45話 『終末教』
「ッ!?」
その瞬間、世界が遠ざかり始める。お互い動いていないにも関わらず2人の距離はものすごい速度で開いていき、世界は彼女の味方をするように後を追い、アイザックにはただ暗闇のみが残される。
「待ってくれ、どう言う事だ!!なんで...!!」
「質問は終わりだ」
「俺は誰に呼ばれて来たんだ!!」
「質問は終わりだ」
「敵ならなんで俺を助けたんだ!?」
「ドリンクがむか...質問は終わりだ」
「ケチっっ!!」
「君は君のやるべき事をやるといい、その先にきっと僕はいる」
「!」
「君がどれほど強くなっているかはわからないけど、僕は『断罪の刃』を用意して待っていよう」
「なんーーー
そして、世界が豆粒になるほど遠ざかると同時に暗闇がアイザックの視界を覆い隠す。
...
「アイザック起きて、そろそろつくわよ」
「だぁぁぁぁあああああッッ!!??」
ーーーバキィッ!!
「い"っっっだッッアァァァアアアアーーー↑↑↑!?」
「乗り出すからじゃ、お前はその癖いつになったら治るんじゃ」
アイザックが無意識に突き出した拳はミークの鼻を捉え、それをモロに受けたミークは激痛のあまり床を転げ回る。
「え...あれ...」
気付けばアイザックはボロボロの床の上で寝ていた、王国で拾った馬車をシオンが引いている、足はくっついているようでこの中では一番元気そうだ。
「お前がいつまでたっても起きんからこの馬車にぶちこんだ」
「師匠...サンキュ...あれ?」
全身の傷はほとんど痛みが無くなっている、血に染まっている包帯はそのままだが先日に比べればだいぶ楽だ。
「ミーク、もしかして魔法かけてくれた?」
「かけましたよ〜」
「よしっ、女の子に馬車引かせるのもなんか嫌だし俺も手伝うよ」
「動いちゃダメです〜」
「ダメよ、アンタは休んでなさい」
「寝てろ馬鹿」
「うぐっ...」
全員総出で言われ縮こまる。
「お前が一番酷いのわかっとんのか、お前は数日は絶対安静じゃ」
「師匠こそ相当酷いんじゃねぇかよ」
レーチェの左肩から先は無い、包帯で覆ってはいるが汚れ一つなかった真っ白なローブが血で穢されている様は見てて痛々しい。
「腕なんざ後から生えてくるわ」
「そうなのっ!?」
「みんなそろそろ着くわよ、降りる準備してよね」
「帰って来ました我が家!!」
外に見覚えのある景色が広がる、知っている森だ、知っている穴だ。
「あぁ...帰って来たな」
洞窟に入ると避難していた住民全員の喝采が上がった、レーチェが逃した冒険者の1人がひと足先に拠点に戻り共有していたそうだ。
声が大きすぎて聞き取れないが、少なくとも前に帰った時のような負の感情混じった声は聞こえない。
多大な犠牲を出した、しかしアイザック達は任務をやり遂げ生還したのだった。
「あぁそうか...やったのな」
「もう馬鹿!!アンタほんと馬鹿ッ!!また無茶して!!」
人々を押し除けるようにかけて来た医者に馬車から引き摺り出され大急ぎで医務室に運ばれた、応急処置はしたが放置してたら相当まずいレベルの傷なんだそう。
アイザックは今までの疲れがどっと来てまたすぐ眠りについた、今まで溜まっていたものが全て抜け落ちたようにアイザックの意識は闇に堕ちた。
ーーーみんな、やったよ。
命を落とした仲間達の顔を思い浮かべながら。
...
..
.
「くそっ!!ドリンク=バァのやつ借りパクしやがった!!」
瓦礫の上で少年が地に拳を打ちつける、それを隣で見ていた血塗れの竜が心配そうに少年を見つめる。
「あぁ、ごめんよ怖かったね」
「...」
竜の返事はない、喉が潰れているからだ。
「絶対に返してもらうからな、俺は執念深いんだ、地獄に行こうが天国に行こうが必ず貸したものは返してもらう、それが人として当然の事だと思うんだ、どう?」
「...」
竜の返事はない、喉が潰れているからだ。
「だよね!最近の人間は言葉というものの重みを自覚してないと思うんだよ、自分の言葉には最後まで責任を持つ、けじめを果たす、それが「言葉」を授かった人間の責務というものだと思う、君はどう思う?」
「...」
男の返事はない、喉が潰れているからだ。
「喋れよ人間ならッッ!!」
ーーーバキッ!!
