105話 お前になにができるんだ
いよいよ『終末教』ビジュアル全員揃いますね
薄暗い孤児院の広間。
かつて子供たちの笑い声で満ちていたはずの場所は、今や異様な静寂に支配されている。
床には規則正しく並べられた小さな椅子。
だがそこに座る者はいない。
孤児院に1人、また1人と集まる。
「『魔王』......遅かった.な」
無機質な仮面を覆う老兵。
ーーー『老公』アーシア=フジ
「...ッチ、しくじりやがったか」
アイザックの敗走に舌打ちをする青年。
ーーー『追放者』オルゼ=スティングレイ
そして...
「やっと全員集まるの?いったいどんだけ時間かかってるわけ?俺帝国の端っこでめっちゃ暇してたんだけど、ていうかオルゼお前さ、どのツラ下げてここにきてるわけ?裏切っといて顔出せるとか厚顔無恥もここに極まってるよねー」
「いつもこいつを殴りたく思う」
「....」
オルゼが悪態をつくほどに饒舌な少年。
ーーー『魔獣違い』ファルカ=キルネクス
「……揃ったわね!」
その奥から、柔らかな声が差し込んだ。
振り向くまでもなく、全員がその主を理解する。
エウロペは穏やかな微笑みを浮かべたまま、静かに歩み寄ってきた。
「ちょうどいい頃合いかしら!対帝国終末戦争、“最終調整”に入るわ!」
場の空気がわずかに引き締まる。
ファルカだけが気の抜けた調子で肩をすくめた。
「やっと?長かったんだけど俺」
「ええ、待たせたわね!」
エウロペは微笑みを崩さないまま、視線をファルカへと向ける。
「例のもの、持ってきてくれた?」
問われたファルカは、にやりと笑って懐に手を入れた。
「当然でしょ、回収したの俺だし」
そう言って懐から出した赤いガラス玉。
これはかつてアイザック達が討伐したドリンク=バァが装備していたものだ、これのおかげでドリンク=バァは異形となって復活した。
「しかし奇跡の産物だよ、敵であるレーチェのおかげでこうやって小型化に成功したんから」
取り出されたそれを見て、オルゼが小さく舌打ちする。
そしてただ一言、言い放ったのだ。
「……やめだ」
小さな声だったがそれを聞いたファルカが眉をひそめる。
「は?何が?」
オルゼはバキバキと音の鳴る首を回し、面倒くさそうに息を吐く。
「降りる」
あまりにもあっさりとした一言、一瞬その場の空気が凍りついた。
「降りる?はっ、とうとう帝国と戦うのが怖くなったのかな?それとも獣冠祭でボコボコにやられて全力が出さないから?どちらにせよみじめだねー」
ファルカの声に苛立ちが混じるが、オルゼはそれに取り合わない。
「気が変わっただけだ」
短く言い切るとそのまま背を向ける。
誰も止めない、止めようとする気配すらない。扉に手をかけたところで、エウロペの声が響く。
「また寄ってね〜!」
「死ね」
そしてオルゼは何も言わず孤児院を去っていった、その背中を見てファルカは不服そうに眉を顰めた。
「なぁエウロペ様、なんでアイツにはそんな甘いの?もうちょっと厳しくした方がいいよ?母親名乗るんならもう少し慎重な対応がーーー」
「ファルカ君」
しかしその先はエウロペが遮ったのだ。
「大丈夫よ、オルゼ君はとっても強いから、お母さんがいなくても自分でやっていけるわよ」
「はっ、なんだそれ、意味わからん」
ファルカが肩をすくめる。
「いいのよ、分からなくて」
笑顔のエウロペの手の中で、赤いガラス玉がかすかに脈打つ。
まるで、まだ“生きている”かのように。
なにかの生誕を望んでいるかのように。
...
..
.
