47話 アウェイクニング・ジャーニー
「話って?」
「あぁ」
会議室の外ではミークが静かに耳を当てて聞いていた、レーチェは気付いているようだがそれをとめようとはしていない、2人きりで話す内容でも無いと言うことか。
「お前、これからどうするんじゃ」
「あぁ、その話か」
「ドリンク=バァは討ち取りキャメル姉も討伐した、食糧や物資の調達での危険度は驚くほど下がっている、よほどヘマをしない限り非戦闘者でも調達だけなら行けるくらいじゃ、まぁなにが乱入して来るかわからんので油断は禁物じゃがの」
「あのドラゴンは?」
「あのあと調査をしてみたがどこかに消えた、行方知れずじゃ」
「そうか...」
「戦闘員としての数でいうならはっきり言うて不足しとる、お前には残って欲しいが...そうもいかんだろ?」
「あぁ」
セルシ=アルバイエンに言われた、「シャクシ島を目指せ」と、そこに行けば元の世界に帰れるとも。
「だからまずはマナタン帝国に行こうと思ってる、シャクシ島に渡るには唯一同盟を結んでいるマナタン帝国での橋渡しが必要不可欠らしいからな」
「そうか...」
「その中で俺がこの世界に呼ばれた理由を見つけたい、俺がこの世界に来たのはきっとなにか意味があると思うんだ、それを探す旅をしたい」
「うむ...」
「...どう?」
「お前の理屈は最もじゃ、そんなお前を止めようとするのは...我儘じゃな」
「そんな事はないさ、俺がここまで生きてこられたのもみんなのおかげだし、どうにか恩返しもしたいんだけど」
「だったら!!!」
突然会議室の扉が開く、ミークがローブを広げて格好をつけた、まぁいるのはわかってたけども。
「私も連れてってください〜!!」
「え」
「アイザック君1人では心配です〜、きっと役に立てると思います〜」
「え」
「うん、まぁええじゃろ、それに恩返しというならやって欲しい事もあるからの」
「失礼します」
ミークの後ろからまた1人現れる、シオンだった。
「準備が整いました」
「うむ」
「え、え」
シオンは大きめの麻袋を肩にかけており、明らかに遠出するような装備だった。
「シオンにも行ってもらう」
「え、な、なんで、なんでぇ!?」
「今まではマンダカミアやドリンク=バァが陣取っていたから我々は動けなかった、しかし今ならマナタン帝国へ行ける、マナタン帝国へ物資の供給を頼み込むんじゃ」
「成功すれば遠征の機会が減らせる上、運が良ければ難民として受け入れてもらえるかもしれないのよ」
「な、なるほど...じ、じゃあ4人パーティでってこと?」
「いや、ワシはいかん」
レーチェはびしっと拒否してしまった。考えてみれば当然だ、さすがに戦力は少しでも拠点に残しておきたい上に彼女はまだ腕が完治していない、肩は元通りだが二の腕から先が無い。
「備えあれば嬉しいなっ!です〜」
「どっかで聞いたことのあるセリフだなー」
「とにかく、お前も人がいれば心強いじゃろ」
「あぁ...確かにその通りだ」
正直1人での旅となると寂しいと感じていた、そこに仲間、さらに言えば修羅場を共にした間柄であれば心強い事この上ない。
「一番手っ取り早いのはスライザ特急に乗り込む事じゃな」
「特急!?電車があるのか!?」
「マナタン帝国は魔法道具の開発で発展した国じゃ、大陸の至る所に線路を敷いて魔法で動く魔法車両を作り上げたんじゃよ」
「な、なんかすげえな」
「この紹介状を持っていけ、本当なら厳重な審査を通過しないと入国できないがワシの紹介なら向こうも取り持ってもらえるはずじゃ」
そういってレーチェから封筒を受け取り、それと同時に紙袋で包んだ分厚い本を渡される。
「なにこれ」
「交渉材料じゃ」
「わかった...向こうに渡せばいいんだな?」
「うむ」
「マナタン帝国楽しみです〜、地下なのに流れ星が見れるそうです〜」
「地下なのにかっ!?」
「遊びじゃないのよ...」
「その感じなら大丈夫そうじゃな」
レーチェはあらかじめ用意しておいたのか大きめのリュックサックをアイザックに手渡す、中には薬品や食糧、アイザックでも使えるサバイバルグッズや食べれる薬草などの図鑑が入っている。
「過保護すぎやしないか?」
「備えあればうれしいな、じゃ」
「ありがとう、んでミーク」
「はい〜」
「なんでお前のはそんな荷物多いの」
ミークが背負っていた袋はパンパンに膨れ上がっており今にも破裂しそうだ、なにかよくわからない薬草や巻物が飛び出ており、足元にはスーツケースほどの大きさの鞄が二つ置いている。
「魔法使いは色々道具がいるんですぅ〜」
「師匠的にどうよ」
「多い」
「よし整理するぞ」
「あ〜〜〜〜〜!!!」
ミークから鞄をひったくり中身をチェックする、服や魔導書は別にいいとして。
「なんで鍋蓋があるのに鍋がないの、んでなにこれ肩たたき棒?いらん、なんだこの上手に焼けそうな肉焼き機は、色々まずいから置いてけ」
「ぁぁぁぁぁあ〜〜〜〜〜〜」
アイザックの前で膝をつき項垂れる、なんだそれは土下座で勝った俺へのあてつけかとアイザックは苦い顔をする。
結局ミークの荷物量はアイザック達とは少し多い程度にまで減らされてしまった、あまり多いと「獣」から逃げきれないとレーチェに諭され泣く泣く納得した。
「よし、それじゃあ行くか」
「アイザック」
「ん?」
「耳をかせ」
レーチェの手招きでアイザックは耳を寄せる、そしてシオンがミークの愚痴を聞いているのを確認し小声でつぶやいた。
「シオンに気を付けろ」
「え?」
シオンに気を付けろ?
