第3話 犯人は見つけど勇者の容疑は晴れない
分けた方がいいかなーと思いつつまとめて投稿
「おやじ、この棒付きソーセージしょっぱくない?」
「そりゃ兄ちゃんの涙のせいだな、返品はうけつけねぇよ」
幼女ショックから立ちなおり、完全復帰はしてないが、立ち直ったあと再び祭りの出店を回り始めた。
ただ不思議なことに、どの食べ物もしょっぱく感じたのだが、交換もできずそのまま食べ歩いていた。
「おい、こっちだ急げよ」
「迷子の子もいるらしいからな、連絡を頼む」
せっかくのお祭りだと言うのに慌ただしく走って行く警備兵。
よくよく見てみれば、あちらこちらで話し合っている。
「出店の売り上げ泥棒か、毎年問題は多少なりともあるが今年のは結構やっかいだぞ」
「おそらく被害状況的に数人いる、全員警戒を続けろ」
「場合によっては中止も視野に…………」
「…………無粋だなぁ」
どこか遠い場所の出来事かのように、聞き流して歩き続ける。
祭りはまだ始まったばかりなのだ。
まだまだ回っていない店はたくさんある。
魔王がいなくなったとはいえ、このような大きな催し物は貴重と言えるくらいの回数しかない。
だというのに中止になるのは、
「ん、こっちかな」
自分の勘に従うがままに歩いていく。
もちろん道中の食べ物は買っていきながら。
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「よぉ、誰かにつけられてないよな」
「あたりめぇだろ、どいつもこいつも浮かれてて楽勝だったぜ」
ある裏道、普段は多少たりとも人は行き来しているが、今日に限っては遠くから聞こえる祭りへと人が集まっているため彼ら以外には誰もいない。
数人の男が集まり、コソコソと話をするには絶好の場所となっている。
「よし全員出して見ろ」
それぞれが懐にしまっておいた袋を取り出して中身を見せあう。
そこにはたくさんのお金が入っていた。
「くっそ、一番すくねぇ!」
「どうせ山分けすんだしいいだろ」
見せあうのは今回の獲物。警備兵たちが話していたお店からお金を盗んでいたのは彼らだった。
「やっぱボスが言った通り、祭りの時は人も店も緩いな! 盗りやすかったぜ!」
「当然だろ。よし、警備兵が来る前にズらかるぞ」
「はいボス、っておい一人足んねぇぞ」
ボスと呼ばれる男の指示で撤収しようする男たち。だが一人いないことに気が付ついた。
「すんません、遅れやした!」
そこへ慌てて走ってくる一人の男。
見れば大きな袋を抱えている。
金貨、にしては大きすぎて丁寧に運ばれている袋。
他の者はせいぜいが片手で持てるサイズだというのに、そんな大物を盗って来たのかと興味を持った全員に見せるよう、集団の真ん中に優しく置いた。
「時間厳守だっつってんだろ、で? なんだそりゃ」
「へっへっへ、ボスへの手土産ですよ。前から欲しいって言ってたじゃないですか」
自信たっぷりに袋の口を開けて広げた。
ボスも含めた全員が袋の中をのぞくと、
「あの、身代金なら払えませんよ?」
かつて勇者を泣かせた幼女が入っていた。
「バカ野郎! なんで連れてきた!」
「ずびばぜん!」
ボスにしばかれた後、地面に正座して説教される様子を背景に、集まった男たちは幼女のそばでどうするか悩んでいた。
「えー、これどうすんだよ」
「つーかボスがこれ欲しいとか言ってたのか」
「これじゃないです、ちゃんと人として扱ってください。そして私はかわいいので、誰もが欲しいと思っても仕方ないのです」
「…………普段から価値のあるものを手に入れろ、とは言ってしそれなんじゃね」
袋の中に閉じ込められたまま会話に参加する声を無視して、これからどうするのかを相談し合う男たち。
だが扱う内容が内容だけに何も進まず、時間だけが過ぎていく。
「幼女はなぁ! 手に入れて愛でるんじゃねぇ! 眺めて幸せを祈るもんなんだよ!」
「おい」
「ボスがロリコンとか俺抜けていい?」
「俺も」
まさかの事実に抜けようとするものも現れる始末。
分け前だけ貰って離れようかと、大半の者が内心で決めた時、新たに声がかけられた。
「すいませーん、ここいらで売り上げ泥棒とかいませんでしたかー」
振り向いた先には、棒付きソーセージを咥えて立っている元勇者がいた。
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「…………」
空気が張り詰め、全員が緊張で動けなくなる。
次の行動はどうしたものかと、見極めようとしているわけだ。
そんなものは決まっているが、とりあえずソーセージを食べきらないと何もできない。
相手は数人、こっちは一人そうなると、ソーセージを粗食し、飲み込むと再び口を開いて…………!
