あるギルドメンバーの遺書~ミーシャ&オーディンside~
本作は、少し前に日間ランキング2位・月間9位をいただきました「あるギルドメンバーの遺書」という短編 https://ncode.syosetu.com/n4695hi/
と、その短編シリーズ https://ncode.syosetu.com/s9750g/
の続きになります。
単体でも楽しめるようになっている作品ですので、お気軽にお楽しみください。
ちょっと異質かも……です。
12月。静謐なる冬の時期、様々な出来事が立て続けに起こった。
まず、一人のギルドの青年が自害した。高等な魔術理論を持っていた彼は、同じギルドの魔導師がいたずらに創った終焉魔術を起動させ、世界を一度崩壊させようとした。唯一の解呪となる魔石は結局見つからず、幾つかの犠牲も出てしまった。
それからしばらくして、廃墟となった下宿屋で複数の映像記録が見つかった。記録魔術という高等魔術で記録された動く画像だ。
水晶玉に封印されていた映像は、それを手に取った少女の目の前でひとりでに動き始める――
・・・
11月〇日
『ねー。ちょっとこれぇ、ちゃんと録れてるのお?』
『録れてるんじゃねーの。エルザの魔術だし大丈夫だろ』
二人の若い男女がこちらを覗いている。至近距離。
一人はミーシャ。一人はオーディン。場所はどこかの部屋のよう。
『んー、でも最初がこれってどうなのぉ? まあ面白いからいいけどー』
『だからエルザも許可したんだろ~? ほら見ろよ「こいつ」の顔、めっちゃ笑えるぜ』
二人は水晶玉から距離を取る。椅子に縛り付けられた青年がいる。
青年の表情は前髪に隠れて見えないが、何故か全身が濡れていた。憔悴しているようである。
『えーっとぉ、私達これから的当てゲームしまぁす』
ミーシャは綺麗に笑って言った。
『点数高かった方が、低い方の言うことをなんでも聞くっていうゲーム。だよねぇオーディン』
『そうそう。頑張れよミーシャ』
『オーディンもぉ、百点当てられるといいねー』
『なんだよぉミーシャ。俺に言うこと聞かされたいってか〜?』
二人が持っているのは手のひらサイズの針だった。裁縫針よりは大きく、ナイフよりは小さいサイズ。
刺さっても痛いだけで致命傷にはならない針を、二人は交互に青年に投げる。
全身に針が刺さり叫び声を堪える青年を、二人は嗤っている。
11月×日
銀髪の女性が映っている。場所は下宿屋の裏手。可愛らしいマスコットのような容姿をした女性はしゃがみこみ、地面に伏せたものに対して語りかけている。
『ちょっとは反省した?』
女性の揶揄うような言葉に、それは力なく首を横に振った。
女性は誰にも見えないように眉を顰め、背後に立っていた男性に少し甘えたように言う。
『ねえアルファルド。やっぱりこいつ、反省がちょっと足りてないみたい。ちょっとお仕置きしてあげてくれる? 彼のためだから』
『ああ……なんだ、またか? 仕方ない奴だな』
男性は「それ」を無理やり立たせ、その中心部分、腹と呼ばれるところに拳をめり込ませる。
胃液を吐く「それ」にピントを合わせるように水晶が少し動き、珈琲を手に見物しているオーディンが映る。
『なあエルザ、こいつ死ぬんじゃねえの』
『え? 大丈夫よオーディン。こう見ても彼、耐久力は無茶苦茶あるんだから』
『そうじゃなくてよ。自分でやったりすんじゃねえの? ってことだよ。そしたら本当に面倒だぜ』
『あー、それもそうね』
エルザはにこっと笑って「それ」に耳打ちする。
『じゃあ覚えといてね? あんたが勝手に死んだら、あのリナリーちゃんをひどい目に遭わせてやるから』
途端、青年の表情が少しだけ変わる。そうはさせないと、青年は何かを考えたようだった。
12月3日
水晶の向きがおかしい。床に転がったようなアングルから、言い争う声が聞こえる。
