70話 バンド争奪戦!!
帝国の中心に築かれた大闘技場、かつて剣闘士が血を流したその円形の奈落は、今だけ観覧席へと作り替えられていた。
その中央――宙に浮かぶように展開されたのは、幾重もの魔法陣が編み上げた《映像の水晶陣》。
淡く青白い光の膜の中に、さらな地下世界の光景が映し出されている。
人々は、そこに現れた“それ”を見た瞬間、息を呑んだ。
「……な、なんだあれは……」
「嘘だろ...!?」
「街が……いや、違う……」
「誰が持って帰れんだよ...!!」
荒廃した廃墟の景色の中央に、
山のように聳え立つ、異様な光の塊。
脈打つように明滅し、周囲の空間さえ歪ませるほどの魔力を放つそれは、誰の目にもはっきりと――
魔石だった。
「デカすぎんだろ...」
「見たことがない……」
「あれ一つで、国が買えるぞ……」
どよめきが、波のように観客席を駆け巡る。
あれが何を意味するのか、そしてこの大会の“本当の恐ろしさ”がどこにあったのかを。
誰もが今になって理解し始めていた。
特等席で界帝ミカードはそれらの反応を見てほくそ笑む。
「いい反応だ、用意した甲斐があった」
隣に佇むチクアーノはただ淡々と、眉ひとつ動かさずに口を開く。
「しかし、あれだと誰も持ち運べないのでは?」
「いい質問だ、大丈夫だよ、ちゃんと方法はある」
「?」
「それに気付いた時、さらに残酷な展開になるだろうがねーーーさぁここからが本番だぞ、楽しんでくれたまえ!!」
...
最初、それは岩山だと思った。
荒野の向こう、靄に沈む地平線の端で、不自然に盛り上がる黒い塊。
だが、目を凝らした瞬間、それが地形ではないと分かる。
...光っている。
遅れて、空気がざわついた。
距離があるのに、肌の奥を撫でるような圧が伝わってくる。
アイザックは無言で立ち止り、そして
「でがぁぁぁぁあああああーーーッッ!!??」
アイザックは驚愕の声を上げた。
ただ、あの“塊”が、周囲の景色から浮き上がるほどの存在感でそこにある。
「なんだ...あれ!?あれが魔石なのか!?アレを持って帰るのか!?」
ーーードォォォォオオオオオンッッ!!!
「ふぉあああ!!?」
さらに響く轟音、左を向くと同じような魔石が遠くで現れた。
距離があってもわかる、まるで建造物と見紛う規模の巨大魔石、それが意味するもの。
「も、もしかして魔石って全部そうなのか!?」
「ちがいますよ〜〜!!」
空から呼びかける声と共に降ってくる少女、ミークは埃まみれになりながらもアイザックの元へと戻った。
「ミーク!!ぶーー
「無事ですよ〜」
「いや俺が聞こうとしてたやつ先読みしないで!」
「魔石は普通お手頃サイズが殆どです!あんな大きすぎる魔石は私も見たことがありません〜〜!!」
ミークは必死に手を動かし、サイズを示すような形を手で作る。
「な、なぁアレどうしたらいい!どうやって持って帰るんだ!?」
「ど、どうしましょう!!私も収納魔法は使えますけどあんなでかいもの入るかどうか...!」
「とりあえずシオンと合流しよう!ーーーあぁ!?」
シオンを探すために魔力の探知を始めるーーしかし。
まるで霧のような魔力の渦が周囲に広がっている、なにも感じ取れず、当然シオンも見つからない。
「な、なんだこれ!?」
「これ...あの魔石から漏れ出てる魔力の残滓です!これじゃあ探知ができません〜〜!!」
「性格が悪すぎるーーーッ!!!」
「クソです〜〜〜〜ッ!!」
アイザックとミークはどうしようもなく途方にくれるーーーその時だった。
ーーーズンズンズンズンッッ!!
連続して鳴り響く振動、アイザックとミークはその方向を振り向いた。
「なんだ!?」
「ものすごい魔力が向かって来てます!!」
そしてそれは姿を現したーーー。
「あふぁあはははははははーーーッッ!!!」
ーーーズンズンズンズンッッ!!