「誰かー! 裏道に幼女連れ込んでる男の集団がいますー! 誰か来てー! ロリコンじゃない男の人速くー!」
大声で助けを求めた。
まさか売り上げ泥棒を探していたらロリコンの誘拐団に出くわすとは思わなかった。
いろんな意味で触れたくないので代わりに処理してくれる人を呼ぶ。
警備兵も捜索範囲を広げていたみたいだし、いずれ来るだろう。
「俺たちはロリコンじゃねぇ!」
「そこのボス、デブだけだ!」
「おいそいつ黙らせろ! このままじゃロリコンにされちまうぞ!」
慌てて口を塞ごうと動き出す男たち。どこか真剣な気配を感じるが、捕まりたくはないだろうしそんなものだろうと、警備兵が来るまでどう時間を稼ぐか考えると動き出した男たちに待ったをかける人物がいた。
「落ち着けてめぇら!」
ボスと呼ばれた人物の一括、それだけで全員が大人しくなった。
見れば真剣な目でこちらを見ている。
「おいてめぇ、売り上げ泥棒っつたよなぁ」
「…………泥棒がいないか聞きに来ただけなんですけどね、まさか自白してくれるとは」
「はっ、どうせ確信を持って来てんだろ、遅いか速いかだ」
自信たっぷりに慌てた様子も一切見せないボスを見て、次第に落ち着きを見せる男たち。
「それに今すぐ逃げりゃあ、何の問題もないしな。こっちを追うより大事なことがあるだろ」
視線の先には袋に詰められた幼女。
「こんな幼気なプリティでキュートな天使を置いて俺たちを追うなんて、出来るわけがないよなぁ?」
「やっぱロリコンじゃん」
「おい黙ってろ」
ところどころ表現がおかしかった気もするが、暗に人質を解放するから見逃せと取引を持ち掛けるボス。
悩みどころではあるが、妥当なところだろうと頷く。
「おい」
「へいへい、ほら迎えだ。帰りなよ」
「ほんとですが、私を助けに来た勇者様が」
ボスに促され袋ごと差し出される幼女、を受け取ろうした時、
「偽勇者じゃん、チェンジで」
期待に満ちた目が一瞬で死んだ魚の目に変わる瞬間を見るのは久しぶりだった。
そして豹変したのは幼女だけでなく、
「てめぇぇぇぇぇぇ!! こんな純粋無垢な子をだましやがったのか!? てめぇらやっちまうぞ!」
何の逆鱗に触れたのか、周りに声をかけながら剣を構えるボス。
傍から見れば幼女を守ろうとしている様に見えなくもない。
「やるのは別にいいんだけどな、」
「理由が理由でやる気がでねぇ…………」
「俺逃げ切ったら付いてくのやめるわ」
他の男たちも
ただボスと違って周りはやる気が無いのかダラダラと各々の獲物を構える。
多勢に無勢、流石に逃げ出したいが逃げられる確証もなく、というかたぶんボスが逃がしてくれない。
「純粋なやつはチェンジとか言わねぇよ!」
戦う決意をして、腰に手を伸ばし、
空を握った。
「…………ふぅー」
………………………………一息つき、何でもないかのように不敵な笑みを浮かべる。
若干笑みが引きつっている気もするが、大事なのは自信だ。
肝心なものを持っていないとしてもそれはわざとだと、胸を張っていればハッタリとなる。
そう女の子を食事に誘い、うっかり店の予約をし忘れていたとしても実は本命はこっちなんだよね、的な雰囲気を出しておけば許されるはずだ。そんな経験はないから想像だけど。
そう自分の想像でもあった通り、間違っていても自信満々に胸を張っておけば、あれ? もしかして自分が間違ってたんじゃね? って押し通せる。
間違いも貫けば答えになるのだ。
「…………あいつまさか、何の武器も持ってないんじゃ」
…………祭りに武器なんて必要ないじゃん?
