72.乙女はどっち
そして、私の部屋に転移してきたわけだけど
「リー!なにするつもりなの?」
と乙女のようなことを言っている。
部屋に鍵をかけ、防音の魔法を施す。
正直媚薬の種類がわからないし、私は治癒魔法は使えない。
水魔法で体の中に水を流し込んでも大丈夫かもしれないけど、やったことないからもしもがあれば困る。
となればまあ方法は一つ、手っ取り早く致してしまえばいい訳だ。
私たちは幸い婚約者同士であるし、番だから婚約が無くなることは無いわけで
ファールでは婚姻前に致すのは良しとされていないが、バレなければいい。と思ってしまうのは私が前世の記憶を持っているからだろう。
媚薬を体内に入れたままでは狂ってしまうこともある。獣人に効く媚薬なら相当強いものかもしれない。
ヴィーのことは無視して服を脱いで下着姿になってヴィーに近づく。
「リー?いやだいやだ!!!」
と呂律も回ってないのに涙を流しながら駄々をこねている。
「ヴィー。このままだとダメなのはわかるでしょう?」
「だけど、こんなのでリーとなんていやだ」
まあ。気持ちはわからなくもない。媚薬で仕方なくなんて嫌だろう。
だけど、そんなこと言っている場合ではないから泣いているんだろう。
「ちゃんとこんいんしてからがよかったのにぃ」
と女たらしだったとは思えないことを言いながら泣いている。
ふむ。このまま駄々をこねられても埒があかない。
相当辛いはずだ。
ベッドに乗せたヴィーに近づき、キスをする。
唇へのキスも初めてだったなと思う。
「こんなはじめていやだー」
とまた乙女のように泣く。
その無駄な抵抗も、何度も唇を重ねているうちにあっけなく終了した。
ヴィーは泣きながら、私を求めてきた。
「ごめん。ごめんね」
謝られるのは違うと思う。
「ヴィー、謝るのは違うと思うの。婚姻はするのだから早いか遅いかの違いでしょう。ごめんより、好きだと言ってくれる方が嬉しいわ」
と言うとハッとしたヴィーは。
好きだ。愛してる。ごめんね。ありがとう。
を繰り返し続けた。
媚薬に冒されたヴィーは、最初はそれでも優しくしてくれた。
まあ一回で終わるわけも無いのだが。
そしてそれは明け方になるまで続き、私とヴィーは気絶するように眠りに落ちた。
昼頃目覚めると、ヴィーに抱きしめられていた。
まだ眠っているヴィーを近くで観察する。泣きすぎて腫れた瞼でも整った顔であることはよくわかる。
安心しきった顔で眠るヴィーは可愛い。
そろそろ起きて、お父様と話をしなければいけないのだが体中が痛くて動かない。獣人の体力(媚薬効果つき)舐めてた。
ヴィーを寝かせてあげたいのは山々だが、ミーナを呼ぶにもヴィーも裸だ。
葛藤の末、ヴィーを起こす。
「ヴィー!起きて」
揺さぶってみても耳を揉んでみても起きない。頬をつねってみる。
「起きて―!」
「んん・・・」
もぞもぞしているが覚醒はしていない。
仕方ない。
鼻を摘んでキスをする。
「・・・はっっっ!」
「起きた?おはよう」
「リー?!」
「はい。そうですよ」
「夢?」
「いいえ。ヴィー昨日媚薬を盛られたの覚えてる?」
少し考えて。
「おぼえてる・・・」
と顔を真っ赤にしている。乙女か!
自分と私の現在の恰好を見て一層顔を赤くする。
「リー!ごめんね。媚薬のせいでこんなことになって。私のせいで婚姻前に・・・」
としょんぼりしだすヴィーに少しイラっとする。
顔を両手で挟んで目を合わせる。
「あのねぇ、私はあなたの番なんでしょう?私じゃなきゃ誰とどうするの?昨日も言ったけど、ごめんは聞きたくない。なんか嫌だったみたいじゃない」
「違う!そうじゃない!嬉しい!リーが私のものになった」
「そうよ。もうこれでヴィーとは絶対に婚姻しないといけなくなったの!安心した?」
「うれしい」
とまた顔を赤くして緩んだ表情をしている。
「それと、ヴィー。好きよ」
ヒーローどうしてこうなった!
もはやヒーローはフィーで良いのでは!