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第14話 旅を終えても勇者の苦労は終わらない

 数十年か数百年に一度、世界を滅ぼそうと魔王が現れる。

 それに対抗するために人の中から勇者を選定する。

 勇者の目的は魔王の討伐。

 歴代の勇者がそうしたように、自分もその流れに沿って旅をしてきた。

 旅の仲間と共にいくつもの問題や事件を解決し、己の心身を鍛え上げ魔王へと挑んだ。




 その戦いの結末は勇者だけが知っている。





「お、おかえり勇者」


 自分の家にいたのは間違いなく世界の敵と言われた魔王。

 初めて対面した時は忘れることができない。

 生物の枠を超えた圧倒的な存在が人型に収まっている、そんな感想が出てきて思わず笑ってしまった。

 ルーシーの知識で補えず、カレンの魔法も届かず、ミディアの剣は折られた。

 そんな魔王はいま、




「いやぁ〜この勇者レトの冒険譚は面白いねぇ、必ず一度は負けてその上で立ち上がる泥臭さはクセになるよ」


 自宅のベッドの上で寝転がって本を読んでいた。

 あたりには散らばった衣服、机には空の食器とさまざまな本が積まれており、どう見てもズボラなニートにしか見えない。

 頭に生えている角だけが人間ではないと言えるのだが、それを打ち消すだらしの無さ。

 世界を恐怖に落としていた存在は堕落していた。


「………………おい今何時か知ってるか」

「もちろん、流石にそろそろ寝た方がいいか、んん? 外が明るいな、そうかまだ夕方だったか」

「日の出だこのやろう」


 一度起き上げた身体をまたベッドに戻して本を開く魔王にツッコミを入れる。

 なんとも所帯じみたやりとり。

 少なくとも魔王と勇者の会話ではない、少なくとも自分はそう思う。


「ほーこれはアレだな勇者。最近読んだ本でこういう時に使える言葉を知ったぞ」

「…………言ってみろよ」

「昨晩はお楽しみでし「寝てろ」」


 あまりにふざけたことを言い出すので落ちていた服を顔に投げつけて黙らせる。

 仮に正体を知っていれば誰もできないだろう。

 

「ふ、ふへ、服が絡まって引っかかる、なかなかに鬱陶しいな。着替えるのはめんどくさいし、洗濯も手間だ。ふふ、しかし」


 だが気持ちの悪い顔で笑っている魔王。

 モゴモゴと顔に引っかかる服を角に引っ掛けないよう苦労して剥がして現れた顔は、


「楽しいなぁ勇者」


 子供のように無邪気な笑みだった。






「ん、少しいいか勇者」

「……言ってみろ」


 魔王と出会い戦闘になったあの日。

 満身創痍な三人を下がらせて、1人で相手取った時、魔王が話しかけてきた。


「少し聞きたいことがあってだな」


 お互いにボロボロではあったが、戦況は不利。

 体力は残っていても攻撃力が足りず、攻撃をまともに喰らえばほぼ一発で終わり。

 にも関わらず向こうはダメージが多少はあるが、限界には程遠い。

 時間稼ぎかなんらかの罠かと思ったが有利な魔王がする理由もなく、試しに答えた。


「私たちはなぜ戦っているのだろう」

「………………は?」


 突拍子もない突然の疑問。

 一瞬とはいえ明らかに隙ができたが攻撃はせず、そのまま魔王は話を続けた。


「勇者と魔王は戦う運命にある、これは歴史から見ても間違いない。だが私は疑問に思うのだ、なぜ戦っているのだ?」

「……それは世界征服をするものと止めるものと」

「そうだ、魔王とは世界を支配するモノ、そのため人間を襲い人間はそれを防ぐために反抗する。至極真っ当なことだ」

「…………何が言いたい」

「もし仮にだが、」




「平和に支配すると言えば戦う必要はないのでは?」




 呆気にとらえて何も言えなかった。


「人間の方では長を誰にするのか話し合いで決めたり、血筋だったりで決めるのだろう。そこに他所から急に言われても反発はするだろうが、例えば自分が支配した暁にはこんなメリットを約束する、などと信頼を得て行けば平和に支配はできる。

「いろんな問題もあるだろうが、つまり支配するだけなら力を使わずとも方法はいくらでもある。

「にも関わらす歴代の魔王は全て力づくな方法しか取っておらず、そのたびに勇者と戦って負けた。

「戦うにせよ、方法ならいくらでもあるのに、真正面からぶつかることしかしない。

「勇者もだ。妥協点でも探せば戦う必要もなく、無駄な犠牲もなくて済む。

「なのに戦う。

「戦い続ける。

「何故か?