「な、なんで...?」
「お前はおかしいとは思わんのか、シオンの「並外れた身体能力」に」
「それはあいつが戦闘職で...魔力で身体を強化してるからじゃ?」
「それはある、じゃがワシはこの拠点が出来てからずっとあいつを見てきた、それもシオンが戦闘の訓練を始めた時からな」
「うん」
「あいつ最初から魔力操作ができとった」
「え?」
アイザックは魔力を認識し、それを身体に流したり放出したりするまでかなりの時間と労力がかかった、それをシオンは初めからできていた?
「て、天才ってことか...?」
「ミークですら最初は魔力の認識から始めた、じゃがあいつはそれすら最初からできていた、おかしいと思わないか?ただの町娘が?身体能力、戦闘センスは天才と言えるかもしれんが、その上魔力の認識までできるのは天才の域を超えている」
「で、でも師匠は人の過去見れるんだろ?俺の時みたいにさ」
「あの魔法で見れるのはその者の記憶の過去1年じゃ、それ以前は見れん」
「...」
「シオンは何かを隠している、だから気を付けろ」
「...」
これまでのシオンとの出来事を思い出す、自分を助けた時や1人部屋で泣いていた時。
「あぁ、そう言われたら確かにシオンは何かを隠しているな」
「...」
「でも俺はシオンを信じてる、泣いてた時も、俺を助けてくれた時も俺は嘘だと思わない。」
「アイザック」
「…だから無理に聞いたりはしない。シオンが自分で話してくれる時まで、俺はただ待つさ」
「...わかった、ならワシも何も言うまい」
「ありがとう、ていうか師匠も信じてるからこそシオンを送り出したんだろ?」
「まぁの...アイザック、修行を怠るなよ、お前はその『魔王刻印』をまだ完璧に扱いきれておらん」
「あぁ、わかってるよ」
「いや、そうじゃない。お前には無限の魔力ということ魔法戦闘において最強のアドバンテージがある、じゃがお前には全くの魔法の才能がない」
「うぐっ...まぁ本当のことだけどさあ」
「今のお前に必要なのは『循環』じゃ、『回転』と言ってもいい、これを使いこなせ。いいか、『循環/回転』じゃぞ」
「『循環/回転』か...わかった、色々試してみるよ」
循環と回転、いまだイメージはわかないがおいおい研究してみることにする。
「それじゃあ行ってきます、レーチェ様」
そうして3人は部屋を後にーーーしようとするが。
「待て3人とも」
「まだ何か...」
「「獣」について一つ共有しておきたくての」
「「獣」について?」
「あぁ、「獣」は疫病にかかった生物の成れの果てといってもいいが、なかにはその疫病に順応し自分の一部にする『適合者』が稀に存在してるらしい」
「『適合者』?」
ウイルスに適合し超絶パワーを得る、みたいなものだろうか、アイザックはふとゾンビ映画を思い出す。
「ドリンク=バァとか?」
「いや、適合すると見た目は人間とそう変わらん。しかし脳に悪影響が及び非感染者に敵意を抱くそうじゃ、それにその者を介して様々な者に感染を広げる、性質でいえばドリンク=バァよりタチが悪い」
「う、うげぇ...それ怖いな」
「アイザック!!」
「お、押忍ッ!?」
突然大きな声を上げられアイザックは反射的にビシッと背筋を伸ばした。
「な、なに?」
「この先お前には大きな試練や苦難が待ち構えてるかもしれない、お前はきっとどんな戦いでも命かけてぶつかりにいくだろう」
「...」
「確かに「今ここで死んでもいい」「相打ちになってもいい」という覚悟を見せつけるのは「獣」ではない意思のある敵に対してとても有効だ」
「うん...」
「じゃが、お前には元の世界に帰るという目的がある。そして...お前に死んでほしく無い、お前の無事を祈って大切に思ってる人がいる事を忘れるな」
「!」
「だから...死ぬな」
「...」
「わかったか」
「お、押忍!!」
「おす〜!!」
つられてミークも声を上げる、レーチェの目は最初会った時のような冷たい目ではなく愛する我が子を見る母のように暖かかった。
「あ、それと」
「何?」
「...死ねぇッッ!!」
ーーーバキィッ!!
