう片方は...自分を魔導バイクで跳ね飛ばした相手。
「シオン...ここであったが百年目ね」
ちょうどよかった、殺したい相手の1人が目の前に、そして自分が万全のコンディションの時に現れた。
身体は温まっている、2対1だろうと遅れは取らない自信がある。
「さぁ、どちらから...潰してやろうかしら...シオンか?ミークか?」
「...!!」
シオンとミークは青ざめる、目の前の真っ赤な光景を見て恐怖しているのだろう、しかしシュガーは2人を逃す気は無い。
ーーーだが、違った。
「エウロペはそんなんじや死なないッッ!!」
「な!?」
「シュガー後ろぉッッッ!!!」
ッ!?
シュガーは咄嗟に振り返る、血溜まりの光景、異質だが彼女にとっては見慣れた光景ーーーそのはずだった。
「なっ!?」
落ちていた下半身が動き出したではないか。
足をバタバタとバタつかせ地面を引っ掻く、肉片が蹴り飛ばされ、小さな飛沫を上げ、それでも打ち上げられた魚のように、跳ねたり、もがいたりしていた。
そして。
ーーーダンッ!
その下半身は飛び上がり、立った。
「な...何故...何故!??」
関係ない、頭...否、身体の半分が吹き飛んでも彼女は死んでなどいなかった。
「人間じゃ...ない!?」
だがあり得ない、『獣』だろうが、魔族だろうが、精霊だろうが、肉体を持つ者であれば...上半身がバラバラになっても生きてるなんて聞いた事がない、なによりあり得ない。
長寿はあっても、不死身の人型なんて聞いた事がない。
ーーーバシャッ!
「...!?」
「...ッ」
「え...なんで...!?」
シオンもミークも目の前の光景が信じられなかった。
上半身は一瞬にして再構築され、半裸のエウロペが現れたのだった。
「とってもびっくりしたわ!死にかけの相手を爆破できる残酷さ、まさに鮮血女帝ね!」
「なんで...なんで...いや、まさか...!!」
シュガーの頭の中に一つの単語がよぎる。
『奥義』
その者の人生における答え、その具現化。
「ーーーなんて思ってたでしょ?」
「ッ!?」
エウロペに思考を読み取られ、シュガーは思わず後退った。
「でも残念でした!これは『奥義』じゃないのよ、だって私はまだ人生における答えなんて見つかってないし、そんなものに興味はないもの!!」
「ッッ!?な、ならーーー」
間髪入れずにエウロペは答えた。
「この肉体まだまだ改善の余地があるもの、答えには程遠いわ、そして...」
「?」
「私にとっての人生は、我が子を立派な大人に育てる事、その道に果てなんてないのよ」
シュガーは心の中で悪態をついた。
ほざけ、と。
エウロペと関わって姿をくらましたのは戦った対戦相手だけではない。
彼女が経営している孤児院の子供も同様だ。
エウロペは何人もの孤児を引き取り続けているのに、あの孤児院が手狭になったという話をシュガーは一度も聞いたことがない。
さらに――「巣立った」と報告された子供の行き先を、知る者はいない上、そもそも誰かがあの孤児院から巣立ったという話自体、彼女は一度も耳にしたことがない。
ーーー受け入れた。
...は聞いているが
ーーー出てきた。
...なんて事は一度も聞かない。
それが意味するもの。
「...ふざけるなよ、この悪魔ッッ!!」
「あら?」
わかっている、自分と同じだ。
利益のために何人もの命を弄び踏みつけにして来た。
老若男女関係ない、自分が生きるため、成り上がるために殺した子供の数など数えきれない程だった。
この女と自分は罪の重さで言うなら同罪だ、それは分かっているし自覚もしている。
「あらあら...何か、勘違いしてるみたいだけど」
ーーーだが、この女と自分は決定的に違う所がある。
この表情、貼り付けたようなものではない、純粋な笑顔だった。
つまり、この女は自分がしてる事を悪だと微塵も思っていない。
ーーーダンッ!!
「あら!?」
シュガーは一瞬で距離を詰める、対話は不要、理解はしあえないしするつもりもなければ、もうこの女に用はない。
エウロペの腕にはバンドが無かった、先ほどの爆風で腕ごと吹き飛んだのだ。
「お前が不死身だろうが関係ないってーーーいったでしょッ!!」
また爆破する必要は無い、全ての関節を外し、骨を砕いてここに放置するか地中深くに埋めて仕舞えばいい。
その腕を掴み、壊れ物を扱うような迷いの無さで引き寄せる。
そこから先は一瞬だった。肩を押し込み、肘を固定し、関節だけを狙って体重を落とす。
ねじ切れるようにエウロペの腕をへし折った。
ーーーそのはずだった。
「...はーーー?」
なんだ?
突如全身をかける違和感、自分はエウロペの腕を掴んで、そして全力でへし折った、そのはずだった。
いや、へし折っーーてなどいない。
「あらあら」
「なん...で...!!?」
びくともしない。
なんど引っ張ってもエウロペは動かない、まるで大地に根付くようにその腕は全く動かなかった。
ーーーありえない。
彼女は人体のありとあらゆる構造を熟知していた、どこにどのくらいの力でひねれば関節が外れるか、どこにどのくらいの力を加えればへし折れるか。
「なんで...なんで折れないの!?」
だがなんど力を加えても、腕どころか身体が動かない。
「チッ!!」
腕を諦め、関節を外しにかかる。
ーーーガッ、ドッ!!
鈍い音が鳴り、シュガーはエウロペの関節に衝撃を与える。
「ぐ...うぅぅ!?」
だが、関節は微動だにしない。
鉄、まるで鉄のような感触。
ーーー生きた人間の感触ではない。
打ち込んだ衝撃がそのまま腕に帰り、骨が悲鳴を上げる。
「くそっ...くそっ...!!」
「あらダメよ、あまり無理したら!!」
「五月蝿いッッ!!」
シュガーから放たれるありとあらゆる衝撃はエウロペの身体に減り込む。
しかし、どこを打ち込んでもエウロペは動じない、先ほどまで見せた悲痛な表情は全く見せていない。
「ありえない!!人間がこんな強度を持つはずが...!!」
「うーんどうかしら?」
「くッッ!!」
距離を取って立て直す。
ーーードッ!
「え!?」
その時だった、シュガーは何かに引っ掛かり地面にくずれ落ちる。
硬い地に叩きつけられ、軽い悲鳴をあげて、引っ掛かったものを見る。
「なっーーー!?」
視点を落とすと、何かが自分を掴んでいた。
文字通り、手の形をした肉塊がシュガーの足を掴んでいた。
「なにこれーー!?」
否、肉塊ではない、「手」そのものである。
「あらあら?」
「これ?私の手よ〜?スベスベでしょう?」
軽く返したのはエウロペではない、否、正確には目の前に立っているエウロペではない。
自分を掴んでいる肉塊の隣には口のようなものが落ちており、それが言葉を発している。
その時、その手の断面から何かが伸び、ウネウネと周囲の索敵を感知し、口を見つけてはそれを中心とし
自身を編み込んで次第に何かを形作っていく。
「......は?」
それだけではない、口、皮膚、そして目。その組み合わせをシュガーは知っている。
再構築された者の顔を、シュガーは知っている。
「なん...なんで...なんでぇぇ!!」
「あらあらごめんね!びっくりさせちゃったね!」
「そうよねそうよね、びっくりしちゃったわよね!大丈夫?」
同時に重なる同じ声。
ーーーエウロペは、2人になった。
次回投稿日は3/12 7:10!!
悪夢の始まりです
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