44話 魔王アンタクティカ
むかしむかしその国は魔王アンタクティカに侵攻をうけていました、しかしその国から突如として現れた勇者様により魔王は打ち倒され、世界は平和になりましたとさ。
「さて」
「めっちゃ端的に説明したな、んでお前がその魔王ってこと?」
「そうだよー」
ふわっと言っているがとても魔王には見えない、紫髪を靡かせ白いワンピースで身を包んでいる姿は少女そのものだが、異様なのは彼女の側に漂う禍々しい二本角。
「よくドリンク=バァを倒した、褒めて遣わす!」
「そりゃどうも...俺の力じゃないけど」
「褒美としてなんでも好きな質問に3つだけ教えてあげよう!」
「3つ、なんでもいいのか?」
「なんでもいいよ、あと2つ」
「ちょちょちょ」
この僕っ子ロリ娘の言うことが本当であればこの世界における重要な存在だ、ヘマはできない、アイザックは無言になり考え込む。
「君のために僕の方から一個だけ教えてあげよう、これ見てみ」
「これーーうわっ!?」
アンタクティカの手の中から球体が出てきた、腐敗した肉と黄色い痰が混じり合ったモノが至る所から謎の液体を噴出しどくんどくんと脈打っている。
「それなんーーーんんッッ!!」
危なかった、余計な事で質問をしたしてしまう所だった。その様子をみたアンタクティカがふっと鼻で笑っている。
「これが君が発症しなかった理由さ」
「...?」
「僕が君の中で流れていた病原体を摘出したから、君は「獣」になるのを免れた」
「ーーー!」
「君がどんなにぐちゃぐちゃになっても生きてる理由は知らない」
というより自分の中にそんな気持ち悪いものが流れていたと思うとゾッとする。
「なに口を塞いでいるんだい?感謝の気持ちくらいは聞かせて欲しいな」
「あ、そうだった、ありがとう!!本当に、ありがとう!!」
「んん、気持ちのいい言葉だね」
「はい!質問決まりました!!」
「はいどうぞ」
残り二つ、大きく絞って「みんなのための質問」と「自分のための質問」だ、まずは前者を聞くことにする。
「この病、治療法はないのか」
人を「堕ちた獣」に変えてしまう疫病、これの治療法がわかればみんなの助けになるかもしれない。
「ないよ」
しかし即答でバッサリと切り捨てられてしまった。
「...そうか」
「抵抗力がある者からサンプルを取って特効薬を作れると考えたが、君の知識基準で言うと「ウイルス」かな?これは感染した対象によって変異するんだ、だから確定的な治療法は未だ見つかってない、体の免疫を極限まで高めて、あとは意思の力があれば克服する事はできるが、稀だ」
「ミークやシオンも攻撃受けたし感染してたけど...」
「君はかすり傷程度でも感染すると思ってるけど実際は違う、ダメージ次第では身体の免疫で治る場合もある、シオンさんは前者、ミークさんは後者かな、シオンさん強いね」
アイザックの場合は特別であり、『魔王刻印』を介して魔王が手を入れたため摘出できたそうだ。
「...わかった、後もう一つ」
「うん、どうぞ」
シオン達の助けになれそうな情報は引き出せなかった、今度は自分の事について知っておく必要がある、今後の行動指針においても重要な事だからだ。
「なんでアンタは俺をこの世界に呼んだんだ?この刻印ってアンタが作ったんだからアンタが俺を呼んだのだと思うんだが」
「ふむ...」
服を脱ぎ背中の刻印をアンタクティカに見せる、嵐の渦のようなトゲトゲしい紋様が妖しく光っている。
レーチェ曰くこの刻印は魔王が開発したものであり、アイザックがこの世界に呼ばれた理由と刻印は何かしら関係性があると判断している。
「...その質問は、悪手かな」
「え、なんでだ?」
「...
ーーー僕は君を呼んでない」
「......え?」
有用な答えを期待していたアイザックが凍りつく、話し方からしてからかっているものかと思ったが視線を見るにどうやら本気のようだ。
「で、でも魔王刻印はアンタが作ったんだろ?アンタがどっかで俺にコレを付けてるはずなんだ」
「確かにそれは僕が開発したものだ、しかし僕は君を召喚した覚えもなければ君のそのたくましい背中に刻印を入れた記憶もない」
「.....そうなのか...?」
「あぁ、でも過去に異界から生物を呼び寄せる実験をして失敗に終わったけど...少なくともその召喚の儀式とその刻印の関連も全くない」
「...」
この世界に初めて来た時の事を思い出す、死にそうになるほど走って走って走りまくって、その時に助けられた老人になにかをされたのを覚えている。
その時の事をよく思い出して見ればあの時気絶させられた時は背中に何か異変を感じたのを思い出した、これまでの情報を繋ぎ合わせると一つの答えが導き出される。
「.....『老公』」
「ん?」
「『老公』だ、その人なら何か知ってるかもしれない!!」
勇者達と共に魔王を討伐した仲間の1人である老兵、「運命の夜」が来た後は未だに行方不明となっている。
アイザックを助けたあの時の老人の声についてレーチェは『老公』である可能性が高いと言っていた。
「頼むアンタクティカ!!そいつが何者でどこにいるかって知ってるか!!」
「知ってるよ、何者かもね」
「頼む教えてくれ!俺にとっては重要なんだッ!」
「やだ」
「な、なんーーーあまさかッッ!!」
「君はもう3回目を使ってしまった」
痛恨のミスだ、アイザックが本当に聞きたかった質問をアンタクティカはバッサリと切り捨ててしまった。
「頼む魔王!!もう一回チャンスをくれ、この質問だけでいいから!!」
「ダメだ」
「そ、そんな!!」
これがわからなければアイザックがここに連れてこられた意味がわからない、そしてわからないとなるとそれ以降の行動にも多大な影響を及ぼしてしまうだろう。
アイザックがそれ以上を口に出そうとした時、この広大な水面世界に似合わない現代的な音が鳴り響いた。
ーーーーピピピピピ
「おっと」
「え?」
アンタクティカが懐から取り出したのはアイザックがよく知る、見るのは久しぶりな時間を刻む青い箱、目覚まし時計だ。
アイザックがこの世界に来てから様々な文字を耳にしたし色々な道具に触れたがそれほどアイザックの世界に近しい機械は見当たらなかった。
というよりもこの世界の数字と時計に刻まれている数字が違う、この文字はアイザックの世界のものだ、間違いない。
「そろそろ時間だ、私も戻らないと」
「魔王アンタクティカ...」
「なんだい?」
「お前...何者なんだ?」
「それにも答えられない、だがサービスで少しだけ教えてあげるよう、最後のサービスだ」
「...サービス?」
「僕は
ーーーー君の敵だ」