全身真っ赤、二本角のはえた筋骨隆々の大男が陽気に大地を踏みして疾走、男が2人に気付くとその足を止めた。
「おはようッ!!」
「お、おはようございます!」
「おはようございます〜」
「君達は良い魂をお持ちのようだ!とても食べ甲斐がある!!」
「なっ!?」
突然の捕食宣言、2人は身構える、しかし男には闘気も殺気も感じられない。
男はニカッと笑った。
「しかし私は質より量派でね!君たちは見逃してあげようッ!」
「は?」
「清き魂に免じてアドバイスだ少年ッ!!あの魔石にはしばらく近づかない方がいいぞ!」
「え、なんで?」
「魂がそこに集中している!悪しき魂も、良き魂も、腐り切った魂も、まとめて集まっているようだ!!」
腐り切った魂ーーー
「『獣』も集まってるのか!?」
「そうだ!私は満漢全席を楽しみたいので失礼する!機会があればあい見えようぞ!ふぁはははははーーーッ!!」
ーーーズンズンズンズンッッ!!
「何今の...」
そして男は嵐のように立ち去っていった、残されたアイザックとミークは呆然と立ち尽くしていた。
...
..
シオンは後悔していた。
魔石の様子を見に戻った事を。
目の前に映る光景、それはーーー。
ーーーダンッ!!
「いぎぃいいいぃぃーーーッッ!!??」
腕の断面を抑えた泣き喚く参加者、その首を落とす戦士、さらにその戦士に群がる『獣』。
そんな光景がどこかしかも、まるで食物連鎖を辿るように、至る所で発生していた。
その絶望は次から次へと伝染し、逃げ惑う参加者一人に対して数十という数で追いかけ周す『獣』。
阿鼻叫喚の地獄の中心にシオンは立っていた。
...
..
時は遡り、シオンは衝撃が収まってから魔石の所へ引き戻したのだった。
そこにいたのは後から集まった複数の参加者、しかし誰も争う様子は無い。
「なぁ、今回の優勝者なしなのかな」
「そんなはずはない!必ず解決法はあるはずだ」
「収納魔法使って見たけど、やっぱデカすぎて無理だわ」
参加者は各々の得意分野で試行錯誤するもうまくいっていないようだ。
「ん?あれ?」
しかし、参加者の1人はある異変に気付いた。
「どうした?」
「ほら、魔石の中心に数字が見えますか?」
「んん?」
リーダーと思われる男は魔石の中を凝視する、するとよく見ればある2つの数字が見えた、数字の間にはスラッシュマークが一つ。
「それがどうした?魔道具みたいに型番でもあるんだろ」
「いえ、その二つの数字の片方」
「それが?」
「偶然...でしょうか?」
「ん?」
その数字に書かれていたものは...
「 25/168 」
「『168』これって参加者の人数じゃねぇか?」
「ーーーそこッ!」
「...!」
魔法使いの1人はシオンを発見した、先ほど魔法使いとは別にこの女性はこの魔力の霧の中でも探知できるほど長けているようだ。
「...はぁ」
シオンは諦めて彼らの前に姿を現し口を開く、周囲の参加者は殺気だって各々の武器を構える。
「その『25』の数字は、私と貴方達、んでそれの下敷きになった参加者の数」
「何?」
「ありがとうございます、それなら納得です」
「つまり?」
魔法使いは静かに魔石を撫で、それに反応するようにバンドは光る。
「おそらく、おそらくではありますが...この数字は...人ではなくバンドに反応しています」
「何?」
「人じゃないのか?」
「人なら、そこで下敷きになって死んだ人にも反応してるのはおかしい、このバンドは柔らかいので潰れてても反応はします」
隙間から滲みでる血を無視し、腕にはめられたバンドを指でつつく。
「このバンド、実は術式が施されてまして、もちろん先ほどの探知系統もありますが、中途半端に仕組まれた収納魔法の術式が入ってました、そしてこの数字、ここまで言えばわかりますね?」
「ふむ...あ、なんとなくわかったぞ!」
「そう、全てのバンドに含まれた術式、この魔石に仕組まれた術式を合わせれば特殊な収納魔法が起動し、この魔石を持ち運べるようになるというわけです!!」
「「おぉーー!!」」
拍手喝采。
「つまり?」
「バンドを集めればいいわけですね!!つまりーーー
ーーーザンッ!!
...
..
その時、魔法使いの腕が落ちた。
「ーーーは?」
「つまり、奪い合うのは魔石ではなく...バンドというわけだ」
断面から噴き出る鮮血、数秒遅れて理解した魔法使いの表情は次第に険しくなり、そしてーーー。
「あああぁぁぁぁぁあああああーーーーッッッ!!??」
泣き叫んだ、吠えた、絶叫した。
魔法使いは痛みから逃れんと腕を押さえて疼くまる。
「なっ!?」
「誰だッッ!!」
「えーーー」
そこにいた人物、シオンはその男を知っていた。
その目つき、その髪、見紛うはずもない。
だからこそ、何が起こっているのかわからなかったーーー。
「な...なんで...!?」
そこにいたのはーーー。
「アイ........ザック....!?」
次回投稿日は3/4 7:10!!
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