56話 この世の春が来た!
ーーードゴッ!
「うぎゃあッッ!」
「あ、ごめん!!」
意図しない衝撃にアイザックは対応できず背中から地面に叩きつけられた、背骨と筋肉がミシミシと悲鳴を上げる。
「こ、こっちこそごめん...ちょっと暴走してた」
「待ってて、果実水買ってくるから」
展望台と思われる広場、腰掛け階段に腰を下ろし露天で販売していた果実水を受け取るとそれを口に含んだ。
「...うっま」
酸味の奥に爽やかで濃厚な甘味が口の中で何重にも重なる、その一杯が、これまでの旅で溜まっていた疲れを洗い流すように、アイザックの身体を静かに落ち着かせていった。
「でしょ、私も好きなんだ」
「改めて...さっきはごめん、ちょっとでしゃばりすぎた」
「ほんとだよー、一応私でもアイツは簡単に倒せたんだよ?」
「マジッ!?」
「アイツ、「リベンジ」って言ってたじゃん」
「そ、そういえば...」
つまりあの場は別に自分が介入しなくてもなんとかなっていた可能性が高い、そう思うとだんだんと恥ずかしくなりアイザックは顔を赤らめた。
「恥っず!!」
そもそもBP制のストリートファイトは、登録者同士でしか成立しない(アイザックはシオンによっていつのまにか登録させられていた)
非戦闘者にファイトを申し込む事自体違反なのだ。
申し込み、彼女がそれを承諾した時点でファイトは成立だ。
要するに、アイザックの乱入は、誰が見ても「余計なお世話」だった。
「恥ッッず...うわっ!!恥ッッずッッ...あぁぁぁあ!!!」
「あっははははは!!」
恥ずかしさで転げ回るアイザック、それをカルヴァトスと呼ばれる少女は大爆笑。
「必要なかったけど、...ふふ...助けてくれてありがと」
「ど、どう致しまして...」
「君名前は?」
「アイザック」
「アイザックーー何?」
「アイザックだ、ただのアイザック」
「ふぅん、じゃあ私はカルヴァトス、よろしくね」
2人並んで、街を見下ろして飲む果実水は、それは1人で飲むよりもとても美味しく感じた。
地底では時間の感覚がわからない、それゆえに今が昼なのか夜なのかもわからない、夜空を『機構星騎士』が飛び交うその景色を竜骨が見下ろしていた。
「お礼、しよっか?」
「お礼?」
「うん、一応助けてもらったし」
「うーん、そうだな...じゃあダンス!ダンス教えてくれよ、さっきの」
アイザックが思い浮かべたのは、先ほど見惚れていたあの演舞だった。あれを、もう一度間近で見たい――いや、できるなら身につけたい。
「あっはっは!君本当に面白いね!」
「そ、そうかな」
「でもだーめ」
「え!」
「だって私一応アレでも稼いでるからさ、プロとして教えるわけにはいきませーん」
「せ、正論!!」
「でも、簡単なステップの踏み方なら教えて上げる」
「ほんとか!?」
「はいはい、落ち着きなって」
彼女はアイザックの手を取った。
暖色の光に照らされ、二人の影が石畳の上で並ぶ。
「……えっと、右?」
「違う違う、今のは左」
「え、あ、そっち!?」
アイザックの足がもつれ、思わず一歩下がる。
「ははっ、力入りすぎだよーダンスじゃなくて地団駄踏んでるみたい」
「む、難しいんだよ!」
「ほら、力抜いて」
カルヴァトスは肩をすくめながら、そっと彼の手を引いた。
指先が触れ合い、自然と離れなくなる。
「相手を見るんじゃなくて――一緒に進む感じ」
「一緒に……」
半拍遅れて、二人の足音が重なった。
最初は小さく、確かめるようなステップ。
それでも次第に、石畳を打つ音が揃っていく。
「……あ、今の、いけた」
「でしょ?」
カルヴァトスの声が弾む、彼女は一歩大きく踏み込み、くるりと向きを変えた。
「ついてきて」
「ま、待っ――」
言葉とは裏腹に、身体は自然と応じていた。
足は考えるより先に動き、さっきまでのぎこちなさが嘘みたいに消えていく。
笑い声が、二人の間にこぼれた。
「楽しい?」
「ああ……なんか、すげぇ楽しい」
「でしょ?」
「カルヴァトスはなんでダンスが好きなんだ?」
「うーん、好きじゃないけど生きていくために必要だったからかな?」
「え?」
「ほらほら、リズム乱れてるよ」
「あ!」
音楽は無い、それでも二人は、確かに踊っていた。
灯りの下で、影が重なり、離れ、また寄り添う、ここは2人だけの世界、2人だけの時間。
「カルヴァトス、俺踊れてるかな?」
「うーん、41点」
「厳しい!!」
「まぁまぁ、赤点は回避してるって、あとカルでいいよ」
「あぁ、わかった、カル」
その瞬間だった。
「…………え?」
少し離れた場所。
街灯の明かり落ちる傍らで、ある声が凍りつく。
「ア、アイザック君が……」
一拍置いて、地下帝国に響き渡る絶叫。
「女ひっかけてますーーー!!??」
ミークがたまたま目撃した。
...
