40話 最終戦争ユナイタル・ドリンク=バァ(4/7)
オーバードライ・ブラックバニッシュ
「グギャアアアァァァァァァーーーッッ!?」
血管に針を巡らせたような鋭い痛みが身体中を駆け巡り衝撃で空中に投げ出される、時計塔はその一撃で簡単に崩れ落ちガラスと機械の破片、そして砂埃が舞う。
「ギャッーーガァァァア!?」
地面に叩きつけられ、降ってくるガラスの破片が身体を激しく傷つける。
「はぁ...はぁ...そうだアレは...よかったぁ」
形は消えてしまったが、『昏黒・虚数孔』はアイザックの手の中にある。見た目では何もないが、術式と共に確かに手の中にある、いつでも撃ち出せる。
「くそっ...やりやがったなぁ...!!」
わざとだ、わざと隙を見せた、異形と成り果てても武闘家としての勘は残っているということか。
「どうする...これじゃあ隙見せてもわざとかマジかわかんねぇぞ!!」
今のを見て仕舞えば疑心暗鬼に陥ってしまう、次見誤れば今度のカウンターは自分も無事である保証はない。
「何か...何か手は...ん!?」
魔力の反応、ドリンク=バァではない、別方向から凄まじい速度でドリンク=バァに向かっている。
「あ!!」
「ドリンク=バァァァァアアアアアーーーッッ!!!」
ーーーボゴォッッ!!
「ガァーーーッッ!?」
その速度は落ちる事なく光と見間違う程の速さでドリンク=バァに激突する、レーチェの投げていた小石とは威力がケタ違いであり、ドリンク=バァは血肉を撒き散らし激しく吹き飛ばされる。
「シオンッ!?」
シオン=エシャロット、その姿は遠目でもわかる、間違いなく彼女だった。
「『転送障壁』をかけた上でタックルかますか、悪質極まりないが確かにアリじゃな!!」
マッハも超えんばかりの速度で衝突すれば人の肉体であれば粉々に弾け飛ぶだろう、しかしそこを『転送障壁』の効果である「ダメージを二度まで完全無効化」を利用し、自身は安全に衝撃だけを相手にぶちかます強力なコンボだ。
「シオンさん!!」
ーーーガッ
「あぶなっ」
しかしシオンは魔法を使えるわけではない、魔法をかけたのはミークだ。落ちていくシオンの手をとりレーチェと同じ魔法で浮遊している。
「シオンさん、結構本気で『魔轟衝』出しましたけど酔いませんでした?」
「ううん、全然?」
「お前ら...なんで来...いや、聞くまでもないか」
「そう言うことです〜」
「ァァァアアァァァァァァーーーッッッ!!」
「来るわよ」
雲を突き抜け目の前に現れた異形、先ほどよりも少しだけ大きく見えるのは気のせいだろうか。
「アイザックが『昏黒・虚数孔』の準備を完了しておる、上手い事隙を作りさえすればそれを打ち込む、それで勝ちじゃ!!」
「聞いた事ないんですけどそんなすごい魔法なんですか?」
「相手を虚数...簡単に言うと何もない所に送り込んでバラバラに分解する魔法!!」
ーーーバァッ!!
爆発したかのような突進と共に振り下ろされた剛腕を全員が回避する。
「ーーーッッ!!」
「しまっ!」
しかしシオンを担いでいたせいか一瞬体勢を崩したミークをドリンク=バァは見逃さない、続けて電車事故のような拳が飛んでくる。2人はそれを避けきれず正面から受けた。
ーーードッゥ!!
「ぐぅぅぅぇッッッ!!」
「きぃぃぃ!!!」
幸いシオンにかかっていた『転送障壁』によってダメージは免れたが衝撃により後方に激しく吹き飛ぶ。
「ミークーッッ!!」
「ギァッッ!!」
一瞬隙のできたレーチェに光線を放つ、『転送障壁』を自身にかけていたのか光線は受けたレーチェを軸に周囲に分散する。
しかし衝撃は免れないせいでレーチェも小粒になるほど彼方まで吹き飛ばされてしまった。
「しまったぁぁあああぁぁあ!!!」
ただの攻撃ではない、これの狙いはドリンク=バァ自身から邪魔者を遠ざけるため。完全に自由になったドリンク=バァは全身の血管を浮き上がらせガタガタと震え出す。
「ガァァァアアァァァァァァ!!!」
ーーーカッ!!
「な、なんだッ!?」
アイザックもドリンク=バァの異変に気付く、ドリンク=バァは全身から放電し赤から紫にその輝きを変化させていく。
ーーードンッ!!
そして轟音と共に上空、大気圏を超えそうな程上昇し静止、そのまま地上へ向けて落下を始める。
ーーーゴオォォォォ....
