63.不出来な婚約者
「まあ。また罪を重ねましてよ?」
「はあ?事実でしょう、こんなにヴィット殿下と遊んでる人がいるのよ」
「はあ。罪の意識もないのですね。それで?ヴィット殿下が遊んでいるからなんですの?」
「あなたは顧みられない、どうせお飾りで捨て置かれるのだわ。わたくしたちはこれからもヴィット殿下と楽しみますわ!」
ダメだ。話が通じない。
「どうぞ」
「はあ?」
とご令嬢方の声が重なる。
「お好きにどうぞと申しましたの。ヴィット殿下にお伺いになったらいかが?」
と言い切ると同時に。
「リー!!!!」
と後ろから抱きしめてきた。
「何てこと言うんだい?」
「まあ。いつから聞いてましたの?」
「いつ助けに入ろうかと様子を窺ってたんだ」
「まあ」
「そしたらリーが好き勝手なこと言い出すんだもの」
と顔を首に埋めてきた。
「はあ。ヴィー、わたくしがどうぞと言ったところでわたくしから離れませんでしょう?」
「離れるわけがない」
「でしょう。だからどうぞと言ったのですわ」
ご令嬢方を見ると、呆然としている。
「ヴィット殿下はわたくしから離れませんの。ですからお好きに誘惑でもなんでもなさってみたらいかが?」
ヴィーがぎゅうぎゅう抱きしめてくる。
「誘惑しても無駄だぞ。そもそも今まで本気になどなったことも無いからな」
冷たく言い放つ。
「…」
「私にはもうリーがいるからな」
とデレデレしている。
「はあ。ヴィー、この夢を見ていたご令嬢たちにお別れを。
そもそもわたくしとの話が上がった時点できっちりお別れしないからこういうことになっているんですのよ?
ねえ皆さん?不出来な婚約者が申し訳ございませんわ」
「今まで私は本気で人を好きになったことは無かった。そもそも君たちが寄ってくるのを相手していただけだろう?私が好きだと一言でも言った?言ってないよね?
私は番に出会った。番というのは本当だ。こんなに惹かれてやまない人に出会ったのは初めてだ。
リーと出会えて私の人生には色が付いた。愛らしく美しく優しく気高く…」
「もういいですわ」
永遠に続きそうだったわ。
「そうか?こんなことを婚約者に言いに来ている時点で君たちがリーに勝てるところなどひとつもないのだから。私のリーに手を出したら容赦はしない」
中には本気の令嬢もいただろう。
まあ自業自得である。
黙ってればよかったのに、私に言いに来るんだもん。
ご令嬢たちは泣きながら近衛に連れて行かれた。
「リー。ごめんね。私のせいで」
「わかっていたことですわ」
「ごめん…」
「でももうお花遊びはしないのでしょう?」
「絶対にしない!!」
「なら構いませんわ」
「リー!!!」
とまた抱き着いてくる。
はいはいと背中をポンポンとする。
ふと周りを見回すと
驚きに満ちていた。
あの殿下が、一人の女性を?!や、殿下はあんな方だっただろうか?もっと紳士的ではなかったか?
本気になった相手にはベタベタなんだな。
等々コソコソ聞こえてくる。
ふむ。今までヴィーがどう見られていたか、お察しである。
「いやー。フェイリーク嬢は男前だねー」
と第三王子殿下が近寄ってきた。
「うちの貴族令嬢たちが申し訳ない」
と王太子殿下。
やっぱり貴族のルールはどこも同じらしい。
「フェイリーク嬢に感謝しなきゃね。兄上」
いまだ引っ付いているヴィーに言う。
「ありがとう。リー」
「どういたしまして?」
「「どうしようもない弟(兄)の婚約者になってくれてありがとう」」
と王子殿下方に言われる。
感謝されるようなことしたかな?
ダメヒーローで申し訳ございません!どうしてこうなった!と思いながら書いております。