「そんなはずないだろ....」
そして場所は移り、界帝の広間にて、アイザックは狼狽の声を上げる。
「どういうことですか?」
シオンも同様だ、自然を取り繕っているが声が震えている。
そんな2人を前にミカードは冷静に、そして冷酷を告げた。
「言ったとおりだよ、シオン嬢は我々や戦士たちと共に防衛に参加してもらうーーーだが
ーーーアイザック、お前は謹慎だ」
ミカードの言葉が告げられた瞬間、アイザックの眉がわずかに歪んだ。
「しばらくストリートファイトおよび、依頼の受注を禁ずる」
「……なんでだよ」
「どうしてですか?」
低く吐き捨てる、続くようにシオンが声を荒げた。
「納得いきません、どうして謹慎なんですか?」
「簡単な話弱者に要はない、かつての功績から帝国の名において守ってはやるが...余計な真似はするなということだ」
玉座の前に立つミカードは、微動だにしない。ただ腕を組んだまま冷たくアイザックを見下ろしている。
「待て...待ってくれよ、」
数歩、前に出る。
靴底が石床を擦る音がやけに、そして脳内に響いた。
それだけではない、『謹慎』、それは前線どころか、いまのアイザックがしなくてはならない、『ミークの救出』、それすら叶わないと言う事だ。
「俺は戦える、刻印がなくても――」
ミカードの指がわずかに動いた。
「ーーーッ!!」
ーーーガンッッ!!!
次の瞬間には、アイザックの身体が床に叩きつけられていた。
背中から落ちた。石の硬さがそのまま骨に響き、肺の空気が一気に押し出される。
「がっ……!」
息が入らない。
喉がひゅう、と細く鳴るだけで、空気が戻ってこない。
「え!?」
遅れてシオンが反応するも時すでに遅く、アイザック激しくバウンドし数メートルは吹き飛ばされていた。
床には擦れた跡が残り、肩口の服が破けている。
ミカードは手拭いで汚れを落とし、それを放りなげアイザックに向けて構えをとる。
「立て」
短い命令。
アイザックは歯を食いしばり、手を床につく。指先にざらついた大理石のかけらの感触。
腕に力を込める。肘が震える。
「ぐ...ぁぁぁああ!!」
それでも、なんとか上体を起こす。
だが、膝に力が入らない。
「ぐはっっ!」
立とうとした瞬間、足が抜けるように崩れ、再び床に膝をついた。
「……くそ……!」
拳で床を叩く。乾いた音が響いたが、それだけだった。
そのとき、頭の奥に残っていた感覚が蘇る。
刻印があったときの感触、血の流れが速くなり、筋肉が軽くなるあの状態。
あれがあれば、この程度で止まるはずがない。
「……魔王刻印が、あれば……」
小さく呟いたつもりだった。
「刻印があれば、か」
すぐに返ってきた。
顔を上げると、ミカードがこちらを見ていた。先ほどと同じ位置のまま、視線だけが向けられている。
「それがあれば戦える、か」
ゆっくりと言葉を区切る。
アイザックは答えようにも否定することができなかった。
「ならば結論は出ている」
ミカードは腕を解き、一歩だけ前に出る。
たったそれだけの動きなのに、距離が一気に詰まったようにアイザックの眼前に迫る。
そして言い放った。
「力にすがるだけの弱者が、力を持つ資格などない。
ーーーさっさと消えろ」
「ッ!!」
その声音には、怒りも嘲りもなかった。
ただ冷酷に、そして静かに事実を並べているだけだ。
アイザックの視線が下がる。握っていた拳が緩み、指先がわずかに開いた。
何も言い返せない。
さっきの一撃で、自分がどこまで通用しないか理解してしまったからだ。
シオンの方を見る、彼女は勝敗よりもアイザックを心配しているようだった、自分の事から考えないといけないのに。
「この男は前線には出せん」
ミカードが後ろに控える『機構星騎士』に視線を送る。
「拘束しろ。勝手に動かれては困る」
「待て……!」
声を上げるが、遅かった。
両側から兵が踏み込み、腕を掴まれる。
関節を逆に取られ、強引に引き上げられる。
「離せ……まだやれる……!」
力を込めるが、腕にほとんど力が入らない。抵抗は簡単に押さえ込まれた。
次の瞬間、首筋に固い感触が当たる。
――鈍い衝撃。
視界が横に流れた。
膝が抜け、身体が崩れる。
「アイザックッ!!」
シオンの声が響く中床に倒れ込む。
その直前、ぼやけた視界の中でミカードの姿が映る。
表情は変わらない、最初から最後まで一度も、まるで鉄の仮面でも相手しているかのような。
「ーーー。」
そこで、意識が途切れた。
次回投稿は5/13 7:10!!
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