「それが魔王と勇者だからだ」


 いつの間にか構えていた剣はおろしていた。

 考えたこともなかった。

 なぜ戦うのか、それ以外の解決方法はないのか。

 勇者とはそういうモノだと思っていた。


「わたしも魔王としての本能が言うんだよ、勇者をコロし、世界を支配せよと。勇者もかな? 誰かを助けろ、魔王を倒し世界をスクエって誰かに、自分ではなナニかに言われてないかい?」


 いつの間にか目の前に立っていた魔王。

 油断していた、この距離であれば間に合わない。

 いつもなら反射的に動けるというのに身体が動かなかった。


「ねぇ勇者?」


 勝者の余裕なのか魔法を使う素振りも見せずに笑かけてくる魔王。

 手も足も動くが出すことはできない。

 それでも、


「……ねぇよ」

「ん?」

「そんなもんはねぇよ」


 口は動く。


「勇者としてのあり方ってのは誰かに言われたわけじゃない、俺が、俺自身が決めた憧れのままにある」


 この瞬間にも死ぬかもしれないというのに恐怖はない。


「その勇者のあり方とは?」

「決まってんだろ」


 自分の中の憧れ、そして大事な仲間の顔が浮かび上がる。


「困っている誰かを助ける、それだけだ」


 時には騙され、時には余計だと言われる。

 それでも必要な誰かの助けを無視しない。


「だから辞めだ」


 無造作に剣を鞘に収める。あぁすっかり忘れていたことだ、逆だったんだ。


「…………いいのかい? 勇者とは魔王を倒すものだよ」

「俺は勇者になりたかったわけじゃない、誰かを助けようと勇者になった」


 よくよく考えてみたら魔王に困らされているから助けてくれなんて、言われたことがなかった。


「この場で君は殺されるかもしれないよ?」

「しょーがねぇだろ、理由もなく集団で襲っておいて命は助けてくださいなんてわがまま。あーでもなぁ」

「何か遺言でもあるのかい?」


 ダサいと言えばダサいんだが、ちゃんと言っておくべきではあることが1つだけ。


「一緒にいたアイツらは見逃してやってくれねぇか? 俺についてきてくれただけの巻き込まれた被害者なんだ。俺が無理やり連れてきただからアイツらだけは許してほしい、この通りだ」


 剣を魔王の足元に投げ捨てて頭を下げる。


「必要なら足でも舐めようか?」

「…………足を舐めるってのはよく分からないがそうだね、こっちの願いを聞いてくれたらもちろんいいよ」

「おう、なんでも……は無理だができることならやってやるよ」


 頭を上げて、魔王と真っ直ぐ向き合う。

 さてどんな難題を出されるのやら、世界征服の手伝いとか?

 魔王が言っていたように方法によっては協力できるがそうなるとアイツらがうるさいだろうな。

 頭の中で色々と考えていた。

 だが魔王は口を開かない。


「どうした? 何か頼みがあるんだろう」

「…………………………………」


 声をかけても無言な魔王。 

 後になって気がついたが、この時初めて出会った時の威圧感は感じなかった。

 魔王にだって怖いことはある。

 それを知ることができたのはやはり自分が勇者ではなかったからだろう。


「言ってみな、こちとらペット探しから貴族を敵に回して旅をしてきたんだ。中にはハゲを治す薬の研究だってしてきたんだぜ。深刻なもんでも軽いもんでも口に出して、誰かに言えば案外簡単に解決したりする。勇者が身をもって体験してきたことだ」


 あ、でも勇者じゃねぇか。

 自分で言って自分で笑えるなこれ、今度から持ちネタにするか。

 今度があれば。


「……………………そうだね」


 どれくらい待ったのか、一瞬だったのか数時間だったのか分からないが、ようやく口を開いた魔王。


「聞いてくれるかい勇者」


 最後まで念を押して確認する魔王。

 そんなやつもたくさんいた。


「もちろん、俺は勇者だぜ?」

「…………そうだね、何から話せばいいかな」

「先に言っておくが難しいのは勘弁してくれ、頭は悪いんだ」

「ふ、ふふ」


 少し笑いあって魔王はポツリと話し出した。


 



「別に難しいことを言うわけじゃない。

「なーに簡単なことさ勇者。

「君が勇者であって勇者でないことは充分に分かった。

「わたしはね、自分で言うのもなんだが歴代でもとびっきりの魔王でね。

「世界を支配しないといけなかった魔王とは程遠いほどに強いんだ。

「魔王なんてやらなくても問題ないほどにね。

「そうさ勇者と同じように。

「いやこの場合は逆か。

「勇者は勇者でないが、わたしは魔王を超えた魔王なのさ。

「そんなわたしは魔王としての役割なんてうっとおしてくやる気も出ない。

「世界征服も、魔王により縋ってくる存在もわたしに取ってはどうでも良い。

「だけど世界は、わたしに魔王を求めてくる。

「こればっかりは自分ではどうしようもないんだ。

「だからね、勇者。

「…………………………わたしを。

































「助けてくれないか」

「おう、任せとけ」

こうして勇者リヒトの旅は終えた。

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