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【祝1万PV突破ッ!】勇者は感染してました、魔法使えないけど無限の魔力で抗います ーThe Beasted eMpireー  作者: 鶴見ヶ原 御禿丸
2-3章 龍界地底砲塔マナタン:獣冠祭編

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71話 修羅、煉獄の窯の底


 その男は、アイザックの顔で笑っていなかった。


 いや――笑ってはいた、だが、それはいつもの...少し間の抜けた知能のカケラのない猿のような笑顔ではない。


 どこか……粘つくような、ドス黒い視線だった。


「…………」


 シオンの背筋を、ぞわりと悪寒が走る。


 声をかけるべきか、剣を抜くべきか、そのどちらも選べないまま、彼女はその“アイザック”と目を合わせた。


「……どうして、ここに?」


 そう問いかけた瞬間、その男の口角が、ほんの少しだけ――


 上がった。


 ...


 そこから先は、地獄だった。


「⬛︎⬛︎⬛︎ーーーーッッッ!!!」


「やめろ!!やめ...来るなァァァァーーッッッ!!」

「いぎぁぁぁあああああっガガガガガガッ!?」

「い"だい"!!い"だい"!!お願いやめで...!!」


 彼が呼び寄せたのか、それとも魔石の衝撃で集まったのか、大量の『獣』が押し寄せてその場は戦場と化した。


 1人に対して何十という数で抑え込み、解体していく『獣』。それはシオンがかつてチルド王国で見た地獄そのものだった。


「アイザック...!!なんーーで...ッ!?」


 アイザックと思われるその男は『獣』が蠢く災禍の中心にいた、襲われることなく、ただ座り込み腕をーー参加者が遺したーー正確にはそのバンドを静かに見つめていた。


「これは...なるほど...引っ張っても取れないと思ったら、()()()()取れるようになるのか...なら尚更あの魔法使いの考えは的を得ているようだーーーん?」


 何かを感じ取ったとか、その男とシオンは目が合った。


「ーーー」


「...なんだ?...いや、この魔力」


「?」


「そうか...お前、エウロペの子供だな?魔力が似ている」


 違う。


 シオンは確信した、この男は()()()()()()()()()

 アイザックと比べるにはあまりにもその男の目は濁りきっていた、例え命を狙われても相手の命は取らないアイザックとは違う。


 人の命を取ることになんの抵抗もない目だ、殺戮者の目だ。


「だが、俺はエウロペと違って目的のためなら...同胞の子供だろうが容赦はせんぞ...だがまぁ」


「?」


「その腕を斬り落として逃げるなら、見逃してやる」


「誰が...逃げるかッ!!」


 シオンは本能で察知した、否、人造人間である彼女の中に眠る英雄の遺伝子が、その信念が、この男は存在してはいけないと言っている。

 剣を構え、その殺気を目の前の男に向ける、男は嬉しそうだった。


 ーーーその時だった。


 ドドンッ!!


「!!」

「ん?」


 ドンッ!


「ーーーッ!!!」


 見上げると、遠くに映る光の塊、「魔塊弾」だった、先ほどの爆音はこれだろう。


 否、それだけではない。


 ーーー2発...一拍、1発ーーッ!!


 それはアイザック達と交わしていた合流の合図。


「...!」


 シオンは剣を収めてその場から撤収、踵を返して走り去る、落ち着きを取り戻し自身の目的のために、その本能から逆らった。


「逃げられると思っているのかッ!!」


 ーーードォォォォオオオオオンッ!


「ふぁあははははははははッ!!!」


 入れ替わるように現れた巨体の男、否、悪魔。


「魂だッ!!魂が溢れでいるぞ!!さぁ食われたい奴は前へ出ろォォォーーッ!!!」


 その声量はまさに咆哮、『獣』は一斉に向き直り、その悪魔に向かって走り出す。


「⬛︎ーーーッ!!」

「⬛︎⬛︎⬛︎ッ!!」

「ーー⬛︎⬛︎⬛︎!!ーー⬛︎⬛︎ッ!!」


「威勢があってよろしい!ではまずは貴様からか!?」


 ーーーグチャッ!!


「不味い!次はお前か!!」


 ーーードパァンッ!!


「これも不味い!もっともっともってこぉぉおおおおい!!」


 次から次へ襲い来る『獣』を叩き潰し吠えるその姿は、それは悪魔というより『魔王』に近い。


「ふん」


 死んだはずの参加者でさえも起き上がり、悪魔に対して牙を向く。しかし彼は意に介さず1人ずつ、丁寧にその頭を叩き潰す。


「不味い!!不味い!不味い!!これも不味い!!!」


 ーーードガッ!グチャッ!ブチュッ!!バキッ!!


「ふぁはははははははーーーッッッ!!!」


 そしてその悪魔の笑い声はそのフィールドはおろか、上階の帝国にまで鳴り響いていた。


 ...


