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【祝1万PV突破ッ!】勇者は感染してました、魔法使えないけど無限の魔力で抗います ーThe Beasted eMpireー  作者: 鶴見ヶ原 御禿丸
2-3章 龍界地底砲塔マナタン:獣冠祭編

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73話 罪禍背負いし淑女と悪魔(2/5)


 始まったエウロペとシュガーの接戦。


 シオンはシュガーに対し、「死ぬより凄惨な目に遭う」と言及していた。


 しかし、戦場は...


 ーーーバキッ。


「あら?」


 ーーーゴキッバキッ


「あらあら?」


 ーーーバキゴキバキッッ!!


「あらあらあら!?」

 

 勝負は...()()()()()()


 エウロペの腕が伸びきった――その瞬間。


 ーーーゴキッ。


 指先から、第一関節、第二関節へと、

 “掴む”ための構造が順に外される。


「あら?」


 反射的に引き戻す。


 ーーーゴキ、バキッ。


 手の甲が歪み、手首が捻れ、肘の内側で、硬いものがほどけた。


「あらあら……?」


 一度の攻撃と、一度の回避。


 そのたった一動作の中で、腕という機構は指から肘まで、分解されていた。


「これは...?」


 エウロペは一歩退く、片腕はへし折られありえない方向へと曲り、もう片方はありとあらゆる関節を外し、外れない部分は靭帯が切れている。

 力なくぶら下がる腕を見てエウロペは無言で佇み、そして...


 ーーーバキッ!


 へし折られ方の腕を戻し、嬉しそうに口角を上げた。


「凄い、凄いわ!関節を外す速度が尋常ではないのね!いったいどこでそんな技術を覚えたのかしら!」


「...」


 しかしまるで痛みがないかのように飛び跳ねる姿はまさに異様。


「シュガーさん、ますます貴方に興味が湧いて来ちゃった!その技術、なにか高名な家系だったのかしら!」


「...昔は、ね」


 シュガーの声は低く、感情が削ぎ落とされていた。


「“高名な家系”だったわ、人を守るための武術を教える道場の、正統な血筋」


「あらあら、素敵じゃない?」


「素敵?……ふん、あなたにはそう見えるのね?」


「?」


 エウロペの折れた腕が、ぐちゃりと音を立てて元の位置へ戻る。

 だがシュガーの視線は、もうそこに向いていなかった。

 憎き昔の光景。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ーーー昔。


 彼女は兄と共にシャクシ島に孤児として育てられた、高名な武術家の家に養子として迎え入れられた。


 かつては裕福とも言われていたがーーー今となってはまともな環境ではなかった。


 薄暗い道場、畳はすり切れ、柱はひび割れ、壁には代々の師範の名と誇りが刻まれている。

 しかしその武芸は時代と共に取り残され、明日食うものにも困る有様となっていた。


「いいかシュガー、この技は人を殺すためのものじゃない」


 痩せた親、師範の声。


「これは弱い者を守るための技だ、私利私欲のために使ってはいけないよ」


 後を継ぐものがいないために迎え入れらた、その村では日々『ある外敵』から人々を守るためにその武術を磨いてきた。


 しかし、少女の腹は空っぽだった。


 昨日も、

 その前の日も、

 まともな食事なんてなかった。


 “守る”だの、“誇り”だの、

 そんな言葉で腹は満たされない。


「……守るって、なに?」


 シュガーは、拳を握ったまま呟いた。


「守った先に、何があるの?」


 その武術で数々の人を救った、しかし何も貰えた試しは無い。

 礼はされた、感謝もされた、しかし食べ物は貰えなかった。


 ある日、シュガーは賊から一家を守った。血まみれで立っていた彼女に、その家の大人は言った。


「ありがとう、でもうちも余裕がないんだ」


 そして扉は閉められた。


 兄の分も、自分の分も、食べ物はなかった。


 皆がひもじい思いをしている、だが、だったらなぜ自分は見返りもなくその人たちを守るために修行をするのか?

 明日食うものにも迷い、自分と兄は寝ずに働いてやっと果実一つにありいている惨状なのに。


 賊を退けた夜、シュガーは師範に言う。


「どうして、何も貰えないのに人を守るの?」


 師匠は即答する。


「誰かが守らないと、彼らは死んでしまうからだ」


「でも...守ったところでどうなるの」


 師匠は、ひび割れた道場の床を見ながら静かに言う。


「世界はな、奪う者のほうが多い、力でも言葉でも...人は何かを奪って生きる生き物だと言ってもいい


 ーーーだが、それだけではダメだ」


「...」


「それでは、この世界の秩序は保てない。そういう“役”を引き受ける人間がいなければ、世界はもっと醜くなる」


「...」


 シュガーは理解できなかった。


「でもそれって、結局その役まわりの人は損するだけじゃない」


 師匠は、少しだけ微笑う。


「ああ。だが、それをやる人間がいなくなった世界は...見るに耐えないぞ」


 わからない、わからなかった。


 師範の考えはわからないわけではなかった、だが、そういう師範の背中はまるで朽ちかけの枝のように細かった。

 そんなになってまで守るべき誇りなのか?

 そこまで削られてまで貫くべき信念なのか?


