48話 戦慄廃国チルド(1章最終話)
最終話です
チルド王国裏話:ドリンク=バァは死体を弄ぶ怪物であった。しかし『運命の夜』、王国での惨劇を抑えるために戦った、注目を浴びたいと言う考えがあったと同時にその為に「人々を守る」という気持ちもまた本物だった。
ーーー崩れかけの廃屋にいやのは、痩せ細り床を這う少年。
その少年をアイザックは知っていた。
「!」
「...ッ」
「息子さん...いたんですね」
「ミーク、楽にしてやってくれ。そんで、この子の遺体を拠点に持ち帰ろう、遠回りになってしまうけど...いいか?」
「もちろん」
「大丈夫です」
少年は頭を撃ち抜かれた後全てを燃やし、その灰を拠点に持ち帰った。ナルボの遺体は洞窟の奥に死んでいった仲間達と共に埋葬されている、その墓の隣に小さな墓を作った。
「...子は親の元に帰るもんだ」
墓は応えない、だが、それで十分だった。
「ナルボ...ちょっとは恩返しになったかな」
ナルボの特攻がなければアイザックは今ここにいなかった、すぐ近くには墓の前にククリ刀が刺さっている、おそらくラザニアの墓だろう。
「みんなのおかげで、俺達はいまここにいる、俺はお前らの事一生忘れないからな...向こうで仲良くしててくれよな」
「...」
墓は応えない、それはわかっている。
「それじゃあいきましょう」
「あぁ...なぁミーク」
「?」
「この拠点だからこそ聞くけど、本当に俺に付いていってもよかったのか?その...シオンはそりゃついて行く理由はあるけど、今拠点は安全だし、お前は無理に俺についてこなくてもいいんだぞ?」
過去に自分がミークを無理やり連れていってしまった事をアイザックは気にしていた。そのせいでミークは死にかけたのだから、自分の我儘でこれ以上傷ついてほしくないのだ。
しかし、ミークはぷっと笑った。
「私の荷物の整理しといて今更何言ってるんですか〜」
「そ、そりゃそうだけどさ!やっぱそう言うとこはちゃんと話し合っておこうと思って、ほら、今ならここ拠点だし引き返せるし」
「...アイザック君やシオンさんは少し飛ばしすぎです〜、なのできっと後ろから支える誰かさんが必要です〜」
「ぐ...」
「それに、あの時貴方が私を無理やり外に出してくれたから、外でお姉様の魔力を感じたから、私は妹と戦う決意ができた、強くなれた」
「...」
「でも過去は消えない、自分のせいでミークを苦しませてしまった、戦地に立たせてしまった。この旅はそんな弱い自分への罰でもあるんです」
「ミーク」
ミークから過去の事を聞いた、ミークの本名がマンダカミアであり立場と名前を入れ替えていた事を、自分のせいで大事な妹が戦場に立ち、最終的に「獣」になった事を療養中2人きりになった時に聞かされた。
ミークはそのまま「ミーク=キャメル」を名乗るつもりらしい、自分の心は妹と共にあると言っていたのでアイザックはそれを止めるつもりはないし、これからも「ミーク」として呼ぶつもりだ。
「そうか...ミーク、ほんとうにありがとうな」
「アイザック君こそ、私でいいのですか?」
「え?」
「私は妹をこの手にかけた...自らの家族を殺した罪深き魔女を...」
「...」
さらに王国での出来事も聞いた、ミークが姉(正しくは妹)を『魔光斬』で殺した事を。
「ふふ」
「え?」
「ふぁは...ミーク...罪深き魔女って重い言葉がお前から出てくるとは思わなかったよ」
「ア、アイザック君、からかわないでください...真面目に言ってるんですから...!!」
「ミーク」
「っ」
「俺もあれから色々考えたんだ、なんでマンダカミアが王国にずっと居座ってたのか、なんでミークが勝てたか」
「...」
「マンダカミアは...多分ミークを探してたんだと思う、家族の顔を見たかったからずっと...ずっと王国を彷徨ってた...そんで」
「...」
「自分を殺して欲しかったんだと思う」
「...っ」
マンダカミアは苦しんでいた、苦しんでいたから涙を流していた、絶え間なき地獄を早く終わらせたくて自分より確実に強いであろうミークに終わらせて欲しかったのだろう。
「ミーク、マンダカミアは『転送障壁』を使って来なかった、なんでだと思う?」
「...唇がなくて『パ』が発音できなかったからですか?」
「それは無いだろ、魔王討伐に行くほどの熟練の魔法使いなら口が使えなくても何らかの方法を編み出してたはずだ。だからマンダカミアも使えたはずだし、実際使わなかったんだったらそう言う事だろう」
「...」
「ミーク、お前は妹を地獄から救い出したんだ。「殺した」なんて、そんな事本人が聞いたら全力で否定するだろうし、みんなそんな事思っていない、「殺した」んじゃなくて「救い出した」んだよ、最高の魔法使いである妹を最高の魔法使いである姉が」
