6.父(ルーカス視点)
父と母がフィーを連れてきた。城に来るなどよほどのことだ。さっきまでの想像が現実味を帯びてきた。
フィーは父に抱かれていたが、陛下の前へ来ると笑顔でカーテシーをした。ふらついてはいたが見事なカーテシーだ。
驚いていると。
父に怒鳴られた。
女の子だから小さいんだと本当に思っていたんだ。ついさっきまで。
喋れないのは医者に見せたと言っていたし、
娘は可愛いに決まっている!
だが父に
「なら、なぜこの状態のフェイリークを放っておいた?気付かないとは言い訳だ!こんな子どもがいるか?泣かない、無理して笑う。大人しすぎる。ご飯も食べない。言葉が出ないとしても音は出せるのが普通だ!この子は音も出さない!おかしいと思わなかったのか?!」
ハッとした。
そうだ。声が音としても出ていない。そこに気付かないといけなかった!
泣いても音は漏れる。でもフィーは黙って泣いている。というかほとんど泣かない。
息子たちと違いすぎる。
陛下が王宮医師を呼んでくれた。
そこでもまたフィーはカーテシーをした。転んでしまったが、近くにいた医師が抱き起こしてくれた。
場所を移してすぐ診察に入った。
陛下が
「すまない。私がお前にばかり頼っていたからだ」
「いや。私も帰ろうと思えば帰れたんだ。めんどくさくて城に泊まっていただけで。私の責任だ」
ヴォルフが
「どうして何も思わなかったんだ?どう見ても小さすぎるだろ?」
「息子二人で女の子も見たことがなかったから成長が遅いだけだと思ってしまっていた」
「言いにくいが、奥方は娘が可愛くないのか?息子には?」
「息子には愛情をかけて育てていると思う。今でもよく抱きしめたりしているし気にかけている」
「娘には?」
正直わからん。私は帰ってもすぐに城に戻っていたし、帰った時はオリヴィアは普通だったと思う。
「いや。正直わからん。ほとんど家で過ごしてなかったからな」
それを聞いてた両親が
「わからんだと?昨日会ったばかりのわしらでもわかったんだぞ?」
「どうしておかしいと思ったんです?」
「オリヴィアさん、フィーに笑わないの知っていて?」
え?
「あの子の名前も呼ばないのよ?触れもしないのよ?」
まさか。
記憶をたどってみるが、確かにあの子としか呼ばなかった気がする。
触れないのは、いつも触れ合っているからだと思ってた。
オリヴィアが?まさか!
息子たちには愛情を注いでいるのに?
「その顔は気付かなかったな。それにあの小ささであのカーテシーだぞ?普通はできん」
そうなのか?
「カーテシーは実はすごく筋力も必要だし、根気も必要。綺麗なカーテシーができるようになるまで何年もかかるのよ?」
でも、フィーはできてる。
「宰相閣下ちょっといいですか?」
医師に呼ばれた。部屋に入ると、体が痣だらけのフィーがいた。
信じられないほどの痣と傷。
腕と顔以外全てだ。
「それから、声ですが魔法で封じられております」
は?喋れないのは魔法で封じられてるからだって?
何年もそのままだったから治らないかもだって?
「さっきカーテシーをして転んだのは足の骨が折れてるからですね」
どうして泣かない?いつも触れても痛そうにもしなかった。
「触っても抱いても痛がったこともないですよ」
医師は痛ましそうな顔で
「もう痛覚がなくなっているのではないでしょうか?
それから、栄養も全然足りていません。正直危ないところだったと思います。
傷は真新しいものから古いものまで。古いものは傷として残ってしまうかもしれません。体力も無いので魔法を使って治すのは危険かと」
もう頭は真っ白だった。
お父様ポンコツ…