第1話 取材は終えても勇者の謝罪は終わらない
作業しながら思いついた、んーどっかで読んだことあるなーみたいな設定の話です。何気にこういうの書くの初めてなんでお手柔らかに。
誰が言ったのか、
勇者とは人々の希望となり、勇気を与え、慈悲の心を持って光り輝く英雄だと。
しかし、実際の勇者がどんなものなのかはなった者にしか分からない。
「勇者? あぁ、あれ単なる使い走りだよ」
疲れた笑みを浮かべながら答えたのは今代の勇者、リヒトだった。
「はぁーあのですね、別に文豪ほどの感想は求めてませんけどね? もう少し気の利いたこと言えませんか?」
リヒトの前で呆れてため息を付いたのは聖職者であるルーシー。
聖職者、ではあるものの、組んだ足を机の上に乗せ、イスの背もたれに頭の後ろで手を組む様子はまるでそうは見えない。
机を挟んで向かい合うリヒトは少し猫背で目をキョロキョロと逸らしながら笑ってごまかす。
足を下ろすと懐から取り出した煙草に指先に灯した火をつけて咥えた。
横を向いて煙を吐き出すと、煙草の先をリヒトへ突き出した。
「一応勇者とは、って内容で国や教会で宣伝するものなのでちゃんと答えてください。めんどくさいのは私もですけど、やるべきことはしないともっとめんどくさいんです」
煙と一緒にため息を吐くと、手に持ったメモ用紙にペンを走らせながら冷ややかな目でリヒトを眺める。
いやーあっはっはーと笑いながら頭をポリポリと掻く。
その様子は十人が十人とも彼が世界を救った勇者だとは思わないだろう。
「誤魔化すときのクセが出てますよ。もっと胸を張ってください、あなたは勇者なんですから…………と言っても無理でしょうね」
「おっしゃる通りで」
「そこだけ即答するの嫌味ですか」
「違う違う、全然違う。ホント違うって、ルーシーなら分かってくれるだろ」
メモ用紙で口元を隠しながらムダに高速で首を横に振るのを眺めるルーシーは、しばらく考えると、立ち上がった。
「ま、こうなるのは予想できてたのでそれっぽい原案をでっちあげておきますね。トップからの仕事じゃなければ無視したんですけど」
「マジかよルーシー天使かよ」
「は?」
「いや女神…………、シスターでしたごめんなさい」
十人に聞けば十人が美人と答えるルーシーに睨まれて委縮したリヒトは肩身と言葉を小さくしながら謝罪を続ける。
「ほら謝罪するならハッキリ丁寧にしなさい」
反対に笑顔になっていくルーシー、の一言で背筋を伸ばしたリヒトを丁寧に頭を下げながら謝罪の言葉を紡ぐ。
「ルーシーは みたいに承認欲求強くないし、 みたいにナルシストでもありません」
「なんで女性への謝罪に知らない女の名前を出してるんですか?」
「俺の記憶だとパーティーメンバーだったはずなんだけど…………」
不思議に思いながらもルーシーからの圧を全身に感じながら謝罪というなのいじられを続けるリヒト、それは煙草の火が消えても続いた。
「あー、ルーシーそろそろ」
「…………もうですか、せっかく楽しかったのですが」
しぶしぶといった様子で短くなった煙草を掌で握り、空気中にばらまくと淡い光となって部屋中に広まった。
そして光が消えると同時に扉がノックされる。
「失礼、そろそろお時間です」
「ありがとうございます」
さっきまでの態度は何だったのか、一転してどこをどう見ても見た目通り?の聖職者として佇むルーシー。
「おぉ、もしやルーシー様の浄化を使われたのですか!」
「ふふ、せっかくの勇者さまとの会談ですので良い環境にしておかねばと思いましてね」
「流石です! わたしもいずれはルーシー様のように」
「ふふ、私などまだまだですよ」
美人なシスターとイケメンな神父という絵になる組み合わせ。二人の会話を背中に聞きながらコッソリと部屋を抜け出したリヒトはすれ違った際に手渡された紙を開いた。
『足汲んだ時に下着見てたのバレてますよ』
「どーすっかなー」
ひとまず次出会った時の謝罪を考えなら帰路につく。
『え、勇者ってもっとイケメンなんじゃ』
『はーなんで私が担当の時にイケメンじゃないんですか』
『ほら外見はともかく中身まで腐っては良いとこが一つもないですよ、次はこの本です』
謝罪のためにルーシーとの思い出を振り返っていたが、ルーシーが面食いであることと、見上げていた夜空の月がキレイということしか分からなかった。
「あーあの神父顔がよかったです、使いにしておきましょうかね」
イケメン神父と別れたあと、自室にもどったルーシーはベッドに寝転びながら話し込んだ神父のルックスを思い出しながらニヤニヤとしていた。
「やっぱりイケメンはいいですわね、見るだけで栄養補給できますし、世界中イケメンなら世界平和待ったなしでは」
ベッドから起き上がり、本が大量に積んである机に着くと、所属している神父の顔付き名簿を眺めて今日出会った神父を探し出す。
「あら新入りの方でしたのね、ふーむ仕事を教える名目で近くに、」
新入りのイケメン神父をどう近くに置くか考えているとふと、顔のにやけも止まって机の一点へと視線が向かう。
そこには椅子から見えにくいように置いてある写真立て。
本を置き、手を伸ばして角度を変えるとそこにはボロボロで疲れた顔のリヒトとイケメン神父と話していた時以上に笑顔のルーシー。ほかにも二人ほど映っているがルーシーの目のは入っていない。
『え、はい、イケメンじゃないですごめんなさい』
『勉強教えてくだ、くれ』
『ルーシー来い!』
ふと思い出すのは世界平和までの旅。
好みではないルックスの勇者とめんどくさくてうるさい二人。
快適とも順調とも言えなかったが、全ての日を昨日のように思い出せる。
「はー…………リヒトが…………イケメンで、なくてよかったです」
窓から差し込む月明かりに照らされ、たった一人のことを思いながらルーシーは眠りについた。
リヒト(…………黒)
ルーシー(…………ちょろくない?)
メンバー全員はしばらく出てきません。