「...アイザック君...」
「妹だけじゃない、お前がいてくれたから帰ってこれた、お前は俺たちや拠点のみんなを救ったんだよ。お前は俺達の誇りの...世界最高の魔法使いだ!!」
「...」
「だから贖罪だなんて言うなよ、これから始まるのはワクワクの止まらない冒険だ!」
その時、ミークの目元から涙がこぼれ落ちる。
「ずるいです...本当に...アイザック君はずるい...、何回も死にかけておいて、なんでそんなに前向きにいられるんですか」
「...楽観的なのが俺の唯一の取り柄だからかな」
「バカっていうんですよ!...もう...でも救ったのは私だけじゃないんです...貴方もです」
「ミーク...」
「貴方も私を救ってくれた...私と妹を救ってくれた...貴方こそが私にとっての「勇者」様です」
「勇者...か」
「私はお姉様がやったように、私にとっての「勇者」様を守ります...だから...ふつつか者ですが...よろしくお願いします」
「...あぁ!!」
薄暗い洞窟だが、その時だけはミークの涙に濡れた笑顔がはっきりと目に映り、それはアイザックがこの世界で見た星空よりも美しかった。
「あとアイザック君は私を引きずり出して殺しかけたんだから、その責任はとるべきだと思いますッ!」
「うぐっ」
「だからアイザック君は私を守って、甘やかして、たまに人件費を払っていただければ幸いです!!」
「わ、わかったよ...夕食はお前だけ多めに作るよ」
「ラッキー、言ってみるもんですね」
なんだこいつ。
「なんじゃお前らまだいたのか」
振り返ると入り口にレーチェが立っており、気まずそうにしていた。
「再会早かったな」
「ですね」
「墓参り終わったならはよいけ、色々台無しじゃ」
「はい、行きます、行きますよ〜」
「あぁ、いこう」
外でシオンと合流し再び旅立つ。
...
そこから先はただ嵐が待っていた、立てたテントが飛ばされミークが10mほど吹き飛んだ。
そこから先は雨が降り注いでいた、巨大な亀の腹を雨宿りにし泥を踏んで先を急いだ、「獣」に遭遇したが雨音のおかげで気付かれることは無かった。
そこから先は花園が広がっていた、食事をしようとしたが突然地面から突き出た植物型の魔物に全て持って行かれた。
そこから...そこから...そこから...
...
そして...
..
.
「...おぉ」
歩き始めて1週間が経った、急な坂を登り山の頂上へ辿り着くとそこは壮大な景色が広がっていた。
「す、すげぇ...」
雲が己の上ではなく下にある、その感覚が新鮮であり、限りなく広がる地平線は世界の広さを物語っている。
ーーーバザッ!!
「うぉっ!?」
「きゃっ」
巨大な影が風を運びながら通り過ぎる、自分の身の丈よりも大きな鳥が遥か彼方まで続く地平線を翔けて行くのが見えた、あんな大きな鳥を見るのは初めてだ。
「あぁ...そうか」
そこでアイザックはようやく実感する、今までは生き残るために必死で戦い、修行したせいで気に留める余裕もなかった。
「俺は...本当に異世界に来たんだな」
「? 何言ってるの?」
「ミーク、シオン、俺の事を話しておくよ。今ならお前らも信じてくれそうだしな」
「「?」」
今から2人に話そう、自分の生い立ちとここに至るまでの経緯を。信じてもらう必要はない、ただ聞いてさえくれればいい、そう思いアイザックは
この絶望に満ちた壮大な世界の天辺で己の物語を語った。
ーーーザザ
本日の日付は★月⬛︎日、時刻は午前10時5分。
ーーーザザザザ
担当するのはマナタン帝国医学団学者アクア=パチェと助手のカプラ=ツレラ。
ーーーザザザ
「堕ちた獣」に対する治療薬開発のため、今回の戦いで戦死した抗体を持つ者からサンプルとして血液と細胞組織を採取する、尚、この件において本人の承諾済みである事をここに明示しておくものとする。
ーーーザッ
対象の身元ナンバー、265776
推定年齢21歳。
ーーーッ
...名前は。
ミーク=キャメル。
...
..
.
不規則に飛び交う流星群を見たことがあるだろうか。
熾天の竜を見上げたことはあるだろうか。
破滅的な「熱狂」を知った事はあるだろうか。
ここは奈落の地の底、全ての夢と欲望、最奥の掃き溜め、
「獣」は伏して時を待つ。
「『真の平等』の代償に誰の願いも叶わない」のがチルドであるなら
「『力による公平』をもって全ての矛盾が成立する」のがマナタンである。
今宵も昏き地の底で、赫き鯨は静かに⬛︎う。
ーーー第2章「龍界地底砲塔マナタン」編
以上、第1章「戦慄廃国チルド」編はこれにて完結となります。
高評価、ブクマよろしくお願いします!!
描き溜めするため1週間ほどお休みをいただきたいと思います!
次回、2章公開は1/19!!2章の詳細はXにて行いますのでフォローお願い致します!!