「うぎゃぁぁあああああ痛ってぇぇえええーーーッッ!!?」
「師匠ぉ!?」
「ん...くく」
突然襲いかかるレーチェのローキック、それはアイザックのスネを正確に捉えた。
悲鳴を上げぴょんぴょんと跳ね、次に地面をのたうち回るアイザックがツボに入ったのかシオンは笑いを堪えている、まるでこの展開を予知していたかのようでもあった。
「な...何をぉ!?」
「お前ワシの「奥義」蹴ったろ」
「あ"」
思い出した、ドリンク=バァに向けて放った『昏黒・虚数孔』、アイザックは死んでいった仲間の想いをぶつけるようにそれを蹴り飛ばしたのだ。
「そのものの人生において得た答え、それを具現化した「奥義」を蹴飛ばすとは何事じゃ、これで済ますだけありがたいと思え」
「あー...確かにこれはアイザック君が悪いです〜...」
「は...反省してるよ...2度としねぇ」
「もう1発ッッ!!」
ーーースパァァァンッッ!!
「うぎゃぁぁぁああああああーーーーッッ!!?」
「ぶふっ...」
今度は地面に寝転ぶアイザックの尻に強烈な蹴りが入る、それはつま先でアイザックの大事なワレ目を正確に貫いた。
あまりもの激痛にアイザックは陸に打ち上げられた魚のように跳ねる。
シオンはアイザックのリアクションが面白すぎて吹き出している。
「な、これでわかったろ。ワシがお前に安物の武器しか上げんかった理由が」
「あ"」
そう、アイザックがレーチェより賜った武器を速攻で無くした件についてだ。
「まだまだあるぞ?さぁ、一つ一つお前の罪を数えて行こう...死ぬなよ?」
「は...はは」
先程のような温かい視線はどこへやら、アイザックから見たレーチェはまさしく魔王のようだった。
出発するまでに自分の体力が残っていることをただ祈るばかりだった。
...
..
.
「行ってきます!」
「行ってらっしゃいー!!」
「なんかあったら戻ってこいよー!」
「土下座ぶちかまして来い〜!!」
「ばいばいー!!」
拠点の仲間達に盛大に見送られアイザック達は旅路を征く。
...
「...アレなんだ?」
その道すがらの出来事だった。
「村じゃない?誰も住んでなさそうだけど」
「燃やしますか?」
「お前は魔王か」
しかし村にはなんの魔力も感じない、既に人はいないようだった。小屋に入ってみるとやはりもぬけの殻のようで至る所に割れた食器やガラス、木材の破片が散乱していた。
「...ここの人たちは...」
「...」
「みなさん、来てください」
「!」
ミークの声を聞いてすぐさま駆けつける2人、ミークはただ目の前の光景に立ち尽くすのみであり、アイザックとシオンもそれを見て驚愕する。
「うぉ...」
「...ッ」
そこにいたのは「堕ちた獣」、さらに言えば子供だった。足が弱いのか、地に伏して動かない。
「カ.....カ....」
「...」
「...」
「...」
棒のように痩せ細っており魔力量が小さすぎて気付けなかった、近づこうとするミークをシオンは静止する。
「やめなさい、感染る」
「で、でも」
「やるなら遠距離から、血飛沫で感染する場合もある」
「わかりました...」
「ん...」
ふと少年の「獣」が身につけているペンダントが目に入った、近寄るわけにはいかないので遠目で確認するとそのペンダントには何か書いてあった、おそらく名前だ。
「...ッ...」
「どうしたの」
「こいつ...いや、この子...ナルボの息子だ」
次回投稿日は1/12 18:10!
次回ついに1章完結、長い冒険でしたね。
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