37話 最終戦争ユナイタル・ドリンク=バァ(1/7)
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「...これは酷いな」
そこは肉の焼けた臭いの充満する下水道、黒焦げの肉体を前に少年は眉を顰める。
赤を基調とした大きめのズボンと少し汚れた白いシャツ、銀髪蒼眼の美少年がそこにいた。
「相当してやられたようだ、自分がやってきた事のツケでも払わされたのかい?」
「...」
応えない、喉が焼けているのか、そもそも生きているのかさえわからない。
生きていたとしても死に体なのは目に見えて明らかだった。
「しかしあのドリンク=バァを倒して見せるとは、僕ですら正面戦闘は避けたいのに...いったいどうやってここまで追い詰めたんだ?」
「.....テ...マ」
「ん?」
黒焦げの肉が喋り出した、声は掠れておりよほど耳を傾けないと聞こえないが、たしかに言葉を口にしたのだ。
「嘘でしょッ!?まだ生きてんの!?...さすが最強の武闘家...タフだなぁ!?」
「...テ...『魔獣遣い』...カ...?」
「...」
...。
「あぁ、そうだよ。『魔獣遣い』...ファルカだよ」
「タノ...ム...テヲ...カシ...」
「え、やだよ。君この前僕を殺そうとしたじゃん、今回僕がここに来たのは単に偵察だよ。これから『令嬢』と『迷宮主』に呼ばれてるから君に構ってる暇はないんだ」
「...ナラ...セメテ...オマエノ...ソレ」
ドリンク=バァの指す『ソレ』、ファルカの皮のカバンの隙間から『赤いガラス玉』のようなものがチラリと見える。
「無理無理無理、これあげたら君僕のこと殺すじゃん、さすがに君との接近戦は勝てる気がしないからダメ」
「ナイィ...ゴロザ...ナイ!!」
「うーん...」
ファルカは数分考え込み、そして結論を出す。
「条件は一つ、君は今後僕の奴隷だ。僕の命令は絶対だし、僕がジュースもってこいと言えば君はジュースを持ってくるし僕が死ねと言えば君は死ぬ、その関係を飲み込めるなら「これ」を貸そう」
「...ワガッダ」
「あと「これ」はあのレーチェが介入したせいで中身はグチャグチャだ、使えば君にとってもかなり危険だ。今よりはマシだろうけど体が原型を保てなくなる可能性あるし理性を無くすかもしれないし、そもそも耐えきれずに破裂する可能性も...」
「ワガッダ...ハヤグ...!!」
「...はいはい」
そして、ドリンク=バァはそのガラス玉を取り込み...
「逃ガガガがガガガががががすと思っているのかッッ!!」
「...ドリンク=バァ!?」
もはや原型はなく身体全体、特に脳が背中を覆うほど肥大し体は退化したのか腕と足が巨大化した頭部と一体になっている。
頭蓋骨が露わになり、鋭い眼は無く暗黒を見せている、額には赤い目玉のようなものが一つ。
人としての形を捨てたドリンク=バァがそこにいた。
ーーードチャッ!バシャッ!!
「グア...カッ...!!」
「うっ...!?」
ドリンク=バァから滴り落ちる肉片や脳漿、形を保つ事自体ドリンク=バァにとって相当な負荷がかかっているようだ。
充満する腐臭にシオンは眉を顰める。
「レーチェ様、アイザックは...」
「ここだッッ!!」
ドリンク=バァの奇襲により天井から叩きつけられたアイザックが復帰する。
「危ねぇ...ミークが『転送障壁』かけてなかったら死んでた...」
「感謝してください」
「実験しようとしてた癖にッ!」
「じゃが...あれがドリンク=バァなのか...?」
目の前にいるのは見上げるほど巨大な怪物、ドリンク=バァの面影はどこにもない。
「流れてる魔力は間違いなくドリンク=バァのもんだ...でも...なんか別の魔力も感じるんだよな」
「...まさか!?」
「師匠?」
「...奴は...「卵」を吸収したのか?」
「は?」
「お前らにはわからんかもしれんが、ワシは今回の件で例の「卵」の魔力に直接触れている、お前が言っている別の魔力は「卵」のものだ」
「じ、じゃあそれとドリンク=バァが融合したってか!?」
「おそら...来るぞッ!!」
「ガァァアアアアア!!!」
ーーードンッ!