「ま、まさかッッ!!」
あの巨体があの速度で地上に激突したらどうなるだろうか、地面に到達した衝撃は自分はおろか王国、いやこの大陸すらも吹き飛ばしてしまう威力かもしれない。
「何考えてんだアイツ!!ふざけんじゃねぇぞッッ!!」
『宵の忌み口』、炎を纏い空から落下し、その衝撃で敵の陣形を崩壊させるドリンク=バァの技。今の彼の状態では炎というより隕石だが。
なによりも時間がない、アイザックはドリンク=バァが地面に到達する前に『昏黒・虚数孔』をぶつけ無力化する、それしか道はない。アイザックは手に力を込め再び『昏黒・虚数孔』を顕現させようとする、しかし。
「あ...アレ?」
先ほど手に握っていたはずの暗黒が出現しない、どれだけ魔力を込めてもそれが現れる事はなかった。
「な...なんで...!?」
こうしている間にもドリンク=バァは轟音を上げ地上に迫っている。
「だぁッッ!!」
「師匠ッ!」
ーーーゴッッ!!
ドリンク=バァの落下を止めようとレーチェは一足早くドリンク=バァの真下に現れ、片手でそれを受け止めた。
「い"ッッッ!!?」
しかし、それはあまりにも重すぎた。魔法で筋力は上げている、『転送障壁』で衝撃は無効化している、しかしドリンク=バァの持つ重さをレーチェの体では受け止めきれない。
ーーーガリッ!
「がーーーァ!?」
そして、レーチェの腕が、肩もろとも生々しい音と共に吹き飛んだ。
「師匠ッッ!!くそがぁぁーーーーッッ!」
それでもドリンク=バァの勢いは止まらない、赤き星は次第に大きくなり覆っていた雲を吹き飛ばしその姿を現す。
「クソックソッ!!畜生なんでッッ!!」
アイザックの腕に感覚は残っている、確かに持っている、なのに出てこない。
「こんな時に俺は!!またみんなの役にたてねぇのかよぉぉぉッッ!!」
また自分のせいで失うのか、ここまで頑張って来たのに、結局自分のせいで台無しになるのか。
以前のような後悔や申し訳ない気持ちもある、しかし今はただ自分の非力をひたすらに悔やんだ。あぁそうか、これが「悔しい」という感覚か。
今にして思えば自分が何かに真剣に打ち込めたのは久しぶりだった、そうでもしないと死ぬからというのもあるが、自分の人生今まで特に何かを頑張った事はあまりなかった気がする。
テストがあって、点数が低くても真剣に勉強する気になれなかったし、ゲームもすぐに飽きた、バイトだってお金が欲しいから適当に選んでただやる事をやっていただけ、それだけの自分からは何も生めない退屈な人生だった。
「なんで...俺はここまで真剣になれたんだろうな」
ふと思い出すのは自分の家族の顔、見知った通学通勤の道、友人や恩師の顔、そしてこの地で初めて会ったミーク、シオン達の姿。アイザックはそこで自分が頑張れた理由を理解する。
「あぁそうか...多分そうだ」
自分のためではなく、人のためなら、アイザックは、藍村咲太郎は真剣になれるのだ、あぁどうして今まで気付かなかったんだろうか。
「いや、気付いても意味ねぇよ...今まで真面目にやらなかった俺が今更真面目にやったところで、な」
だが、もう既に全てが遅かったのだ、そうアイザックは膝をつき項垂れた。
...。
その時だった。
「術式がズレてるね、ほらここの部分」
「...え?」
声がした、シオンでもミークでも、レーチェでもない少女の声。振り向くと白髪の、自分よりも背丈の低い白いワンピースを着た少女が自分の腕を指でつついていた。
「さっきの衝撃のせいかな、ほら文字が式からはみ出てしまってる、これじゃ上手く作動しないよ」
そういって少女は腕を持ち上げ、指でくすぐり始める。少しくすぐったさを感じたが、何か自分の腕に流れている魔力を操作しているようだ、そして。
ーーーボッ!!
「うおッッ!?」
「ね」
自分の手から『昏黒・虚数孔』、光を纏う暗黒の塊が現れたのだった。
「す、すげぇ...ありがとうッッ!!」
「どういたしまして」
名前を聞きたい、もっと礼を言いたい、でもまずは目の前の脅威の対象が先だ。
アイザックは立ち上がり、腕を大きく振りかぶる。しかし投げはしない、それでは届かない可能性がある。暗黒の塊を宙に浮かせ体勢を取る。
それに足りない、ただ投げるだけでは自分の気が済まない、シオンの、レーチェの、ミークの、セルシのナルボのラザニアの皆んなの、想いを込めたい、だからこそ。
いや、それ故に!!
「これで...吹っ飛べぇぇえええええええええーーーーッッッ!!!」
ーーー『昏黒・虚数孔』を。
ーーー蹴り飛ばしたッッ!!
「アッ!!?」
「ッ!!」
「来たッ!」
「来ましたッ!!」
ドリンク=バァは異変に気付く、自分に何かが迫っている、とてつもなく脅威的な何かが。
レーチェも気付いた、とてつもなく大きな魔力の塊が動き出した事を。
シオンとミークも気付いた、ドリンク=バァに迫る一粒の暗黒を、それが発する光に。
「ーーーッッ!?」
飛来と同時に急拡大する暗黒を目の前にしたドリンク=バァはその勢いを殺し迎撃の体勢をとって見せた、そして。
「ダァアァァァァァァアアアアッッッ!」
ーーードンッ!!
