54話 鮮血女帝
5500pv感謝記念イラストです!!
「いけぇぇぇぇええええーー!!」
「落とせッッ!! 落とせッッ!!」
湧き上がる歓声に囲まれて、男女二人は、
互いに向かい合いながらも足場を確かめることから始めていた。
眩い灯りに照らされたリング、不規則に突き出た細い棒。
一歩踏み外せば、その下には...
「⬛︎⬛︎...」
「⬛︎...⬛︎...」
そこはまさしく『獣』の海、2度と這い上がれない地獄の入り口。
ここは『変則競技場』、ただの闘技場ではない、それは変則ルールの入った殺し合い。
「死ねッッ!!」
「うぉっ!!?」
女性の手には短剣が握られており、男の脇腹を掠めた。男は体勢を崩すが落下には至らない。
「あぁくそ惜しい!!」
「おい死ぬなよ!お前に賭けてんだからなぁ!!」
「くそっ...くそっ...!!」
男は元冒険者だった、『獣』に恐怖を抱く事のない安定した生活をこの帝国で望めると思っていた。
結論から言えば、この男は自業自得だ。
不用意にギアス――金銭の融資を受け、返しきれず首が回らなくなった。
その末路が、BPで命を削って返済するこの舞台だった。
「お願い、落ちて!!子供がいるの!!」
「そんな事...言われても!!」
そして片や相対している女性、彼女は王国の騎士を夫に持つ家庭だった。しかしこの世界が変わってからは家族揃ってなんとかマナタン帝国に入国、夫がBPを稼ぐことで生活していたが、夫が先の戦いで死亡。
自身は体力も魔法の才能も無い、なのでこのマナタン帝国で食い扶持などなく、選択肢も無く行き着いた先がこの闘技場だ。
「落とせ!!落とせ!!」
「早く攻めろ!!お前ら両方とも落とすぞコラッッ!!」
「ぐ...うぅぅぅうううう!!!」
「うぅぅぁ...!!」
罵倒混じりの歓声、耐えきれず2人は叫びながら傷つけ合う、ここはまさに修羅地獄、本来剣を交えることなどあり得ぬ2人が、狂気に駆られ傷つけ合う。
そのリングを最も高い席から見下ろす淑女がいた。
「...つまらないわ」
「つまらないか?」
「えぇ、とおっても」
白磁のように滑らかな肌、淡い色の髪は、丁寧に整えられ、戦場とは不釣り合いなほど上品だ。
そして底知れぬ冷たさを宿した瞳、命のやり取りを“退屈な余興”として眺めている。
名前は『シュガー=ラッシュ』。この『変則競技場』における無敗の女帝、そしてこの地獄の支配者。
「行くわよ」
「...見ていかないのか?」
「相打ちでしょ?」
「...」
その瞬間、このリングで一番の歓声が上がった。
「⬛︎⬛︎ーーーーッッッッ!!!」
「いだい!!やめで!!ぁぁぁああああーーーー!!!!」
「ぎぅぅぅッッッ!!!ぅぅううううーーーぃぃぃいいいいーーーーッッッ!!!??」
「⬛︎...!!⬛︎...!!」
歓声の中心は阿鼻叫喚、2人は同時に落ちたのだ。
女性の剣を男はまともにうけ、女性はバランスを崩して両者落下、『獣』の餌食となった。
事情もストーリーも関係なく、神は平等に2人を地獄へ叩き落としたのだった。
「よくわかったな」
「素人が生きて帰れる場所じゃないのよ、ここは」
シュガーはコートを着込みリングを後にする。白を基調とした洗練されたデザイン、そしてそれはいつでも戦闘が行えるように動きを妨げないよう調整している、いつでも戦場に降りたてるその立ち振る舞いはまさにこの競技場を統べる女帝そのもの。
「そういえばファイトの予約を入れていたな」
「えぇ、競技場のね」
「珍しいな、お前自らが戦うのは」
「そうかしら?でもまぁ、たまには見せ物の一つも出さないとね」
2人は表通りを歩く、行き交う人々、立ち並ぶ屋台、そして一際目立つ人だかり。
「ツォラァッ!!」
ーーーバキッ!