地面を蹴り飛びかかるドリンク=バァ、アイザック達の頭上を巨体が覆い被さる。
アイザックが恐怖を抱いたのはそれ以上に強大な覇気である、まるでダムがそのまま上から降ってくるようなどうしようもない感覚だった。
「全員最大の魔法を!!」
「魔塊弾!!」
「『火炎尖弾』ッ!」
「『ドレッド・アレイスター』ッ!」
「『氷結弾』ッ!」
「『魔拳豪波』ッ!!」
「『火炎弾』ッ!」
それぞれが得意とする遠距離の魔法や技をドリンク=バァに浴びせかける。
詠唱と共に瞬時に放たれる魔法と衝撃波、火花が散り、煙が上がり視界が遮られる。
「......効いてねぇぞ!!」
見えていなくても、アイザックは感づいていた。空気が“重すぎる”。魔力の質が、何ひとつ削れていない。
アイザックの声が上がると共に煙から現れるドリンク=バァ、勢いは全く止まらず押し潰さんと迫ってくる。
ーーードガァァンッ!!
「ぐぅッッ!」
「キャッ!!」
全員がすんでのところで退避に成功するがレーチェの側にいた魔法使い、マシュマは避けきれず足場の揺れによって体制を崩す。
「あ」
「マシュマ避け」
そんな魔法使いをドリンク=バァは見逃さない、着地と同時に放たれた拳撃をマシュマは避けきれなかった。
ーーーバシャッ!!
「っ!?」
太ももから上が衝撃によって吹き飛び骨と血肉のペーストが勢いよく壁にぶちまけられた。
「くそがぁぁぁあああーーーッッ!!」
「待て!!」
冒険者のガートが感情に駆られドリンク=バァに向かってかけ出す、が...。
ーーーグシャッ!
予備動作も見えないドリンク=バァの巨大な拳が冒険者を叩き潰す。最後の一言も許さない無慈悲な一撃、拳を上げるとその後には血溜まりと髪の毛、平になった血塗れの装備品が残っていた。
「い...命が軽いッッッ!!」
いともたやすく、あっけなく、無慈悲に消費されていく仲間達の命。無駄死に、今日だけでどれだけ死んだか把握できない。
「まだ...名前も覚えきれてないのに...!!」
「立って!!私が覚えてるッ!次が来るわ!」
「うっ」
ドリンク=バァが自分が殺した人間に目もくれずアイザックを静かに見ている、攻撃の予感がしたためアイザックは迎撃の体制をとるが。
ーーーシッ
「!?」
ドリンク=バァが消えた。
「後ろかぁッッ!!」
超反応で前に飛び込んだ瞬間、背後から衝撃が走った。
地面のひび割れに体制を崩されないよう再び跳躍し後ろを見ると、ドリンク=バァが既に腕を伸ばしきった光景が写った。
「今よッ!!」
「『魔光斬』オラァッッ!」
飛び散る破片を払いのけ全力でドリンク=バァの懐に潜り込み、手から伸びる光剣で脚部を切り刻む。
シオンも剣を引き抜きもう片方の脚部を切り付ける、元は同じ人間だからか赤い鮮血が飛び交う。
「イギャァァアアアァァァアアアア!!!」
耳をつんざくような悲鳴をあげるドリンク=バァ、シオンとアイザックはすぐさま退避し、入れ替わるように空中からミークとレーチェの追撃が入る。
その際にドリンク=バァにつけた傷を見た。あれだけズタズタに斬り裂いたはずなのに切り傷が圧倒的に足りない、2人で斬ったのにも関わらずだ、その上自分がつけたはずの部位に傷が殆ど見当たらない。
(魔法が効いていない、さっきと同じ!?)
「ャァアアアーー!!」
ーーーゴシャアッッ!!
攻撃魔法は効かない、なので魔法で強化した肉体による一撃。ミークの杖とレーチェの踵落としがドリンク=バァの肥大した頭部にめり込む。
「攻撃の隙を与えるなッ!!」
さらに入れ替わるように冒険者達の攻撃が入る、一撃が決まるたびに肉体が崩壊し肉が削ぎ落とされていく。
「アァァァアアアアーーーッッッ!!!」
「!!」
突然の雄叫び、一瞬攻撃の手が止まってしまう。ドリンク=バァはその隙を逃さず自身の攻撃のため、自身の筋肉を隆起させる。
「来るッ!」
『風』が吹く、感じ取ったアイザックにとってそれは死の予兆、致命となる一撃が来る合図。しかしどこから?右?左?それとも先ほどのように高速移動で死角に回り込む?
「ーーーあッ!!」
ドリンク=バァが動かない、『死の風』が吹いているのに動く気配が無い、だがアイザックだけでなくレーチェやシオン、ミークも来るであろう攻撃の予兆が見えていた。
ドリンク=バァの額の目玉が紅く光り輝いていた。
「目だッッ!!」
ーーーシュガッ!!
レーチェが伝えるよりも早く、ドリンク=バァの紅眼から放たれたのは一条の光線。
「リッッ!!!」
「っ!」
その先に立っていたのはリチュウ、彼女は呆然と立ち尽くしていた。
「あーーー」
紅い一条の光が、彼女を通過した。
次回投稿日は12/22 18:10!!
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