59.ヴィット視点
最悪な顔合わせの日から1週間、叔父上とファール国王のおかげで話し合いの場が設けられることになった。
私含めセリアンスロゥプ側全員で謝り、なんとか婚約は維持してもらえることになった。
私への気持ちなど無いに等しいだろうが、これから育んでいけばいい。
嫌なことがあれば転移で帰るという条件付きではあるが、あの愚行を許してくれ、私の心の奥底でわだかまっていた気持ちまでも浄化してくれる優しさを持ち合わせた私の番は天使だろうか?女神だろうか!
改めて見る私の婚約者のなんとまあ愛らしい事か!
ふわふわのプラチナブロンドにブルーともグリーンともとれる不思議な瞳の色。
顔の造形もこの国の基準からしても美しく、〝人形姫〟と言われたのも納得だ。少し小さめなのがより庇護欲を誘う。
名が体を表すがごとく、まさに妖精にふさわしい容姿をしている。
私は女性の容姿にこだわりは無い方だが、我が番はこの世で一番美しく愛らしいのではないか?
2人で過ごした時間では、愛称で呼ばせてもらえることになった。
もちろん人と同じでは嫌なため、誰も呼んでいない愛称で呼ぶことにした。
私自身のことも愛称で呼んでもらうことに成功した!
あの鈴を転がすような声で紡がれる自分の愛称はより特別な感じがした。
しかし、護衛と仲が良すぎるのではないか?
こっそり魔法を使って話しているのを問い詰めると、うまくかわされた。前回抱かれて帰ったのも、私に対する腹いせだと…。そこは大変申し訳なく…
自分が悪かったのだから…
これからは他の女性とは触れ合わないから、リーにもやめてほしい。するなら私にしてほしいと頼むと慣れたらと返された。
たくさん会って触れ合って慣れたらいい!
と思ったが、リーはファール国へ来てくれたらと言った。私は何日かけて行かないといけないんだ?
どうやら転移を身に付けろと言いたかったらしい。
確かにリーが攫われたかと思うと、想像するだけで身が引き裂かれそうだ。
転移を覚えるのは最重要事項だ!!!
皆のところへ戻る際、私は調子に乗ってリーの腰に尻尾を巻き付けた!虎獣人にとっての求愛行動だ。
リーは特に嫌がってもいない。
母上やルイスに言われて初めて気づいたようだった。
気付いたリーが私の尻尾を撫でた。番といえど人前では少し恥ずかしい。
叔父上がリーをたしなめているが
ん?聞き捨てならん言葉が聞こえた気がするぞ!
叔父上や護衛の耳や尻尾を触っていただって?
つい抱きしめてしまった…
絶対に許さない。耳や尻尾の敏感なところを触るのはパートナーにしか許されていないのだから!
リーも渋々納得してくれているようだ。
母上が自分の耳や尻尾なら触っても良いと言ったが、誰が王妃の耳や尻尾を触るんだよ!
ダメダメ!
侍女?侍女も獣人なの?
ダメ!私のだけにして!
と独占欲を発揮していたら
リーが腕の中から抜け出して
「お父様、帰りましょう」
と言い出し
公爵も「心の狭い男など…」と同意し
リーは「ごきげんよう」と笑顔でさっさと帰っていった。
あまりの早さに呆然としていると
「「「「「ヴィット(兄上)…」」」」」
と家族にため息をつかれ。
「今のはフェイリーク嬢が怒るのも無理ないと思うよ」
とルイスに言われた。
家族も全員うんうんと頷いている。
「あのねぇ兄上、独占欲出すのは勝手だけど兄上は前科があるのわかってる?それなのにフェイリーク嬢だけあれもダメこれもダメ」
「私だってもう他の女性とは触れ合わないのだから」
「誰がそれを信用できるの?顔合わせの大事な日にやらかした人のことを」
「それに、女性よ?構わないじゃない。男性へのスキンシップはやめてくれると言っているのだから」
「私がいるのに必要ある?私のを触ればいいじゃない」
「ヴィット。今みたいにヴィットに腹が立った場合は?姫のストレス解消法は我々に抱っこともふもふですよ?」
「ぐぅ…ずるい!!!」
「ヴィット自分が好きでもない女性、姫以外の女性から束縛されて嬉しいですか?自分以外誰とも触れ合うなと言われて、はい。と言えるか?」
「できるわけがないでしょう!!リー以外なんて!」
「ヴィット、気付いてないだろうから言うがフェイリーク嬢はお前のこと何とも思ってないと思うぞ」
兄上にまで言われた。
「普通に考えて許してくれただけでも、ありがたいのよ?私なら婚約など白紙よ?」
自分たちが無理に婚約を取り付けたくせにそれは棚に上げる母上。
「私達獣人には番という感情があるが、人族には無いんだぞ。フェイリーク嬢はお前のことはこれっぽっちも好きじゃないと思うぞ」
そんなに言わなくても…
でもそうか。リーからしたら知らない人と婚約してその婚約者がろくでなしだったわけだから好きになるはずもないよな…
これから少しずつ歩み寄ってくれるように、私が頑張らないと!!
まずは
「叔父上!転移を教えてください!」
その後叔父上に転移を習うことにしたが、転移が想像以上に大変でそれを自由自在に操るリーと護衛に驚くことになるのだった。