52.ヴィット(第二王子)視点
私はセリアンスロゥプの第二王子としてこの世に生を受けた。
獅子の父と虎の母との間に生まれ、私の容姿は母に似たが色が何故か全く違っていた。
小さい頃はなぜ自分だけ色が違うのか悩んだし、両親や兄弟は気付いていないが私だけ別の父なのでは?などと言われたこともあった。
今思えば完全に不敬であるし、あの仲が良い二人にとってありえないだろうと思える。
だけど、幼かった私はそうかもしれないと思ってしまった。
幸い容姿に恵まれた私は、ちょっと甘えるだけで特に女性は何でも言うことも聞いてくれたし何でも思い通りになった。
優秀な生まれながらにして王の器である兄と、可愛い弟に挟まれた私は両親に甘えたかったのだと思う。
両親と違う色味で生まれた私は無意識に両親の愛は兄と弟にいっていて私はそこそこだと思っていたのだろう。
だから他で愛情を補うことにした。
結果、大きくなると自分から言い寄らずとも女性が集まるようになった。
特に深く付き合うわけではないが、女性は紳士的に振舞う振りをするだけで喜ぶし可愛いし癒されるから私は誰も拒まなかった。
勘違いする令嬢もいたのだろうが、令嬢同士でやり合ってるのか私に直接何かを言ってきたことは無い。文句があるなら私に寄り付かなかったらいいだけだ。私は去る者は追わない主義だ。愛でるだけ。
いつの間にか私は、女たらしの王子と言われるようになっていた。
まあ否定はしない。いつでも可愛い子がいたら声はかけるし、声を掛けられたら話もするしダンスもする。
だけど空しいのだ。
本気になったことはただの一度も無い。
愛とはなんだろうか。
愛ほどよくわからない不確かなものなど無いと思う。
私は結婚をする気もないし婚約者も作る気もない。
第二王子だし、結婚しなくても許されるところはありがたい。
あるファール国での夜会に出席したとき、不思議なことがあった。
いつものように花たちに声を掛けながら、ファール国に行って帰って来ない叔父を探して会いに行った時のことだった。
急に今までに感じたことのない、甘い良い匂い。それは女性の香水のような人工的な匂いではなく、こう本能がくすぐられるような心が浮き立つようなそんな甘い香り。
それは叔父から強く香っていた。
その時は叔父もルイスも何も感じないと言っていた。帰るなり両親にその話をした。何とも不思議な体験だった。
その後もファール国の夜会でたまに感じることがあった。
すると両親は番だと騒ぎだした。番…たしかに今までにない感覚ではあったが…
そんなことが何回か続いたころ、両親に婚約者ができたぞ!今日は顔合わせだ。と伝えられた。
は?
私に番がいるかもしれないのに?そう両親が騒いでいたのに?婚約者だって?そもそも私は結婚する気はないぞ!!
そんなの会うか!!勝手に決められて会うわけがないだろう!!
と相手が来ていることも、何も考えずに私は逃げた。
とにかく腹が立ったんだ。
すると侍女たちが私を説得にやってきた。
私はチャンスだと思った。嫌われてしまえばいいのではないか?
向こうが嫌だと言い出すかもしれない!
と侍女と仲良くしながら、行儀が悪いのもわかっていながら悪態をつきながら謁見室へと入ったのだ。
たまに夜会で聞く令嬢の噂話を、その場で言いながら。ここまですれば馬鹿王子との結婚など嫌で逃げだすだろう。そう簡単に考えていた。
だが、入った瞬間あの香りがもっともっと強く香った。
そこにいた令嬢は美しく可愛く妖精のようで、見た瞬間に番だと確信した。
もう目が離せない。
ああ。私はこの子に会うために生きていたんだ。
などと考えてるうちに、
「陛下、王妃殿下、恐れながら第二王子殿下はわたくしとの婚約がご不満なようです。
わたくし側妃ですか?それともお飾りの正妃でしょうか?どちらでも仕事は致します。つきましてはまたお知らせくだされば王子妃教育も受けますのでまた日時をお伝えくださればと思います。今日のところはわたくし失礼致しますわ。ごきげんよう」
と鈴を転がすような可愛らしい声で言って、護衛に抱かれ消えた。
私の番なのに他の男に抱かれていった…
私の「番…」