「やっぱり武器忘れてんぞ!」
「なのに泥棒探しに来たとかバカじゃね?」
「ちゃんと食べ物は買ってきてるのにやっぱり偽勇者じゃないですかっ!」
「てめぇ何女神を怒らせてんだゴラァッ!!」
好き勝手に言う相手を他所にパタパタと全身の持ち物を探る。
みっともないかもしれないが、武器が無いとバレたのであれば開き直って探すしかない。
ないのだが、
「…………てめぇ、ふざけてんのか?」
ボスだけでなく、周りの男たちからも殺気立った空気が漏れ出る。
その気持ちは分からないでもないが仕方ないだろう、これしか見つからなかったんだから。
内心これよりマシなものが欲しくはあったが、素手よりはいいかとあきらめたのだ。
「…………女神を騙して怒らせた以上許しはしねぇが、顔見知りのようだし、ある程度加減はしてやろうかと思ってたんだがなァ…………。それは舐めすぎだろ!」
手に持って構えている、串の棒を見ながらそう叫んだ。
「これしかないんだよ、ナシよりアリだろ」
「くたばれやオラァ!!」
怒りのままに突っ込んで来る男の振り上げた剣の先端を串を当てて逸らす。
「は?」
バランスを崩してこけそうになっている男へすれ違いざまに肘を入れる。
「っつ、まぐれがそう何度も続くと思うなよ!」
「全員でかかれッ!」
次々と飛び掛かってくる相手を躱し、逸らし、時には同士討ちに誘い、隙ができれば一撃をいれて撃破。
丁寧にそれでいて最小限の動きで相手を沈めていく様子は、まるで精錬された踊りのようだった。
「ぐっ…………うっ」
気が付けば残っているのはボス一人のみ。
「で? どうする?」
「てめェ、いったい…………」
足元には気絶したり立てずに唸っている男たちがいる中で、串を片手に構える様子は見たこともない魔王を相手にしていたかのような絶望をボスに与えていた。
今すぐ逃げ出したい気持ちがこみ上がるが、視界の隅に映る巻き込んでしまった女神の存在がボスに勇気を与える。
「…………てめェはつえぇよ。…………だがな、男には逃げられない時ってのがあるんだよ!」
大声で自分を鼓舞しながら突っ込んでいくと、掲げた剣を振り下ろす。
さっきまで仲間を倒していった串が弾き飛ばするのを見て、ボスはニヤリと不敵な笑みを浮かべるとさらに追撃をしようと剣を再び構え、
「ゴフッ!」
回し蹴りをくらい倒れた。
全員が倒れていることを確認すると、ゆっくりと袋に入れられたままの幼女に近づく。
「なぁ」
一声かけながらしゃがむと袋の中に入れられたままの幼女を覗き込んだ。
「一応泥棒かつ、誘拐犯をとっちめたはずなんだけど、俺の方が悪役っぽくなってない?」
「それはきっと顔のせいですね」
遠慮のないもの言いにガックリと首を落とす。なんでこうなるんだよ、っと呟きながら世の中の不条理を嘆くと、ふと思い出したかのように顔を上げる。
「なぁ」
「はい、なんでしょう。どれだけ頑張っても無理なものは無理ですが、」
「ケガねぇか?」
辛辣な言葉をさえぎって言われた言葉。
一瞬の間が開いて、うるんできた眼はあっという間に大洪水になり、
「うぁぁぁぁぁぁん!! 怖かったですぅ!! 助けてくれてありがとうございます偽勇者さん!!」
途中で引っ掛かるところはあったものの、辺り一帯に響く感謝の言葉に苦笑いをしながら袋の口を開けようとしたところ、
「そこのお前! 動くな!」
表の道から走ってくる数人の警備兵。
ようやくこの問題も終わりかと立ち上がり笑顔で迎える。
「おつかれー、もう終わったからあとは」
「あぁ詳しいことは後で聞く」
先頭に立っていた警備兵が手錠を取り出し、
「事情聴取ってやつ? めんどくさいけどまぁいいよ、早く終わらせて」
ガチャリと、自分の、リヒトの手にかけた。
「ん?」
「祭りの売り上げが盗まれた件と誘拐について、詳しく話してもらうぞ」
周りを取り囲んだ警備兵の武器と視線は間違いなく、自分へ向けられていた。
リヒト「なんでぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
幼女「ダメなものはダメなんだよ」
人が倒れてる状況で泣いてる袋詰め幼女に手を伸ばす怪しい人物、これは通報案件




