43話 最終戦争ユ⬛︎⬛︎タ⬛︎・ドリンク=バァ(7/7)
バンッ!!
瞬間、ドリンク=バァの脳内は炸裂音と共に無限の処理を行っていた。アイザックの取った行動の意味、激流の如く流れる無数の戦法、タクティクス、コンボ、盤面、捨て奸、ネルの女神像、オーケストラ、黄金比、白銀比、マナタンサラマンダー、etc、そして...ect.ect.ectectectect
漂白、全てを処理しきれずドリンク=バァは恐る恐る口を開いた。
「な...な...お前...」
「...」
「何...
なにやってんだああああああああああああぁぁあぁぁぁぁああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああーーーーーーッッッッ!!!????」
ドリンク=バァは何かしてくるものと思ってあえて待ち構えていた、しかしアイザックの行動にただ怒りと困惑それだけが感情を埋め尽くしていた。
アイザックは...。
ーーー土下座をしていた。
「もう...終わりにしてくれドリンク=バァ、もう十分だろ」
「はぁ...?は?は?」
地に手をつき背中を丸めて、その光景、それは横から見れば見事な黄金比を映し出している程の見事な土下座だった。
手を尽くしきったアイザックには、もうこれしかできなかったのだ。
「もう十分お前のことは見てるよ...みんな、みんな見てるよ、それでもまだ足りないのか...ドリンク=バァ」
「..........」
顔をあげ、まっすぐとドリンク=バァを見つめる。その目は下からでも上からでもない、ただ怯えと悲しみの混じったなんとも言えない視線だった。
「...違う」
「?」
「違う...!!違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違うッッ!!それじゃない!!それじゃないんだ!!」
「....」
「お前もッッ!!お前もその目で俺を見るのか!?違う!!俺が欲しかったのはその視線じゃあないィィ!!もっと、あったかくて、それで...それで...!!」
「...どんなだよ」
「それで........あ...あれ...?」
アイザックのその視線をどこかで見たことがある、何ヶ月か前の誰かと同じだ。
「あ...」
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『ドリンク、頼むもうやめてくれ』
思い出した、これは父の視線と同じだ。
「運命の夜」、守るはずの民に噛まれ、全てに裏切られその後わけもわからず誰も彼もを喰い殺してとある一家を皆殺しにしかけた時だったか、村にいたはずの父が自分の前に現れてそう言ったのだ。
なんでそんな目で見るんだ。
そんな父の目は怯えと悲しみの感情に満ちていた。
父の背中を追ってひたすら鍛錬を積んだ、積み続けた、とっくにその背中を飛び越えていたとしてもただひたすらに。
なのに、なぜ誰も俺を俺の求める眼差しで見てくれない?
どうして俺を認めない?
どうして、どうしてーーーー
何が足りない?強さか?それとも人格か?技術か?殺した数か?
いや、あれーーー
...
気付いた時には、自分の手にぶら下げていたのは父の首だった。
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ふと、自分の足元の水たまりが目に入った。
「バケモノ...?」
そこに映っていたのは包帯は既に赤く染まり至る所から骨と肉、そしてなにかの液体が漏れ出している怪物。
醜い、怖い、気持ち悪い、嫌悪の具現化、こんな奴怖がられて当然だ。
「俺は...俺は一体!?...アァァァアアアアアァァァアアアア!!!」
ーーー自分は何のために?何がしたくて?守るべきはずの人を、見てもらうはずの相手を殺しておいて?ドリンク=バァ、お前は一体何がしたかったんだ?
ーーーそもそも、お前は何をやっていた?
「違う...こんなはずじゃなかった...こんなはずじゃなかったんだ!!」
ーーー父のように強くなりたかった!!みんなから尊敬されたかった!!自分をもっと認めて欲しかった!!ただそれだけのために、それだけのために...。
だが、転がるのは骸と肉、飢餓を抑え切れず、しかし自分を認めてもらいたくて、ドリンク=バァは...腐り切った脳みそを必死に、無意識に絞って行き着いた答えは。
ーーー悪虐に染まり切る事で、しかし...
「俺は...俺...は?」
ーーーそれが心から目指した自分の像...像?
あれ?
『避けろ』
「え?」
声、アイザックかその方向へ振り返った瞬間真上を何かが通過した。
「ッッッッ!!!」
ーーーパァンッッ!!
刹那、ドリンク=バァの頭蓋は弾け飛んだ。
「ーーー!!」
今の突風、威力、アイザック達はこれを知っている、地面に転がったバラバラの矢を確かに知っている。
「せ...セルシッ!?」
魔王軍幹部の1人、かつて命を賭してアイザック達を救った魔族、間違いなく死んだかのように思われた彼の攻撃だった。
「ーーー!!ーーー!!」
「...ドリンク=バァ、これでも動くのか」
鼻から上を失ってもなおよろよろと彷徨うドリンク=バァ、しばらくした後糸が切れたように膝をつき何かを求めるように手を伸ばしていた。
そしてそれすらもやがて力を無くし、身体と共に地に伏せた。
「ドリンク=バァッ!!」
「ーーー!!........」
朦朧とする意識の中、アイザックの声をドリンク=バァは聞いた。既に聞こえないはずだが、耳では無く彼の全身が、彼の感覚がアイザックの声を受け取ったのだ。
「お前は...なんで...なんでこんな事を...なんでそんな注目してもらいたかったんだよ...そんな姿になってまで...!!!」
「.......」
アイザックは正直言ってドリンク=バァの返答を期待していなかった、ただ返答はなくとも純粋に問いたかった、たとえ意味がなくてもこの言葉をぶつけずにはいられなかった。
「...」
しかし、ドリンク=バァは答えた。
「.........誰かの記憶に残る...何者かになりたいのは...生きとし生ける人間の......性だ」
「...ッ」
それ以上彼の言葉は無かった。
ドリンク=バァの意識に映るのはかつての仲間達との旅、勇者の顔、村の人々、そして...
