53話 シルヴィアという少女
エウロペと別れて数時間後、アイザックとミークはシオンを待っていた。
「シオンさん遅いですね...」
「遅いなぁ」
突然、「しばらく待ってて」と言ったっきり戻ってこない。2人は人混み溢れる大通りの端で待っていた。
「ていうかミークそれなんだ?」
「700ギアスです〜」
ミークが持っている小袋の中には硬貨が詰まっていた。
「え、なんで?」
「なんか?よくわからないです?なんか...通行人にもらいました?私を浮浪者と思ったのでしょうか?」
「どう...なんだろうな?」
ーーーーギギギギ!!
その時、2人の元に金属音が近づいてくる。
「おまたせ!!」
「シオッーー!?」
「シオンさんッ!?」
シオンが運んできたのは、三輪の形をした細身の機体だった。
金属製の車体に歯車やチェーンが見当たらず、刺々しいフレームは力強さを物語り、ハンドルの根本には蒼く輝く結晶が収められ、内部で魔力が循環しているのが外からでもわかる、総合的に見てもアイザックのよく知る「バイク」とかなり似ている。
「なんだそれ!?なんだそれーーーッ!!?」
「魔力循環式三輪走行機構、多相結晶炉搭載、対地高速騎乗用魔導機、シムラ・バウスト=スティンガー02-K型、最新式よ」
「何言ってるかわからないです〜〜〜ッッ!!!」
「そ、それどうしたんだ...?」
「エウロペに買わせた、ざまなぁないわよ、はやく乗って」
「お、おう」
「シオン...お姉様〜!」
「アンタのほうが歳上でしょうが」
ーーーブロロロロ。
街を一望できる道路をバイクが疾走する、誰も喋らず静寂と風の音が流れる中、アイザックが口を開いた。
「なぁシオン、そろそろ教えてくれよ、なんでエウロペを嫌ってるんだ?確かにヤバいやつではあるけども...」
「あいつは...私を作ろうとしたのよ」
「...え?」
「前にも言ったけど私は過去の英雄や魔物の遺伝子を組み合わせて作った人造人間ってのは言ったわね?」
「あぁ、言ったな」
「...」
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「お母さん...なにしてる...の?」
「あら起きたの?ごめんね、うるさくして」
そこは、広い部屋だった。
鼻の奥がつんとする匂いがして、息をするのが少し苦しい。
床の端には、赤く濁ったものが溜まったバケツがいくつも並んでいた。
シオン――当時はシルヴィアと呼ばれていた少女は、まだ六歳だった。エウロペが院長を務める孤児院で、エウロペのもとで健やかに育っていた。
その夜、眠れずに屋敷の廊下を歩いていた時、一つの扉の隙間から、細い光が漏れているのに気づいた。
そこは、いつも「入ってはいけない」と言われている部屋、エウロペが他の研究員と使っている場所だった。
怖かった、でも、それ以上に...気になり
少女は、そっと中を覗いてしまった。
「な...なにしてる...の...え...なにしてるの?」
「シルヴィアちゃんの兄弟を作ろうとしたんだけどもね...これが中々うまく行かないのよ、おかげでいっぱい子供達が死んじゃった」
「何...何言ってるのッ!?」
後退りした時、足が他のバケツにぶつかる、ふと見るとバケツの中の赤い液体が蠢く、生きているようだった。
「ひっ...!?」
ーーーグチャッ...グチャッ...
