66.セリアンスロゥプ側(第三者視点)
「兄上、どうするんです?あの様子じゃ公爵はヴィットとの結婚を認めませんよ」
「はあ。そうだな考えねばならんな。とりあえずは会場へ戻っていちいち宣言せねばならんか」
「そういった輩が多いのでそうせざるを得ないのでは?」
「会場に戻るか。それからヴィット、お前の女性関係もどうにかならんのか。あれでは公爵が怒るのも無理はない」
「きちんと婚約者ができたからと報告したし、そもそもそんな付き合いでもないですし」
「お前にとってそんな付き合いでなくとも、女性側からしたらそうでは無いのだろうよ。
お前の女性関係も頭が痛いな。自業自得だとしか言いようがないがな。会場へ戻って今から皆に忠告はするがそれで納得するのかどうか」
「リーに嫉妬せず、私に悪意を向けてくれたら良いのに。リーは悪くないのだから」
「お前には嫌われたくないから、婚約者に悪意は向くのは必然だろうよ。
夜会にどんどん出て2人の間には入る隙は無いとわからせるのが一番だろうとは思うが、公爵が許してくれないだろうな」
「「はあ」」
会場へ戻る3人。
そこで陛下は
「先ほど、皆も見たであろうがファール国の公爵令嬢でありヴィットの婚約者でもあるフェイリーク嬢がセリアンスロゥプの心無い令嬢に罵られ、知らぬ令息からケガを負わされるところだった。幸い、フェイリーク嬢が令嬢をたしなめ、魔法を使い撃退したから無事であったものの。
フェイリーク嬢がそなたたちに何かしたか?しておらんだろう。
この国においても準王族であり、ファール国においても王族の血を引いた唯一の令嬢に対して、不敬に暴行。友好国だと言っておるのに国交を断絶されてもおかしくないんだぞ!
恥を知れ!!
軽々しく声を掛けられる相手でもないことすら皆わからんのか!
いちいちわしがこうやって言わなければわからんか?
わきまえている者ももちろんいるだろうが、まだわかっていない者もいるだろう。
先ほど害をなした連中は一家爵位剥奪の上、令嬢は戒律の厳しい修道院へ行く。暴行を働いたものは死罪だ」
ざわつく会場。
「当然であろう?子の責任は親にも響く。王族に手を出すなぞ、正気の沙汰とは思えん。貴族教育の初歩の初歩もできんような者が貴族を名乗るな!今後一切揉め事が無いよう皆頼んだぞ!
此度のことで、ファール国の国王と公爵を怒らせた。ヴィットの婚姻にも関わってくることだ。二度目は無いと思え!!
以上だ」
と陛下はキツく念を押した。
ヴィットは
「私の過去の行動言動が招いたことも多分にある。だがフェイリーク嬢は婚約者であり番だ。
皆、番でなくとも婚約者や配偶者が害をなされたら?腹が立つだろう?
私の婚約者は皆に対して何もしていないし、いきすぎた言動に対して途中で注意も促したがやめなかった。どうして他国の令嬢で、何もしていない者に対して悪意を向けるんだ?
私に何か言いたいことがあるのなら私に言えばいい。私の婚約者には手を出すな!
言っておくが私が愛しているのも、今後愛するのもフェイリークただ一人だ」
とはっきりきっぱり告げた。
王弟であるレインは
「今日の件で確実にセリアンスロゥプは恥をかきました。借りも作りました。それから人族は獣人と違って力が弱いです。押したり引っ張ったりするだけで痣や骨折に繋がります。
まあ貴族ですからいきなりそんなことをするものはいないと思いたいですが、皆の行動や言動が国に響くと言うことを皆ゆめゆめ忘れないようにしてほしい」
こうしてヴィットとフェイリークのパートナーとしての初めての夜会で、婚約式は後味の悪い終わり方になったのだった。