57.愛称
私の婚約者(仮)は婚約者となった。
そして今私は婚約者となった第二王子殿下とお茶会をしている。
あの話し合いの後、帰ろうとしたらせっかく来たのだからとお茶に誘われたのだ。
お父様は陛下と今後のお話し合いをするらしいし、あとのセリアンスロゥプの皆様方は気を利かして?私たち2人で話をしてはどうかと。
王妃様が庭園が見頃だから行ってはどうかとのアドバイスを受け
第二王子殿下がエスコートをしてくれるようだ。
腕を差し出してくれたので、手を添える。
第二王子殿下が震えだした。
何事?
「あの。王子殿下震えているようですが大丈夫ですか?」
「ええ。番と腕を組んでいるという事実を噛みしめているだけなので」
この場にいる全員が残念な子を見るような目で王子殿下を見ている。
「とりあえず、参りましょうか?案内してくださる?」
「ええ」
というわけで庭園でのお茶会となったわけだが
「あの。王子殿下どうしてわたくしをそんなに見ていらっしゃるの?」
そう。着席してからかれこれ10分ほどジッと見つめられているのである。
「ああ!いえ。あまりにも私の番が可愛らしくて」
と頬を染めている。
なるほどお花が好きなだけある。口がうまい。
「ありがとう存じます」
「フェイリーク嬢と婚約できたなんて夢みたいだ。もうあんな間違いは絶対に犯さない!大切にする!これからよろしくお願いします」
「ええ。こちらこそよろしくお願い致しますわ」
期待はしないでおこう。
「その、フェイリーク嬢?私たちは婚約者同士になったわけだよね」
王子殿下がモジモジしだした。
「そうですわね」
「その…愛称で呼びたいんだけど…構わない?」
「構いませんわ」
そんなモジモジしていうこと?
「フェイリーク嬢は家族や仲が良い人にはフィーと呼ばれているんだよね?」
「ええ」
「それなら私はそれ以外で呼びたいな」
「王子殿下のお好きに呼んでくださいませ」
「その王子殿下ってのもやめない?私も名前で呼んでほしいな」
「ヴィット殿下?」
「殿下もいらない」
「ヴィット様?」
「様もいらない。なんなら愛称が良い!」
急に甘えてきたぞ。
「…ヴィー?」
すると、ぱあぁぁっと効果音が付きそうなぐらい破顔した。
美形の破顔…
「うん!それなら私はリーと呼びたい!お揃いみたいでしょう」
とニコニコしながら言ってくる。
くそぅ!そんな顔で言うなんてずるいぞ!
王子殿下もといヴィーはあの王妃様と瓜二つな美しい顔。
たれ目がちな目に、スッと通った鼻筋、薄すぎず厚すぎない唇、綺麗な白髪の長い髪を一つに結んでおり
白いまあるいお耳と尻尾!!!そしてニッコリ笑うと見える八重歯(犬歯)!
ずるい!ずるすぎる!!
私の好きなものが詰め込まれている!!
と無表情で悶えている。
可愛い。可愛すぎる!!
あの可愛いお耳がピコピコと動き、私から冷たい態度を取られるとぺしゃりと倒れてしまう。
尻尾も嬉しい時はこれでもかとフリフリ動いているし、悲しい時はこれまたぺしゃんと垂れてしまう。
それに、女たらしということはカッコつけなのに私といると甘えた属性なの?
可愛すぎない?
あんなに色々思うことがあったのに、容姿だけで陥落しそうである…
『お嬢様堪えて!』
とロイから念話が入る。
『大丈夫!誤魔化せてるでしょ?』
『俺とセオにはバレてるが殿下にはバレてないだろう』
「ん?魔法使ってる?リーとそこの護衛」
ええー。わかるんだ!
「ええ。少し話を」
「私に話せないことなの?」
「わたくしのことですもの」
「そこの護衛、前にリーを抱いて帰った護衛だよね?」
「ロイと言います」
ロイが礼をとる。
「どうして前回抱いて帰ったの?」
「わたくし幼いときからこちらのロイとセオと一緒に過ごしておりまして、話せなかったのもあってスキンシップは習慣なのですわ。
それを大人になったからと皆に諭されて抑えていたのですが、ヴィーはたくさん女性を連れていらしたでしょう?
どうしてわたくしだけ我慢しないといけないのかしら?
と思って腹いせですわ」
すると、またお耳と尻尾がぺしゃりと下がった。
可愛い…
だけど、まだまだそんな優しくしてあげない。