「ぐびゃっ!?」
湧き上がる小さな歓声、半裸の男2人が殴り合っており、民衆がそれに群がっている。
「ここでもストリートファイトか」
「貴方なら何秒でやれる?」
「...1.85秒かな」
シュガーに付き添う男の名前は『ガレット=ヘーゼル』、かつては勇者に付き従う仲間の1人だったが、途中離脱した。
それによって誰にも知られる事のない、至高の戦闘者、「世界最精の弓兵」、それが彼の異名だ。
「...だがエキストラが少ないな」
「ストリートファイトはもう古いわよ、今は『堕ちた獣』をルールに取り入れた変則試合の方が人気がある、まぁ小銭稼ぎにはいいかもしれないわね」
「そうか...時代は移りゆくものだな」
「割と前からこんな感じよ?貴方最近この国に来たから知らなかったのね」
「あぁ...ところで次対戦する相手は誰だ?」
質問をされたシュガーは懐から小さな結晶を取り出す、その中には微かに人影が映っているのが見える。
「シオン=エシャロット、チルド王国にてドリンク=バァ討伐に貢献した戦士」
「勝てるのか?」
「...勝てるか、ですって?」
そういうとシュガーはふっと鼻で笑って見せた、まるで愚問と言うかのように。
「明日始まるのは戦いじゃない...ショーよ」
その時、シュガーは一歩飛び出し、殴り合う男達の間に割り込んだのだ。
「な、なんだお前..!!邪魔すんなッッ!!」
「あ...え...シュガー=ラッシュ!?」
「ごきげんよう、飛び入りで申し訳ないけど貴方達2人にストリートファイトを申し込むわ」
突然の申し出、しかし周りからは歓声が湧き上がり、片や男は頭に血を上らせ、もう片方は力量を理解してるのか後退りしている。
「いくら賭ける?」
「1000万BP」
周りがざわめく、通常のファイトの場合、相場としては2000〜3万BPだからだ。
「足りねぇな」
しかし、男はその額を嘲笑して見せた。
彼にとっても大金だが、それ以上の魅力をこの女性に感じたからだ。
「じゃあ私の身体も賭ける、それでどうかしら?」
その一言と同時に、周囲の空気が目に見えて変わった。
シュガーはコートの襟元に指をかけ、わずかに顎を引く。白い生地が胸元の起伏に沿って張りつき、無防備とも挑発とも取れる隙を生む。だがその佇まいに男は息を呑む。
「...」
だからこそ、男はそのプライドを滅茶苦茶にしてみたいと思った。
「おいやめとけって、こいつやべぇ!!」
「うるせぇッッ!!」
静止する対戦相手を押し除けてシュガーの前に立つ。
「私が勝った場合は?」
「1000万BP、そんで俺を自由にしていいぜ」
男は自分が負けるなど微塵も思ってはいないのだろう、適当に言って見せる。
「なんか割に合わないわね、まぁいいわ」
歓声が湧き上がる、2人の試合、今始まる。
ファイッッ!!
ーーーだが、その試合は2分で終わった。
ーーーバキバキバキィィッッ!!
「ぎゃあぁぃぁぁぁあああぁぁぁーーーーッッ!!!!」
男の腕が不規則ない方向に、無数に折れ曲がる、既に右膝は逆に曲がり、左足首も真横に曲がっていた。
「あらごめん遊ばせ」
「ぎぃぃいいいぃぃぃいいぃぃぃぃいいッッ!!???」
シュガー=ラッシュのその強さの所以、それは関節技、彼女の家系は代々武闘家の一族であり、彼女もその家柄武道を嗜んでいた。
「そういう事で1000万BP、足りない分と貴方の身体は...そうね、バラして売ろうかしら」
「ひ...や、やめてくれッッ!!頼む頼む嫌だッッ!」
「貴方さっき賭けたじゃない」
「や、やだ...あぁぁぁああぁぁ!!」
「エウロペのとこに売っぱらといて」
そして『機構星騎士』に連れ去られる、彼らはファイトの審判と取り立ても担っているのだ。
「あら?もう1人は?」
「逃げた」
「残念」
リングを降りると観衆が一斉に道を開ける、その道を優雅に練り歩く姿を周囲は見届ける。
「そうだ!みなさん!明日の14時、変則競技場に出るので応援してくださいませ!」
そう言ってシュガーは歓声を背にその場を後にした、ストリートファイトを重ねて知名度を上げ、自らが取り仕切る『変則競技場』の収益につなげる算段だ。
「それで、さっきの続きだったわね...簡単に言えば需要」
「ほう」
「こういう闘技場で最も好まれてること、価値のある要素の一つ、なんだと思う?」
「強者同士の戦いか?」
「違うわ」
「底辺同士の足の引っ張り合いか?」
「嫌いじゃないけど違うわね」
「なんだ?」
「そもそも、強さそのものはもう飽きられてるのよ」
その時、シュガーの表情が歪む、まるで笑顔を最大限に引き延ばしたような恐ろしい顔だった。
「もっと...もっと落差が要るのよ」
「..」
「...上が最底辺へ叩き落とされる瞬間」
「...趣味が悪い」
「ドリンク=バァを倒した程の強く美しい女性が最底辺の獣に喰われる瞬間、その瞬間には莫大な利益が生まれるの、最高じゃない?」
まるで自分が負ける事を一ミリも疑わない絶対の自信、それが彼女を女帝たらしめる要因なのかもしれない。
「だから広報は惜しまないわ」
「そうか」
「人は自分より上の存在が壊れる瞬間を見て、安心する生き物なの」
シュガーは静かに笑った。
「だから私は用意してあげてるのよ、その状況を」
「...」
「さぁ、シオン=エシャロット...明日が楽しみだわ、貴方はどんな表情をみんなに見せてくれるのかし
ーーーガンッ!!
...シュガーは飛んだ、物理的に、回転しながら。
ーーーガシャァァアアアアッ!!
そして前方の屋台に盛大に突っ込んだのだ。
「...」
「...」
「...」
彼女を跳ね飛ばした三輪の魔導バイクになったシオン、彼女はただ一言つぶやいた。
「...」
「これで明日は不戦勝ね」
...
「なにやってんだお前ェェェェェエエエエエエーーーーーッッ!!!????」
次回投稿日は1/31 7:10!
いよいよカルヴァトス編本格始動!!
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