2.人形
虐待描写があります。
1歳を過ぎてからは、乳母の目も無くなったこともあり母は父や兄には内緒で私のご飯を減らし始めた。
ご飯は部屋で食べていたので、言わないとバレない。
使用人は母には逆らえないのだろう。執事のエバンスは痛ましげに見ていたな。
兄たちは大事にしてくれたが、私は基本的に部屋から出してもらえなかったので何も気付かれず
「フィーはまだ喋れないの?」
とよく聞いていた。
たまに父に会うと抱っこしてくれたり甘やかしてくれるが
父がいなくなった後の反動がひどかった。
母が怒り狂うのだ。
ご飯はもらえないし、立っても転ばされるし
服で隠れるところはつねられたりした。
完全な虐待だよね。
声が出せないから、誰も気付いてくれない。
お風呂も母が入れてくれる。ただし、水風呂だったり溺れかけたり毎度恐怖…
前世の記憶があって、中身が大人でもこれは怖い。感情が死んでいくのがわかる。
2歳になってからは、母による淑女教育が始まった。
小さい体でカーテシーなんてできないんだよ?筋肉も足りないし頭は重いし、そもそも栄養が足りてないから体が普通より小さい。
それでも、つねられたり叩かれたりするので必死で練習する。
頭に本を載せられウォーキング。フラフラするに決まっている。毎日毎日練習する。
笑顔でいる練習。罵られてもつねられても、叩かれても笑顔を貼り付ける練習だ。
前世が大人だったからこそできたんだと思う。普通の子供には無理だよ。言ってることもそんなにわからないんじゃないかな?
私は自分の部屋から出たことがない。淑女教育も毎日部屋で母と二人きり。
兄が遊びに来るときだけ母は優しくなる。兄にだけだけど。
「母上、フィーをお散歩に連れて行ってもいいですか?」
「この子は体が弱いのよ?風邪を引いたらどうするの?」
「少しだけで戻りますから!」
少し考えて
「ほんの少しよ?すぐ帰ってね!」
初めて部屋から出ることができた!抱っこで移動だ!
「フィー、庭へ行こうか」
こくりと頷く。
「フィーまだ喋れない?」
にっこり笑顔を貼り付ける。
「こんなに可愛いんだから喋るようになったらもっと可愛いだろうね」
と兄たちが楽しそうにしている。だけど、そんな日は来ない。だって一切声が出ないのだから。だんだん悲しくなってきた。
「フィー!どうしたの?どうして泣いてるの?」
「急にどうしたんだろ?」
伝えられない…首を振っておく。
ウィル兄様は私をギュッと抱きしめた。
私は涙が止まらなくなった。
兄たちもいつもどこかへ行っていて、帰ると一度部屋へ来てくれるがそれだけで触れ合いなどはほとんど無い。
私が泣き出したからだろう、お散歩は早々に終了した。
「母上、フィーが泣きだしてしまいました」
「まあ!あとは私に任せてあなた達は行きなさい」
「「はい」」
ああ。また始まる。
「何で泣くの?笑顔だと教えたでしょう?」
背中を思いっきりつねられる。痛い!!
それからしばらく母の気が収まるまで、"躾"は続くのだった。
誰も助けてくれない。助けを求めるすべもない。
父は帰ってこない。兄も気付かない。使用人は逆らえない。
これはいつまで続くんだろう…
そして、3歳になる頃には感情は消えた。
誰かに何かを言われても微笑むだけだ。
そう。それは人形のように。
書いてる私も辛い。