49話 「母」を騙る悪魔
みなさんお待たせいたしました。
第二章「龍界地底砲塔マナタン編」開幕でございます。
それは一人の少女との別れだった。
銀翼の戦士が少女を腕に抱き、大雨の中で血と涙が雨水に溶け合う。
「……よかった……」
少女がかすれた声で呟く。
何がよかったというのか。誰からも顧みられず、夢も叶わず、ついには「獣」に堕ち、愛する者に殺される――そんな結末を、誰が受け入れられるだろう。無垢に夢を追い続けた少女の最期がこれだというのか。認められない。決して認められない。
「……貴方に看取ってもらえる……これ以上の贅沢はありません……」
その戦士は最後まで、彼女の願いを叶えてやれなかった。もしこうなることが分かっていたなら、きっとその願いを聞き入れていただろう。だが、今となってはすべて遅すぎる。後悔と自分への怒りが、胸の中で渦を巻く。
「もし……もし、最後に……叶うのなら……」
掠れた声で少女が呟く。
「言え」
たった一言。だが、その言葉には彼女の全てを預ける信頼と重みが込められていた。
「...貴方の...」
...
..
.
藍村咲太郎ことアイザックの旅は色々なことがあった。
コンビニでレジを打っていたらいきなり異世界へ飛ばされ、『堕ちた獣』...いわゆる「ゾンビ」に襲われて、それから色々あってなんとか修羅場を潜り抜けたものの自分の周りで色んな人が死んだ。
セルシ、ラザニア、ナルボと名前も知らない冒険者達。
そしてマンダカミア、ドリンク=バァ。
そして...ドリンク=バァ。
......もう一回ドリンク=バァ。
アイザックは自分を助けてくれた拠点の人々を安全な場所へ避難させるため、そして帰る方法を探すために300kmを3人で歩いてきた。
ミーク=キャメル、この3人の中で唯一の魔法使い、この世界で魔王を討伐した勇者一行である魔法使いの妹、実際は妹ではないがそこは複雑なので省こう。
彼女は卓越した魔法技術とその知識を持っているが、臆病だと思いきや腹黒かったり我儘を言ったりするこの3人での末っ子にあたる。
シオン=エシャロット、元々チルド王国内にて花屋の手伝いをしていた娘だったが、『堕ちた獣』溢れる世界になってからは戦士になった、身体能力が群を抜いておりリーダーとしての指揮能力もある。
ただ、彼女には何か重大な秘密を隠しているようだが、仲間であることは間違いないためアイザック達は信頼を置いている。
この3人で今『マナタン帝国』に向かっている、この国では『獣』の侵入を退け治安を維持している、この国に援助を求めあわよくば拠点の人々を難民として受け入れてもらえるように打診するのだ。
それがアイザック達の今回の旅。
ーー第二章 『龍界地底砲塔マナタン』 編 ーー
「アイザック、起きなさい」
ーーーパシパシ
「んぁ?」
いつのまにか眠りこけていた、時は夕暮れ、肩を貸していたシオンに叩き起こされ見渡すと現代でいう列車の中。
電光掲示板や広告は一切ない、あるのは客席が数列並んでいるもののみ。
周りには人が十数人、彼らも眠りのけているようだった。
「もうそろそろ着くわよ」
「何時間寝てた?」
「5時間」
「そんなに!?」
「ミークも起きて」
ーーーペシペシ
「んぁぅ...」
シオンの膝で寝ていたミークが眠たげな顔で起き上がる。2人揃ってシオンの身体にもたれていたのだ。
「そろそろ着くわよ」
「です〜?」
その時、どこからともなく流れるアナウンス。
『皆様、大変ながらくのご乗車お疲れ様でした、およそ30分でマナタン帝国へ到着致します、さっさと荷物を纏めて犬のように御座りしてお待ちください』
「なんだ今のアナウンス」
ふと窓の外を見る、地平線の向こうまで見えるほどの平な荒野、砂埃が舞い車窓からの視界をかすかに遮る。
「なぁシオン」
「なに?」
「マナタン帝国ってどんなところなんだ?たしか地底にあるんだっけ」
「そうよ、この列車が城門を潜った後に流れるように地下に直行、街が見えたらすぐよ」
「ふぅん」
「シオンさんマナタン帝国に詳しいですぅ〜」
そうして話していると...。
「ーーー」
ふとアイザックは違和感を感じた、ただの気のせいかと思われた、しかしその違和感は次第に確信に変わる。
「ッッ!!?」
「はッ!!」
「!?」
シオンもミークも気付いたようだ、その違和感...否、魔力に。
「何かがこっちに向かって来てる!!」
列車の別の車両?違う、外だ、何かが列車に向かって高速で向かって来ている。
「速いぞッ!?」
「『獣』...でしょうか?」
「わからない、窓開けて!!」
ーーーガラッ!!