 ..


「アイザック!ミーク!!」


「「姉御〜〜ッ!!」」


 アイザック、シオン、ミークはやっとの思いで合流することができた。


「2人ともなんで合図送らなかったの〜〜!!」


「ごめんよー!」

「色々あったんです〜!」


 こうして再会を喜び合い、お互いの情報を共有する。


 ダイコー=オーディーンがアイザックを『オルゼ=スティングレイ』と勘違いした事。


 ミークとガレットがその場に乱入し、三つ巴の戦いになった事。


 魔石の詳細、優勝するための条件、そしてシオンが見たアイザックの姿をした男。


 その男が『獣』を引き連れて現れた事。


「え...俺とそっくりな奴いたの?」


「えぇ、おそらく...そいつがダイコーが間違えたとされる『オルゼ=スティングレイ』...」


「アイザック君そんなことしてたんですか?」

「話聞いてた?」


「とにかく、そいつは『獣』の中心にいたのに奴らに襲われなかった...どうしてだと思う?」


「...」


 当然だが、『獣』は共食いしない。


 それを前提にアイザックは一つだけ心当たりがあった。


挿絵(By みてみん)


 カルヴァトスだ、彼女と同じであるなら...。


「ーーー『適合者』」

「!」

「うん、私もそう思う」


 『獣』の症状が進んだ先に見える境地。


 人格と記憶が戻り、見た目の人と変わらず、しかし非感染者に異常なまでの敵意を持つようになる状態。

 その敵意は人格に影響を及ぼす場合もある、カルヴァトスのように。


「どうする?ていうか...不味くないか?」


「えぇ、問題はもう一つある」


 シオンはバンドを指差す、人によって色は違うが、共通して薄ら光輝いている。


「魔石に対して収納魔法を使うにはこのバンドを...参加者全員分集めないといけない...()()()()()


「!!」


「うぅ...」


 ミークはバンドを取ろうとすると、そのバンドはびくともせず、引っ張っても叩いても壊れることはなかった。


「オルゼ...奴が言ってた、殺すと外れるって」


「このバンド、身体から微弱な魔力を吸い取って光ってるんです。その魔力が鎖みたいにバンドと体を繋いでて……生きてる限り、ずっと流れ続けてます」


「なるほど、魔力が止まると――」


()()()()()()


「正確には...腕を切り落とせば殺す必要はないですけど...そんな余裕ないですし」


「大量出血でまず死ぬな」


 その場に、鉛のような沈黙が落ちた。

 このルールの下では、『獣』でなくとも誰かを殺さなければならない、という現実だ。


「ーーーていうかさ」


「?」


 その時アイザックは口を開いた。


「もうやめにしねぇ?」


「え?」

「ほえ?」


 それは突然の提案だった。


「要するに全員ぶん殴って気絶させりゃいいんだよ、殺すことも腕切る必要もねえ」


 アイザックの目は死んでいなかった、絶望的な状況でさえも何も考えずに前に進める、それが修羅場を潜り抜けて来た彼の強さの一つだ。


「ーーーぇぇ、そうね」


 シオンは安心しきったような顔でアイザックを見つめていた。


「ん?なんだ?」


「いいえ、何も?」


「なんだよ」


「やっぱあんたはその顔が一番いいわ」


「何!?シオンどした!?」


「なんかシオンさん変です〜!」


「なーんにも?」


 このような状況でも、三人は和気藹々としていた。


 ーーードォォォォオオオオオンッッッ!!!


 突如鳴り響く轟音、三人は咄嗟に臨戦体勢に入り着弾地点に向けて構える。


「素晴らしい、素晴らしい精神だ!!」


「!?」


 その砂煙から聞こえた見知った声、アイザックは先ほど聞いたばかりの声。


「見つけたぞアイザックッ!」


「ダイコーッ!?」


 ダイコー=オーディーン、彼が黒き翼を広げ現れたのだった。


 ...


 ..


 .


 同時刻。


「まさか...あなたもいたなんて」


 シュガーはガレットと共に魔石のある場所へ戻ろうとしていた、状況判断と、引き寄せられてきた参加者を狩るために。


 しかし、一つ誤算があった、それは戻る道筋に出会ったもの。


 ガレットはシュガーの前に立ち構えるも、シュガーはそれを静止し一歩前に出た。


「貴方の参戦くらい、考えとくべきだったわ」


()()()()、私も別に参加するつもりはなかったのよ?でも私のお友達が私の口座を勝手に使っちゃってね、8億くらいだったかしら...さすがに痛いわよねぇ」


 目の前にいたのは、暖かく包み込むようか柔らかな視線を持った狂人。


『母を騙る悪魔』エウロペ=バレーナがそこにいた。

 

挿絵(By みてみん)

次回投稿日は3/6 7:10!!


皆様たくさん読んでいただいてありがとうございます〜!!

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