赤い何かが蠢く、そして、自分に覗き見た。
「あ...ぁぁぁぁ!!」
違う、液体ではない。これは...否、この子は、自分と同じ施設の子供、さらに...今日昼食を共にした子。
「あらごめんね!ショッキングよね!夜ももう遅いし寝ましょうね!」
「...ッ!!!」
次の瞬間、少女の中で何かが切れた。
叫びは出なかった。
涙も、怒鳴り声もなかった。
ただ、体が動いた。
近くにあった器具を掴み、目の前の“母”の胸に突き立てていた。
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「...なんで刺したのか...6歳の時だったから覚えてない、誰か英雄の遺伝子が、その邪悪を許さなかったのかもしれない」
「...エウロペ...恐ろしいな」
「でしょ?その後施設も燃やしたの」
「シオンも相当だな」
「でも刺したのに生きてますよ?」
「わからない...確かなのは確実に心臓を突き刺した...でも何故か生きてたの」
「...」
「...まぁ、彼女は私たちに協力的だし、利用できるものは利用させてもらうつもりよ」
「おぉ、その意気だ!」
アイザックはそれ以上何も言わなかった、慰めの言葉は、今の彼女にはいらない。
必要なのは、次に何をするか――それだけだろう。
「まず大前提として『大会』は絶対優勝、しつこいようだけどこれを前提にする、大大大前提」
「前提がゲシュタルト崩壊しそうだ」
「です〜」
「じゃあ残りの9億7000万BP...いや『大会』の参加費用は3人で3000万BP...どっちみち10億BP稼がないといけないのよ」
「えそうなの!?」
「そうよ、だから私達は今ほぼ文無しみたいなものなのよ」
「そ、そうか...」
そもそもこの世界におけるギアス...貨幣、その価値がどのようなものか、アイザックは簡単に説明を受けた。
結論から言うならギアスは「円」と同価値、そしてギアスとBPは同価値、つまり...10億BP...10億円を稼がないといけない。
「...いやいけんのかこれ?」
そのような気の遠くなるような大金、アイザックはおそらく生涯見ないだろう。
「まずはおさらいしておくわよ、この国の事とかもBPの事とかも」
地下帝国では、地上のように作物が実らない。
岩盤と人工光に覆われたこの世界では、まともな植物が育たず、それでも帝国が崩壊せずに成り立っているのは、魔法使いたちと農業関係者が併合した共同体の存在によるものだ。
魔力による疑似日照、成長促進、土壌の再構築。
それらを駆使することで、最低限の食糧自給率は維持されていた。
だが当然、すべての人間がその共同体に属せるわけではない。
剣を振るうことしかできない者、魔物と戦う腕しか持たない者――いわゆる冒険者や戦闘要員たちは、商業や農業、研究にも携われず、特に今の世の中では都市防衛に回そうが余剰人口となりやすかった。
そこで生まれたのが『BP』という制度である。
BPは戦闘競技や公認試合、ストリートファイトでのみ得られる特殊な通貨で、その価値は通常の貨幣と等しい。
食料の購入、宿の利用、装備の調達、日常生活の大半はBPでも問題なく賄える。
ただし、BPには一つだけ決定的な制限があった。
ギアスとの両替が、一切できない。
これは、BPでしか参加資格を得られない大会や規定が存在するためだ、避難民の誘致もそれだ。
力を持たぬ富裕層が金の力だけで戦いの舞台に立つことや、己の身内を招き入れる事を防ぐためだ。
封鎖された地下世界では娯楽も乏しく、戦闘競技は貴重な見世物として発展した。
観戦料や賭博、そこから徴収される税は帝国の財源となり、
同時に、力しか持たぬ者たちに食い扶持を与える役割も果たしている。
こうしてBPは、通貨であり、生存権であり、
そしてこの地下帝国における“力の証明”として機能していた。
「それで死んでも食糧の消費が減るだけ...うまいこと回ってんだな」
「まぁでもミークはともかく私達は腕っぷししかないんだから、戦って稼ぐしかないわけ、まぁ...私達にとってもありがたいけど」
ーーーフッ
シオンの腰にかけた麻袋が光りだす、取り出すと小さな緑の水晶体が光り輝いていた。
「...」
「シオン、どうした?」
「アイザック...早速BPゲットのチャンスよ」
「どして?」
魔水晶、そう呼ばれるものに映し出される文字。
『試合形式:変則競技 降参なし』
「これ...!?」
「誰かが私と戦いたいらしいわね」
「だ、大丈夫なのですか〜?」
「...大丈夫、策はある」
「...シオン」
「シオンさん...」
「なんか今日のシオンめっちゃ頼れるな」
次回、シオンがやらかします
次回投稿日は1/29 7:10!
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