男の返事はない、頭が潰れたからだ。
「「言葉」を話せるならその言葉の重みを知るべきだってのにコイツはッ!!その言葉すらも放棄しようってのか、人間以下!!生ゴミ!!こんな奴がいるから怠惰が生まれ衰退が進むんだ、なぁ!!」
「フーーーッッッ!!フーーーッッッ!!」
白銀の鎧を纏った女は必死に返事する、口は縛られており手足が無い、ダルマ状態となっており彼女自身なぜ自分が生きているのかさえわからない。
「いい子だ、君は初対面の時より大分従順になった、マタ村の守護神と言われた戦士のかけらもないけど」
少年は竜の頬をそっと撫でる。
「高潔な騎士でも野蛮な盗賊でも至高の勇者でも、みんな心の奥底はドス黒い、その点「獣」は...あぁ「堕ちた獣」ではなくただの魔物も含む獣ね、彼らは良い、従順で僕に嘘をつかない」
「...」
「しかしドリンク=バァを弱らせたのは彼らとしてトドメを刺したのは誰だろう?全く魔力を感じなかったけど...手練れが隠れていたのかな」
ーーーピピピピピ
「ん?」
少年は腕につけた時計を確認し、はぁっとため息をつく。
「もう少し君と戯れてたいけどそろそろ時間だ、すぐ終わるし待ってて」
その瞬間、少年が見ていた廃墟の景色はスライドショーのように切り替わりそこは廃れた教会の中だった。
「ねぇやっぱもっとかっこいい所にしないー?こんな埃っぽい所じゃなくてさもっとマナタン帝国みたいな煌びやかな所に拠点を置いてさー!」
「獣くさいアンタにはお似合いの場所だと思うけど〜?」
声の方向にいたのはファルカと同じ背丈か少し高い程度の少女だった、大人用のパーカーに近い大きいサイズの洋服を身に纏っている、前は開けているのにその中は何もない深淵が広がっており、顔はフードで隠されてみることができない。
そして彼女の歯は真っ赤に染まっておりつい先程まで食事をしていたかのようだった。
「『背信者』、ノウスだっけ?それどういう意味かなー?」
「そのまんまの意味よ、こんなゴミ溜めにはアンタのような薄汚いネズミがお似合いだって言ってるの」
「はぁ?君なぁにいっちゃってんの?そんな血みどろの服着といてよく俺にそんな事が言えるよね?僕の服もぼろっちいのは否定しないけどその分愛する僕の家族のために私財を投じてるんだ、本当の愛を知らない君には永遠にわからないだろうさ」
「本当の愛なんていりませーん」
「ほらほら2人とも、久しぶりに会ったのに喧嘩はよくない」
睨み合う2人の間に割って入る男、否、男と言えるのか怪しい。その見た目は人型でありながらも壊れたビデオのように色が不安定であり存在自体がバグのようで原型を留めていない。
「サウスお兄様、ひさしぶり!」
「『迷宮主』、てか君どこにいるの?集会なのに君ここに来てないよね、それ遠隔だよね、面と向かって話せないわけ?目を見て話せないとか哀れだねー」
「まぁ僕にも色々あるのさ」
「...私が...最後か?」
さらに1人、柱の影からぬぅっと現れたのは重厚な装備を見に纏う老兵、機械のような声と中身の見えないブリキの人形のような兜からはとても人間とは思えない雰囲気を漂わせている。
「『老公』...」
「アーシア、まだ『追放者』と『魔王』、あとリーダーが来ていないね」
「...そうか...意外に早かったな」
「『追放者』は来ない」
「!」
「!!」
「彼は今日はこないの、ごめんねぇ」
女性の声、首のない女神像の上に座っている者がいた。柔らかで温かみのあるのがより一層不気味に思える声、思わず全員が固まった。
「...『令嬢』...か」
「エウロペ様!」
長い髪を後ろで纏めフリルのついた貴族の洋服を身につけた姿は男装の麗人と呼ぶに相応しい。
「エウロペ様!今日はそのお姿なのですね!」
「ありがとうねぇ、今度思いっきり運動する機会があるからこの服なのよ」
「もしよければ私も行きましょうか?」
「気持ちはとおっても嬉しいわ、でもまた今度ね」
「『令嬢』は君の事足手纏いだってさ」
「死ねファルカッッッ!!!」
「やるかノウスッッッ!!!」
2人の喧嘩をよそにアーシアがエウロペに問いかける。
「『令嬢』、私達を呼んだ理由についてお聞かせいただいても?」
「...ドリンク=バァがやられた」
「!!」
「ッ!?」
「...」
「!」
「ほう...」
次回投稿日は1/8 18:10
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