3話 ビーステッド・ディメンション
今回も短め、だんだん長くなります。
あと主人公デザインも今回で公開です。
ちなみにこの魔法使いゾンビちゃんの設定画をXの方で掲載してますのでもしよければどうぞ♫
「なんで...え、何やってるんだお前.....」
少女はオークを食べていた。
飛び立った肉片を拾って口に放り込む。
ーーークッチャクッチャ
肉片がなければ本体を齧る、あまりにも不吉で不気味で、言葉にするのも憚られる景色。
ーーークッチャクッチャ
気持ち悪い。
「あ....」
オークと目が合ってしまった、オークは既に事切れているがそんなことは関係ない、先程まで生きていたモノがじっと彼を見つめていた。少女が引き摺りだした内臓から大量の血が流れ出し、それを少女が飲み干す、美しい桃髪はしだいに紅へ染まっていく。自分の身が貪り尽くされても尚その視線は彼から逸らさない。
「う...ゔぉ」
あまりにも凄惨な光景を頭が理解しようとする、理解しようにもできない不快感が脳を揺らし世界が回る。耐えきれず今朝食べたモノを盛大に吐き戻した。
「あ...。」
ガーリックトーストのペーストと生臭い血が地面で混ざり合う。
「.......?」
「.......あ、ど.......」
少女と目が合った、今にも飛び出そうな目玉はギョロギョロと蠢き顔は原型なく腐れ落ち、唇が剥がれ赤い歯を露出させている。様々なジャンルを見てきた咲太郎はこの少女を一言で形容することができた。
ーーーゾンビ。
「...ゾンビだ...」
ーーーゾンビである。
「アァァァアアアアーーーーーッッ!!!」
「あぁぁぁぁーーーッッ!!?」
オークを肉塊にした矛先...杖先は今度は自分に向けられる、もう一度叫ぼうとした声は光と爆音で遮られる。
ーーーガァァンッ! ガァァンッッ!!
頭が割れるような甲高い音が響く、よほど運が良いのかその光は彼の体を掠めては通り過ぎる。
いや、違う、少女が急所を外しているのだ。生きている時が新鮮だから、その方が美味だから。だから即死はさせない。そう学習するほど先の死肉がよほど不味かったのだろうか。
「つぁぁぁ!!」
我が身を削らんとする光から逃げるため路地に飛び込みひたすら走る、右へ左へ曲がらずにまっすぐそして右、道はわからないが逃げるためには走るしか無い。また左へ、立てかけている木材を倒し道を塞ぐ、そしてまた走る。生きるためにはそれしかない、何分経過しただろうか片道を振り返る。爆音はもう聞こえない。自分を追うであろう足音も風の音も聞こえない。
あたりに静けさが漂う。
「巻いた...のか?」
ーーーゴシャア。
落ちていく。
嫌違う、建物が上に上昇したのだ。
暗く狭かった路地は全て夕日に照らされる。路地が全て瓦礫となって巻き上げられた、自身の積み上げた心許ない障害物もろとも。
「ゲェ!?」
「.......」
砂とガラス、埃と瓦礫が舞うその中心に少女は浮いている。我が身を齧らんとカチカチ歯を鳴らせて。
夕日を背に輝くガラスの破片と共に浮遊するその姿は一見幻想的であるが、アイザックには見惚れる程の精神的余裕は無かった。
「ま...待ってくれ!交渉しよう、俺を助けてくれたらこのおにぎり上あげるから!なっ!....あ」
既に杖は自分に向けられている。
混乱によって回っていた世界が静止し音が消える。目の前の情景を理解しているはずなのにこれ以上体が動かない、先ほどまで動かせたはずなのに脳がそれを指示しない。頭が真っ白になるとは、きっとこういうことなのだろう。
「....もう無理だろ、畜生」
「........」
アイザックはこの瞬間、さまざまな想いが頭の中で交錯する。
最後にこんな醜い泣き顔を見て死ぬことになるとは、泣きたいのは
こっちだよ。
今日の星占いは1位だったんだ、登校中に500円玉も拾った、学校の小テストで満点を取れた、バイトの最低賃金が上がった、今日は素晴らしい1日になるはずだったのにこんな最後になるなんて。
1日の出来事がフラッシュバックする現象、これは走馬灯というやつなのだろうか。走馬灯とはネットで調べた時は今までの自分の人生が見えるもんじゃ無いのだろうか、なぜ今日一日の出来事しか思い出せないのか。
「はぁ...ぁ」
いやそんな事はもうどうでも良い。これから死ぬからもうどうでも良い。せめて楽に死なせてくれる事を祈るしかない。緩やかに流れるこの時間、せめて最後にひとつだけ、ひとつだけ聞きたい、可能なら口に出させて聞かせてくれ。
「......お前...」
「...」
「なんで泣いているんだ?」
「......え?」
ーーーガァァンッ!
