第2話 祭りは始まれど、勇者の認定は認められない
前回のは設定を固めるテストってことで今回がちゃんとした話ってことでよろしくお願いします。
行きかう人々の顔には笑みが浮かび、店からはいつも以上に活気のある声が飛び交い、装飾された町の空には鐘の音が響く。
もちろん自分も普段以上にテンションがあがっており、たまらずその思いを吐き出した。
「まっつりだー!」
食べ物を持った両手を上げて空へ向かって叫ぶ、本日は聖教都レルギオンの祭りである。
「いや~いいよね祭り、俺祭り大好き、美味いもんたくさんあるし、あ、美人見っけ。声かけようかな」
モシャモシャと両手に持った食べ物を食べながら一人で歩く。祭りの空気に浮かれている、にしてははしゃぎすぎている気もするがそれを気にする人もおらず、各々が楽しんでいるので問題はない。
『えー勇者によって世界に平和が訪れましたが、平和を築いていくのは皆さん一人一人の協力が必要で、この祭りも平和について…………』
町に設置されている放送魔器から神父の声が流れているが右から左へ聞き流し、次に何を食べようかと考えながら歩くと町のちょっとした広場にたどり着いた。
中心には凛々しく堂々と立ち誇っている銅像が立っており、こんなもんあったのかと近づいてみれば台座の説明文には今世の勇者と綴られている。
…………これ自分の銅像なのか。
誰が作ったんだろ、いや別に作っても問題はないけど。
『グランベル神父の無駄に長い話が終わりましたので『え』これより、かの伝説である勇者パーティーの一人、ルーシー様との会談を始めたいと思います』
『ご紹介にあずかりました、ルーシーです。よろしくお願いします』
放送から聞きなれた声が流れると、途端にそこらかしこで湧き上がる歓声。
ルーシーってやっぱ人気あるよなーと、考えながら銅像を眺める。
勇者の銅像ということからやはりモデルは自分、それがこのように格好よくなっているのはモデルが良かったからだろう。
これは制作者にお礼を言いに行ったほうが良いのかななんて考えていると、
「おにーさん何でニヤけてるの気持ち悪い」
隣から辛辣な声がかけられた。
「お、おにーさん気持ち悪くないよ、どうしたの急に」
驚いた拍子に軽く裏返った声で否定しながら振り向けば、幼女が胡散臭い目で自分のことを見ていた。
「あーほらね、ただ銅像を眺めてただけだから別に不審者でもないよ」
よくよく考えれば銅像の前に一人でにやけながら頷く男、しかもフードを被っているせいで目元は見えにくいという怪しさの塊であったのには間違いないのだが。
「銅像の前でニヤけながら頷くのは不審者じゃなくても変質者だよ」
「最近のお子様は口が達者すぎない?」
こえー最近のお子様こえーと慄いていると無邪気な真顔で眺めている幼女が再び口を開いた。
「で、おにーさんは誰なの? 今のままだとわたしは不審者がいるって警備の人に教えないといけないの」
「それは待った、問題ないと言えばないけどその後にとんでもないことが起きるのでまった」
幼女が指さす先で立っている警備兵に連行されのはとんでもなくマズい。
捕まることはないだろうが確実に面食いの聖職者にバレていじられるか怒られるかの可能性は高い。
そんな先のことまでを一瞬で考えて出した答えは、
「実はさ、俺勇者なんだよ。だから自分の銅像見てただけなんだ」
疑われる前に自らの身分を明かす。そうすることで疑いを晴らす。
しかも勇者という誰もが知ってる役職付きだ。
慌てていたから思いつなかったがこれは天才の発想だろう。
どれだけ疑われようとも許される、そう勇者ならね。
かぶっていたフードを外し、ちゃんと顔が見えるように配慮もできる勇者。
ほめてもいいのよ?
「自称勇者の不審者?」
「本物だつってんだろ」
なんでだよ。
「おいこら幼女、ここに勇者の銅像があって本人もいるんだから見比べろよ、そっくりだろほら!」
「銅像の方がカッコいい」
話していたはずの幼女の姿が見えず何故か地面しか見えない。
視界も歪み、この世の全てがどうでもよくなってくるこの感覚は呪いでもかけられたのかもしれない。
なんとなく、足しか見えないはずの幼女が冷たい目で見降ろしている気がする。それがさら自分の心をへこましてくるが、旅の途中でもここまで心が折られたことは…………いっぱいあったな。
寝込まなくなっただけ、成長してるのかもしれない。
『続いて、ルーシー様へお願いしておいた勇者様の情報についてお話したいと思います。まずは勇者とはどんなものなのかという、誰もが気になることなのですが』
はっ、と顔を上げ、再び自信満々に笑みを浮かべると警戒度を引き上げた幼女に向けて口を開いた。
「ほら! 今の放送聞いてるだろ! これで勇者についての情報を当てることができたら本物だって証明になる!」
「…………無理だと思うけど」
「そう言うなって、自分のことなんだから当たるに決まってるだろ」
当たるわけがない、まさか未来予知のスキルを持っているわけでもないのに幼女はそう確信している顔だ。
しかし確信どまり、自分自身のことを答えればいいという絶対の前にはひれ伏してしまうだろう。
『では初めに、個人ではなく役職として、勇者とはいったいどんな存在なのでしょうか』
「…………どうなの」
聞くだけ無駄でしょ、と言外に言われた気もするが、こんなものは簡単だ。
「勇者ってのはな、使いっ走りだ。事件が起きれば走って行って、頼まれれば一日中かかりっぱなし。世界で一番ブラックな職業だ」
『常に人々の平和と安寧を願い、他者のために自己犠牲の精神を伴った由緒ある聖職ですわ』
幼女の目がほらやっぱりと語っている。
一番長い付き合いのあるパーティーメンバーなのだが、どうも理解のすれ違いがあったらしい。
『やはり、誰もが憧れる立派な存在ですな。続いて、勇者とは神託によって選ばれますが選ばれた時断ることもできます。それでも引き受けた理由とは?』
「…………理由は?」
聞くだけ聞いてみるか、といった態度の幼女、少なくとも初対面の年上にとる態度ではない。だが今の自分にはそれを突っ込む余裕はない。
「そ、そりゃ勇者になったらモテて美人と知り合えるし、いろんな人から褒められるし、俺くらいすごいやつじゃないとできない特別な役職だからしょうがねぇからやってやるかぁって」
『自分に才能があるのかは分かりませんが、少しでも世のため人のためになるのであれば喜んで引き受けますと』
「…………」
もはや何も言わず、本来年相応にキラキラと輝くはずの目ではなく、死んだ魚のように濁った眼でこちらを見ている。
やっぱ偽物じゃねぇかと、全身からにじみ出る雰囲気が語っている。
もはや何も言い返すこともできず、町中から聞こえてくる音もどこか遠くに感じる。
「…………通報はしないけど、勇者ってなのるのはやめておいた方がいいと思うよ。ルーシー様も怒るだろうし」
「はい…………やめときます…………」
「祭りで浮かれるのも分かるけど、嘘はダメだよそれじゃあね」
「はい…………申し訳ございません…………」
走り去っていく幼女の背中は見えなかった。
現在の主人公 勇者を語る不審者
ひとまずこんなもんかなーと
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