その暗黒に飲み込まれまいと剛腕から放った魔力の衝撃波、巨大な穴の勢いが衰える、そして奴が出したその技をアイザック達はよく知っている。
「『魔轟衝』、アイツも使えたのかよッ!!ーーーていうか拒絶できるのかよッ!!?」
全身の魔力を放出したのか、レーチェによって開けられた風穴から血がドボドボと噴き出る。元々魔力を魔力のまま打ち出すだけなのでそこまで難しい技ではない、それ故に魔法を使えないドリンク=バァでも使えたのだろう。
「マジで...ふざけんじゃねぇぞ...人の技真似しやがって!!!」
しかし、裏を返せばそんな単純な技しか使えないほどドリンク=バァは追い詰められていると言う事、必死にこの暗黒に呑まれまいと抵抗している。さらに言えばこの技は全身から魔力を出す故に消費が激しい、例え1発の威力がアイザックのものよりも数段強かろうが...。
「だがこれ俺の方が有利だぁぁああああああ!!!」
「ゴーーーアァ!?」
「『魔轟衝』!!『魔轟衝』!!『魔轟衝』!!『衝』ッ!『衝』ッ!『衝』ッ!『衝』ッ!ァァァァアアアアーーーッッッ!!」
ーーードンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンドンドンドンッッ!!
「ギャァアァァァアアアアーーッッ!!」
連続で打ち鳴らす衝撃波で『昏黒・虚数孔』を無理やり押し込む。
パワーで勝てなくても気合いならアイザックは強い、少なくともドリンク=バァよりも、だ。それは先の戦いで知っている、それにこの状況、『魔王刻印』を持っているなら尚の事だ。
「『火炎弾』ッ!!」
ーーーガッ!
「ギィイイイイッッ!!?」
目の前の魔法を抑え込みつつ背後の衝撃を感じ振り返る、そこには先ほど吹っ飛ばしたはずの2人の少女、シオンとミークが自分に向けて音速特有の高い音をたて急接近していた。
「よくも師匠をぉぉおおおッ!!」
「アァァァァァァーーーッッッ!!」
ーーーザグッ!!
「ギィイアァァァァァァアァァァァァァッ!!?」
鋭い剣先で脇腹を抉られ、ドリンク=バァは体勢を崩す、それはわざとではない明らかな『隙』である事をアイザックは見逃さなかった。
「今だッ!!『魔轟衝』ォォォオオオッッ!!」
「ギャアァァアァアアアアアーーーーーッッッ!!」
ーーードォォンッッ!!
全力の衝撃波を叩き込んだ瞬間、暗黒は弾け空を明るく覆うほど広範囲にかけて爆散した。
シオンとミークは爆風で投げ出されそれをレーチェが前者を残った腕で受け止め後者を足でひっかけた、「ぐえっ」と漏らしたミークを他所に爆発を見つめている。
「ど、どうなった!?」
爆風と巻き上げられた埃であたりが見えない、レーチェも魔力をほとんど使い切っているためそれを吹き飛ばす術もない、ただこの行方を見守る事しかできなかった。
「.......!!」
そしてその光景に思わず...。
「........嘘...じゃろ...?」
ドリンク=バァは生きていた。
ーーードンッ!!
「はぁ...はぁ...!!」
地に足をつき、ふらつきながらも立ち上がる姿は先程の化け物ではない、全身ミイラのドリンク=バァの姿が確かにそこにあった。
「な...ァーー?」
アイザックもそれを見て震えが止まらない、これでも届かなかった、残ったのはただ純粋な絶望感、それだけだった。
「フハ...ハハハハハッ!!ハハ...ハハハハハ!!ーーーアァ!!」
ーーーゴォンッッ!!
「ギャアッ!?」
突如襲う衝撃にアイザックはなす術もなく吹き飛ばされる、いくら魔力が無限だとしてもたび重なる魔力の行使に体が耐えきれない。
それに蓄積されたダメージもあり、もうアイザックには動く力もなかった。
「お前よくもォ...やってくれたなぁぁ!!えへ!!エヘ!エヘヘヘヘ!!」
ーーーグシャッ!
「ギャアァァアァアアアアア!!」
傷口を踏みつけられ悲鳴を上げるアイザック、それを容赦なく再び踏みつける醜い姿はもはや「勇者一行の1人」や「世界最強の武闘家」の面影など微塵も残っていなかった。
「もう無いよな、もう手は無いよなァ!!ならもう死んでもいいよなアァァァァ!!」
ーーーミシミシミシ!
「アガァアァアァーーー!!?」
月も霞む廃墟の街、瓦礫の上でただ1人の少年の悲鳴が虚しく響いていた。
次回投稿日は12/28 18:10
地獄は続きます
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