言われるようにミークは窓を開けて向かって来る魔力の方向を見る。
「え...ッッ!!?」
ミークはその光景に絶句していた。
「なんだどうした!?」
「...」
「何が向かって来ているの!?」
ミークに続くようにアイザックとシオンと車窓から顔を出す。
「...」
「...」
「...」
その光景、まさに圧巻...。
ーーーゴォォオオオオオオオ!!!
「な...な...」
「うわっ...」
「なんだぁぁぁぁぁあああああああーーーーッッ!!!???」
ーーーゴォォオオオオオオオ!!!
それは列車の突風、舞い上がる砂埃の中、現れた。
ーーーゴォォオオオオオオオ!!!
「こーーーんにちはーーーーーーッッ!!!!」
広がる金糸の長髪が風になびき淡く光を反射する。羽織った薄手のケープは陽だまりのように柔らかく膨らみ、彼女に合わせて舞っている?
その眼差しは、ただ見られるだけで心の芯から温められるような穏やかさを宿し、まるで迷える子を導く聖母そのものだった。
そのような女性がーーーー
ーーー爆走ッッ!!
ーーー列車と併走しているのだからッ!!
「お母さんですよーーーーーーーーッッッッ!!!!」
「なんですかアレーーーーッッ!!?」
目の前の光景に頭が追いつかない、「母」を名乗る女性が綺麗なフォームでひたすら荒野を爆走、砂煙を巻き上げながら列車と並んでいる。
「ミークッッ!!」
「なんでしょうか!?」
「アレ撃って!」
「撃つんですか!?『獣』ではありませんけど...!?第一印象ある意味「獣」ですけども!?」
「いいから撃ってッッ!!」
「ど、どうなっても知りませんから〜〜!!」
ミークは窓に乗り出し杖を構え、小さく何かを呟くと杖の先端が炎を纏う、そしてそれを一発。
「『火炎尖弾』ッ!!」
ーーードドドドドドッッ!!
「いやお前も容赦ねぇな!?」
否、放たれたこれでもかという程の無数の炎弾、女性に向かって真っ直ぐに飛んでいく、しかしーーー
「あわわわわわわ!!」
突如現れた女性の身長ほどの長さの槍、鎖が巻かれており、先端はまるで魔物の爪のように歪な形をしている。
ーーーガガガガガガッッ!!
「なッーー!?」
女性は疾走しながら向かう炎弾をその槍で全て弾く、炎弾はその場で爆破し黒煙に包まれる。
ーーードンッ!!
「あちちち!!」
その黒煙を吹き飛ばして加速、さらに列車に近づく女性、それを見たミークは青ざめる。
「なんですかあの人ヤバいです〜〜〜〜ッ!」
「おい、あいつ何してんだ!?」
女性はその槍を投げ捨て列車のすぐそばに張り付いて両手を広げる。
「ふんッ〜〜!!」
ーーーベキャッ!!
そして列車の扉部分に掴みかかる、扉はその指の握力で大きく凹む。
「よいしょッ!」
ーーーバキッ!!
そして扉を引き剥がし荒野の向こうへ投げ捨て、列車に飛び乗った。
「おい、乗られたッーーーー
「ッ!!」
「ッ!?」
「はっーーーッ!!?」
その女性は、すでに自分達の背後にいた。
身長はアイザック達より一回り大きい、190cmはあるだろうか、見上げるほど高身長の女性がそこにいた。
「とっても情熱的な挨拶ね、お母さん少し熱くなっちゃった」
「...ッ」
ーーーなんだこの女?「お母さん」?
「あの...私達あなたの子供じゃないです〜、さっきからなんなのですか〜?」
「あら、お母さんよ?ねぇ...........?」
「ッッ...!」
シオンはミーク以上に青ざめる、手が震え肩をガクガク言わせている。
「ふふ、ホップラビットのように可愛らしいわね〜、お帰りなさい、シルヴィア」
次回投稿日は1/22 7:10
いよいよ開幕!
そして皆様にお詫びがございます、今後挿絵はペース向上のため不定期とさせていただきます!ごめんなさい!!
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