「.....ッ」
いた、1人だけ、たしかに自分の全てを認めて受け入れてくれた人が、どうして忘れていたのか。
「..............とう...さ」
忘れていた、どうしてか忘れていた、いや忘れたかっただけだ、なぜなら飢餓に耐え切れず...
ーーーあぁ、そうだった。
ーーー自分が殺したんだった。
「...」
ドリンク=バァの体はドロドロに退け、骨すらも残らずに消滅した。
ドリンク=バァは今度こそ、死んだ。
...
「セルシさん!!」
「...」
その場を去ろうとしていたセルシをミークが呼び止めた、ここには2人しかいない、唯一動けるミークが彼を追いかけたのだ。
「セルシさん、帰りまーー」
「来るな」
「!」
触れようとしたミークに静止をかけた、セルシの衣服の所々が血で汚れておりよく見ると片腕が無い。
「俺でも、この飢餓に耐え切れるかわからない、だから来るな」
「そんな...」
セルシの顔は見えない、見えないが顔から何かがぶら下がっている。本能的に見てはいけない、そう感じたミークはそれ以上近づくのをやめた。
「...どうして今まで助けてくれなかったんですか」
「無理だったさ、ドリンク=バァは俺を常に補足していた、アイザックが作った間のおかげさ」
「...そうですか」
「...」
「...」
「セルシさん...これからどうするんですか」
「やるべき事がある、だから拠点からは離れる、だからお前達ともここまでだ」
「そうですか...」
「...じゃあな」
ふらつくように歩き、次第に遠ざかっていく背中を見る。
ーーー本当にこれでよかったの?
自分に言い聞かせる、違う、そうじゃないだろう、もっと言いたい事があるはずだ。
この会話が最後になるかもしれない、どこか遠くに行ってしまう前に、後悔のないように。
「セルシさん!!」
「...」
「私...どうでしたかッ!?」
「!」
「私、引きこもりで気弱でどうしようもないけど、お姉様みたいに果敢に戦えてましたか!胸を張れる魔法使いになれてましたか!」
「...」
「貴方が命を賭けて守る程の人間になれましたでしょうか!!」
「ーーー!!」
ミークにとってセルシ=アルバイエンは天涯孤独となった自分の面倒を見てくれた、兄のような存在だった。
たとえ種族は違えど、ミークにとってはかけがえのない家族だった。
地獄から逃げて倒れていた所を拠点の見張りをしていたセルシが拾ったのが始まりだった。
怪物となった姉がトラウマになり部屋の隅で引きこもっていたミークをセルシは毎日世話をやいた、毎日食糧を持って行った、セルシと共に見張りもやった。
相手は魔族だ、もしかしたら何かを企んでいたのかもしれない、しかしそれでも、全てを失ったミークにとって二度と失いたくないもう一つの日常となっていた。
しかしその日常はもう戻らない、戻らないが故に前に進まねばならない、それなのに
涙が止まらなかった。
「まだ、まだおんがえじも...できでない...のに!!」
「ミーク...」
「?」
「お前は立派な魔法使いだったよ」
「...!!」
それ以上の言葉は無かった、セルシは顔を向ける事もなく彼方へ消えて行った。
その背中をミークは消えるまで、消えた後もずっと見続けていた。
...
..
4人は廃墟を見つけてしばらくはそこで休んだ、いるかもしれない「獣」も気にせずボロボロのベッドで川の字に並んで寝た。
大きな脅威が去ったためかすぐには帰らなかった、いざという時のため魔力を補給した後で帰ろうと言うレーチェの提案だった。
魔力は生命力に近いもので、休めば回復できるのだ。
疲れが酷かったのか、1人起きては寝て、また1人起きて水分をとっては寝て、拠点に帰ったのは2日後だった。
その間にアイザックは夢を見た、前に見た夢と同じ、空とそれに反射した水面が広がる世界。
「...」
しかし、夢とは違う。
鮮明に見える、夢のように朧げでもないはっきりとした意識でその世界が見える。
「...なッ!?」
だからこそ、この世界の本質もはっきりと見えた。
「なんだよ...これ!?」
自分が立っている水面の上、足は砂についていると思っていた。
しかし違う、砂の上に立っているのは間違いないが、何かが違う。水面の下の砂、そこの所々に広がる頭蓋骨、後退りすると、踵に当たったまた別の骨が水の流れに乗じて砂となって漂う。
それを見てアイザックは理解した、ここは砂の上ではなく数多の人の骨の上なのだと。
「...ここは...!!」
「地獄...想像とは違ったかな?」
その先に丸いテーブルと椅子、そして少女が座っていた。
「...よう?」
「...」
前と違うのは椅子が一つ増えていた事、アイザックは少女の正面に座りじっと見つめる、少女もまたまじまじとアイザックを見つめてこう言った。
「...改めて改めて初めまして、僕の名前はアンタクティカ、貴方の名前を教えて?」
次回投稿日は1/4 18:10
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