 彼女は気づいた。


 ーーー善意とは人を縛り腐らせる鎖だと


 守るため、殺させないため、助けるため。


 そんな制限のせいで、本当に欲しいものが手に入らない。


 ーーーならばそんなものはいらない。


 シュガーは、武術書の隣に、医学書を並べた。


 より多くの人を救うーーーそう表面上は取り繕ったが、実際は違う。

 骨格、靭帯、神経、可動域、“人を壊す構造”を、正確に知るために。


 食うものにすら困り、栄養も行き届いていない非力な自分がどうやって屈強な相手を無力化させられるか。

 どうすれば、一瞬で動けなくなるか。

 どうすれば、二度と立ち上がれなくなるか。


 ーーー師範からは人は殺してはいけないと言われた、なら殺す必要はない、動けなくすればいい。


 それは、道場の環境が彼女に学ばせた現実と、解答だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「道場を継いだ日に、全部壊したわ」


 シュガーは、淡々と告げる。


「建物も、名前も、誇りも」


「あら……」


「だって腹を満たしてくれないものに価値なんてないでしょう?」


 そして彼女は、兄と共にマナタン帝国へ渡った。


 力が、すべてを決める国。


 彼女は医学書で得た知識と武術で幾度となく修羅場を乗り越え、己の地位を築いて来た。

 2度と貧しい思いをしないために。

 

 ーーーシュガーは再び構える。


「私の地位は崩れた、どっかのクソシオンとアホのアイザックのせいで、私の築いたものは全て崩れた...でもまだ立て直せる、私の幸せのために...お前にはくたばってもらうわよ!!」


「いいわね!すっごくかっこいいわ!」


 エウロペ、この女は得体が知れない。


 関節を次々と外されれば人は激痛で白目を剥いてもおかしくは無い。

 しかしこの女は自分の怪我をまるで他人事のように扱う、痛覚がないのか、それとも不死身なのか、それはわからない。


 ーーーだが、関係ない。


 ドンッ!


 地面が爆ぜた、シュガーはエウロペに急接近、2人は至近距離で目があった。


「あーーー」


 ーーードッ!


 声を出そうとした瞬間、エウロペの脇腹が悲鳴を上げた。


「ぁぐーーッッ!?」


 シュガーの抜き手がエウロペの肋骨の間を滑り込み深々と突き刺さる。

 肺が悲鳴を上げ、空気が、胸の奥で詰まる。


 息を吸おうとするほど、

 肋の内側が軋み、焼けるような痛みが走った。


「あ……あら……?」


 エウロペの体が、わずかに前屈する。

 折れてはいない、だが胸郭の並びが狂っていた。


 ーーー呼吸が、できない。


「貴方が不死身だろうが、痛覚がなかろうが関係ない...やることは一つ、()()()だ」


「!」


 エウロペは腕を伸ばすが、


 ーーーバギバギバギッッ!!


 その瞬間その全ての関節の機能を奪う。


「...」


 触れる前に、両肘と両肩が同時に死ぬ。


「……」


 腕がぶらんと垂れ下がり、物のように落ちた。


 しかしエウロペは踏み出す。


 ーーーバギッ、ゴギッ!!


 両膝と足首が一拍で崩れる。


「ッ……!」


 止まらない。


 ーーーゴギ、ミシッ!!


 骨盤がズレ、上半身と下半身の連結が切れる。

 倒れるより速く、シュガーはもう懐にいた。


 ――バギッ!


 鎖骨。


 ――ギシッ!


 肩甲骨。


 ――バキッ!


 胸骨。


 胴体が次々と分解されていく。


「――――」


 声が出ない、肺が動かない。


 それでも、エウロペはまだ生きている。だが戦う力はもう残っていなかった。


「ふふ...すごい...」


 エウロペの口が、何かを言おうとして開く。


 ーーーミシッ


 音が鳴ったのは、喉だった。


「――――」


 声にならない空気だけが漏れる。舌骨がズレ、喉頭が傾き、“声"までも外された。


 叫べない、詠唱もできない、悲鳴すら許さない。


「ーーー、ーーー」


「喋れないでしょう、貴方の声、綺麗すぎて逆にうざいから」


 コヒューコヒューと空気を出すエウロペを見下ろす、まるで死にかけの小動物を見るように冷たい視線を向けていた。

 

「ーーー、ーーー」


「貴方は死ななそうだし、バンドをどうやって外すか、さっきからずっと考えてたけど...やっぱこれしかないわね」


 シュガーは懐から魔石を取り出す。


「爆弾よ、腕だけをぶった斬ってもいいけど貴方はその狂った脳みそも吹き飛ばした方が少しはマシになるでしょ」


「ーーー、ーーー」


 魔石に小さく何かを呟くと、それは静かに光を灯し、少しずつ熱を帯びていく。


「それじゃさよなら、生きてたらまた会いましょう」


 そういうと指一本動かせないエウロペの背中にポトリと落とし、そして踵を返す。

 

 エウロペの脳裏に蘇る孤児院の記憶、愛する子供達、笑顔あふれる庭、最愛の娘。

 

「ーーー、ーーー」


 エウロペは自身の能力も、強みも、なにも発揮できずその運命に身を任せるしかなかった。


 そして...



挿絵(By みてみん)



 ーーードォォォォオオオオオンッッ!!!



「私は鮮血女帝、その由来はただ一つ」


 ーーーザァァァァァ!!


 降り注ぐ血飛沫、シュガーの服が、髪が、そして肌が血塗られていく。


「最後は必ず血塗れになるからよ」


 『母を騙る悪魔』エウロペ=バレーナは...


 『鮮血女帝』シュガー=ラッシュに跡形もなく、そしてなす術なく、吹き飛ばされたのだった。




 


 



 





次回投稿日は3/10 7:10!!


もうちっとだけ続くんじゃ


皆様たくさん読んでいただいてありがとうございます〜!!

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よろしくお願いします!!


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