..
「...」
「...」
「...」
時は夕暮れ並ぶ食卓、豪勢な食事を3人で囲んでいた。アイザックが稼いだ分が臨時収入ということで初日くらいは豪華に行こうというシオンの提案だった。
「...」
しかし、シオンとミークの視線がアイザックに深く突き刺さっている、しかしアイザックは普段よりもウキウキしながら料理を口に運んでいた。
「ふふんふんふん」
上機嫌でリズムを口ずさむアイザック、それをミークとシオンは静かに眺めていた。
「ごっそさん!」
そういうと食器をシンクに運び軽やかな足取りで部屋を後にした、ミークとシオンはそんな背中をただ見ているだけだった。
「...」
「...ミーク、何今の」
「アイザック君がいうからには『わがよのはる』っていうらしいです」
「ふうん...そうなの」
シオンは黙々と食事を進める、流れる沈黙、シオンの顔を見てミークが口を開いた。
「妬いてます〜」
「妬いてないッッ!!」
シオンが借りた賃貸はこの帝国内で最も人口が集まる住宅街、否、マンションに近い構造となっている。
窓を開けるだけで目の前に広がる無数の窓と人々の生活、それぞれが違った生き方をしている、シオン曰くアイザックとシオンの稼いだ金でもう少し上等の部屋を借りれたそうだが、そこは節制とのこと。
ミークのわがままでせめてリビングの他に部屋が二つある(シオン、ミークの共同部屋、アイザックの部屋)と分けた物件を探したのだ。
数時間、それぞれが自由な時間を過ごした後再び一度に集まる、今後の行動指針を決めるための会議だ。
「俺も明日から変則競技場で戦うから」
「わかった」
「ところでミークは登録してるんだろ?お前はいつから始めるんだ?」
「...えーっと...」
途端に重い空気になる。
「戦えないんです〜」
「え、なんで!?」
「そもそも...戦う相手がいないんです〜」
「そんなことあるのか!?」
この帝国での魔法使いは貴重、この国の食糧自給率を賄っている生産施設では魔法使いは必要不可欠であり、そこでならミークは戦わずとも安全に稼ぐことができるのだ。
それゆえに命が惜しい魔法使いは殆どがそちらの仕事に回るのだそう。
「ミークには私たちが生活できるようにギアスを稼いでもらうから」
「は〜い」
「ミーク、私達の生活水準をあげたいならあなたが頑張るのよ、貴方の働きで部屋はグレードアップしていくから」
「わかりました!!やる気もりもりです〜!」
「もりもりって最近聞かねぇな...」
そして新しい生活が始まった。
...
..
「またですよ」
「あぁ...」
帝国の部隊がある酒場を封鎖し、その現場に佇む。
「今月に入って4件目、『獣』はどこから沸いてるんですかね...」
「わからん」
その目の前に転がっていた、今は沈黙した『堕ちた獣』、この帝都では強者は受け入れども『獣』は徹底的に排除してきた。
だが、今月4件目の『獣』の被害、周囲には噛み殺された犠牲者の身体。
「....」
「どうしました?」
「いや...」
その足元に転がっていた容器...そこに口紅がついていた。
「おい、『獣』とこの容器調べろ」
「わかりました」
そして、運命の歯車は静かに狂っていった。
料理は当番制、作ってもらった人が食器を片付ける役割です。
次回投稿日は2\4 7:10!
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