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救星の魔法考古学者  作者: 村崎リラ
第三章 グラン・オルビット
94/125

94 鍵の在り処

 今にも崩れ落ちそうな遺跡の階段。

 空気がひやりと冷たくなる程に、地下深くへと潜っていったカンナ達。


 もう何階分下ったのかを数えるのも面倒になってきた頃。


 突如として、床の材質が変わった事に気がついた。


「石、じゃないね」

「これは……北極遺跡と同じだ」


 イリスの魔法で作り出した灯りで辺りを照らす。


 天井から床、壁も柱も調度品も、何もかもがまるで今まさに作られたとでもいうかのように傷一つなかった。


 振り返れば階段の上は見慣れたボロボロの遺跡。

 対して、目の前は不気味な程に美しい通路。


 異様な光景だが、この先に何かがあるという事だけはひしひしと感じられる。


「室長。この通路に見覚えは?」

「ないね。でも、この先に何かある」


 クルセイロの言葉を聞いたイリスは、灯りを通路の更に先へと送り込む。


 その先に、扉があった。

 北極遺跡ポラリスの最奥にあった、セレスティアル・ポラリスへと続くその扉。

 今、目の前にある扉はそれと全く同じ意匠のものだった。


 その時、少しだけ開いた扉のその奥から、金属がぶつかり合うような高い音が響き渡る。


 一行は、警戒しながらもその扉に向かって歩みを進めていく。


「俺が開ける」


 扉にたどり着くと同時に、カンナが一歩前へ出る。

 三人は何が起こっても対処できるように杖や武器を構えながら、頷いた。


 カンナも杖を片手に持ち、もう片方の手で取手に手を掛けゆっくりとその扉を開いた。




 地下深くであるということが嘘のように高い天井と、広い空間扉の先には広がっていた。

 ソファや本棚が置かれ、どこか生活感のあったセレスティアル・ポラリスとは打って変わってサザンクロスはどこまでも無機質だ。


 その中央。


 先程対峙し、逃げたと思っていたアルタイルが立っていた。

 その彼が伸ばした手の先、首を掴まれじたばたと抵抗している少女、彼女は──。


「エンジュ!」


 半ば反射的に、カンナは飛び出した。


 普段ならばどうすべきかを考えてから動きだすカンナが、何も考えずに駆け出した。

 目の前の光景も相まって、咄嗟の事に誰もカンナを止める事ができなかった。


「手を離せ!」


 何も考えずに飛び出してしまった事を漸く自覚しつつも、足を止めるという選択肢はカンナの中には無い。


 杖を手に、叫ぶ。


「集束せよ、水星──ファンテーヌ!」


 轟音と共に水流がアルタイル目掛けて襲いかかる。

 しかし、アルタイルの周囲だけを避けるようにその水流は弾かれ、あらぬ方向へ流れていった。


「……そんなもので、僕に勝てると思っているわけ?」


 そう言って笑うアルタイルの瞳は、青く光っていた。

 明光の魔物が蠢いた時と同量か、それ以上のマナの流れを感じてカンナは息を呑む。


「さっきは油断したけど、これ以上は無駄だ。君もそうだろう?」


 語りかけられたクルセイロは、何も答えない。

 それどころか、この広間に入った時から、彼女はずっと黙っていた。


「室長、どういうこと?」

「……マナが濃すぎて、私の眼ではアルタイルが捕捉できていない。煙に隠されたかのようだ」


 クルセイロの、マナを視る瞳。

 マナの流れを追う事ができる、それゆえにあまりにも濃いマナの中では逆に全ての物が溶け合って個を認識できなくなってしまう。


 勿論、マナを追わなければ彼女もアルタイルを認識できるのだが、それでは彼が使う魔法を阻止できない。


 スバルも機を伺ってはいるものの、魔法に対して錬金術では分が悪い事は分かっている。

 しかし目の前には行方不明となっていた師の娘、エンジュ。

 どうにかして助けなければど必死で思考を巡らせていた。


「さて、君だ。鍵をどこに隠した」


 太刀打ちできなくなった彼らを一瞥し、アルタイルは未だ抵抗を続けるエンジュに目を向ける。


 エンジュはぶんぶんと足を振り回すも、抵抗虚しくそれらはすべて空を蹴るのみ。

 彼女の首を掴むアルタイルの手に、徐々に力が入っていく。


「……っ、言わない」

ここ(サザンクロス)にあったんだろう。言えば命は助けてあげるけど」


 苦しそうな表情で、それでも何も言わないエンジュ。


 カンナはもう一度アルタイルに向かって魔法を放つ。

 何度も、何度も。しかしアルタイルは見向きもしなければ魔法も彼には一切届かなかった。


 エンジュが鍵の在り処を言えば、星が救われる可能性はぐっと下がってしまう。


 かと言って、エンジュがこのまま黙っているのならば──。


 最悪の結果を天秤にかけ、カンナはぐっと拳に力を入れる。

 頭の中を駆け巡るのは、エンジュと約束した「ずっと一緒にいる」という言葉。


 一度唇を噛み締めて、しかしカンナは叫んだ。


「エンジュ! 大丈夫だ、鍵は一度そいつに渡せ!」


 その決断が正しかろうが、間違っていようが。

 後悔する選択肢だけはとるまいと、そう心に決めたのだ。


 一瞬だけアルタイルの手から力が抜け、エンジュは言葉を発する。それは、小さく震えていた。


「……持ってない。わたし、鍵を持ってない」


 その言葉に、アルタイルが再び力を込める。


「っぐ、ううっ……」


 苦しさでじたばたと足を揺らすエンジュと、止めようとアルタイルに向かって駆けるカンナ。


 その間を、何者かが割って入る。


 否、その場にいる全員が気がついた頃には、真っ赤な血が流れ出ていた。


「鍵は私が持っている。渡しはしないがな」


 カンナの目の前で、背中から剣で貫かれ崩れ落ちるアルタイル。

 その手から離れて床に落下するエンジュ。


 カンナと同じく、エンジュを助けるべくこちらへ向かってきていたスバルも、後ろでクルセイロを支えるイリスも。


 誰もが言葉を失っていた。


 アルタイルを剣で刺したその人物は、カンナとイリスの師、教士長アディザだった。

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