その返答は爆音に遮られる。体のどこにも穴が空いていない、痛みもない、周囲が破壊されたわけでもない、つまり自分を撃ち抜いた音ではない。
撃ち抜かれたのはあの少女だ、肩の肉が弾け中の骨が露出し煙を出している。浮かんでいた瓦礫が雨のように降り注ぐ。
「......!?」
「今度はなんだ!?」
「貴方そこで何をしてるの!?」
声だ、つい数十分前に聞いていたはずなのに懐かしく感じるまともな人の声。
「早く逃げなさいッ!そこにいたらやつらに食われるわよ!!」
「....ら?」
そうだ、思い出した。ゾンビ映画に出てくるゾンビはだいたい大群で襲ってくるものだ。
「アァァァアアアア!」
「ギ...ギッ...ギッ」
「キァァァァアアアア!!!」
足音と人の喉から発せられるであろう唸り声、それも複数。振り返るとどこから湧いたのか複数の歩く死体が歯を鳴らしている。
「早くゥッ!!」
「わ、わかった!わかった!!」
幸いにも足は遅い、これなら逃げ切れる。今にも倒れそうななんとも情けない前屈みの走り方だが腰を抜かしているせいで思うように前に進まない、こんな自分が恥ずかしい、ガッツリ小便を漏らした。汚い。
「はぁ...はぁ...!」
逃げた、とにかく逃げた。とっくに体力は限界を超えている、鼻が冷たい、喉が痛い、血で濡れているせいか服が湿って体が重い、足も重い、靴が走るたびにグシャグシャと水の音を立てる。
「はぁ...はぁ...!」
どれくらいの時間が経ったのだろうか、廃墟の街を出てひたすら草原を走り気付けば日は落ちて星空が広がっていた。
「はぁ...はぁ...はぁぁぁぁ....」
靴を脱ぎ捨てぽつんと立つ木の元で倒れ込み、幼少以来見ることのなかった満天の星空を仰ぎながら必死に酸素を取り込む。
「なんなんだ...ここはなんなんだ。」
状況に追いつけない、頭が理解してくれない。寒い、汗が冷えて来た。頭が痛い、これは、まずい。
「うぉぇ....」
吐いて、走って、漏らして、また走った。ここまですればなんとなくこの現象がわかる、だからこそ今これが起こるのはまずい。
脱水症状である。
「もっと遠くへ...はぁ...遠くへ逃げないと。」
ここで寝て「奴ら」に襲われたらたまったもんじゃない、せめて安全なところまで、いや、安全なところなんてあるのか?
「遠くへ...うぉえ」
足がふらつき、世界がぼやける。寒い、自分が前に進んでるのかすらわからない、もしかしたら引き返してしまってるのかもしれない、だが確認する術が今の彼にはない。
「はぁ...ぐぅ」
もう限界だった、棒のように感覚のなくなった足を滑らせ、体は意識と共に沈みかけたその時だった。
「おっと」
「え...?」
倒れそうな体を誰かが支える、温かい。しかし体が言うことを聞かず上を向けないので顔が確認できない。
「よくここまで逃げて来れたな、あの街から来たのか。それにその格好...ふ...よほど酷い目にあったらしい」
「誰...だ...?」
「まだ君に死なれるわけにはいかない、君にはまだやる事があるからな、安全なところまで連れて行こう。」
老人に近いが機械音が混じるような不気味な声だ...なんて思うのは助けてもらった恩人に失礼だろうか。
「...ありがとう」
「何、タダではない。君に楔を打たせてもらう。私にとっては必要なものだからな、それを君を助ける対価としておこう。」
「...え?」
ーーなんだって?楔?
瞬間、質問を投げかける前に鋭い痛みと共に意識は深淵へと落ちた。
次回投稿は10/21 18:10
高評価を押していただけると、作者のモチベーション維持・向上に繋がります! さらに、感想をいただけたら作者が喜びでのたうちまわります。
よろしくお願いします!