『葬るべきだ、きちんとーー』
『ダメよ! そんなことしたら私達はどうなるの!』
その向こうには、魔銃で頭を撃ち抜いた一人の死体がある。
12月5日
銀髪の女性が水晶に柔らかな笑顔を向けている。中距離。
水晶を持つ者の手は震えてピントが合っていない。
『ちゃんと録っといてね? ミーシャちゃん』
場所は暗くて広いどこか。ダンジョンと呼ばれる場所ーーもう動かない「それ」をエルザは魔法で浮かばせ、ダンジョンの壁に呑み込ませる。
人間の形をしていたそれは、間違いなく青年の死体である。エルザはふうとスッキリしたような、安心した顔を浮かべていた。
12月17日
深い森の中。水晶を持つ手は自棄になったように乱暴に動いている。
その先には銀髪のエルザがいる。
『ちょっとーー録るんじゃないわよこのバカ女!!』
『……へー。あはは、本性表したねエルザちゃん。やっぱりあんた、そんな女だったんだ!』
『あんただって同じようなものじゃないの。頭空っぽのくせに』
森の中。銀髪の女性は瞳が揺れている。
いつものような笑顔はなく、地面にへたり込んでいる。絶望したように髪をかきむしり、唇からは血が流れていて、まるで幽鬼のようだった。
『黙りなさいよ』
水晶を持つミーシャの声は、憎悪と後悔で震えている。
『どうせ私達は終わりよーーもう、みんな死ぬしかないんだわ! あはははは!』
12月21日
『いい記録媒体があった』と男の声。
水晶を持つのはミーシャではなかった。持ち手がひどく乱暴に水晶を動かすと、椅子に縛りつけられたミーシャとエルザが映る。
複数の男性が映っている。至近距離。
『俺のダチが西側に住んでんだよ。……間に合わなかった。あいつは雑巾みたいに絞られるように死んだ。お前らのせいだって聞いたぞ』
誰かが同調する声がする。犠牲になった民衆の怒りの声。
その先にあるのはエルザとミーシャ。
エルザは少しの恐怖を浮かべて強気に叫ぶ。
『なによ、こんなことしたってなんの意味もーー』
男が泣く声と、叫び声がする。
○月〇日
水晶の画面にヒビが見える。もう片手で数えるほどしか動かないだろう水晶に、女が映る。
『ハーイ、録れてる? よかったぁ、まだ目は見えるみたいで』
仮面をつけた女がこちらを覗いている。至近距離。
『あははは、あいつほんと馬鹿。ほんとやらかした。私達だけ魔力を残すなんて、ばっかじゃないの、何考えてんの? あはははは!!』
仮面をつけた女は壊れたように笑っている。至近距離。
『それってつまり、この世界で魔力を持ってるのは私達だけってことよね。魔術さえ覚えれば、復讐できるってことよね』
女は薄暗い眼で嗤う。少しずつ距離を取る。女の前に、車椅子に座った男がいた。右脚がなく、表情が見えない。
『エルザちゃんも言ってたもんねぇ。エルザちゃんが本気出せば、いつでもあいつら殺せるって!』
仮面を取らないまま、彼女は誰かに対して大笑いする。距離が近づいてくる。
『あははは――馬鹿ねあいつも、こうなることも分からなかったのね! 私達が黙ってやられてるとでも思ったのかしら!』
そして彼女は近づいてくる。至近距離――
『――絶対に許さない、めちゃめちゃにしてやる』
プツリ
・・・
映像はそこで終わっていた。
少女はそれを観終わった後、他のすべての記録を見て何かを書き始める。彼らに伝える最終宣告。そして彼女の兄の仇への決着を。
少女は「彼」の妹であった。
お読みいただきありがとうございます。
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これからも作品づくり頑張ってまいります。
よろしくお願い致します。
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