表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
救星の魔法考古学者  作者: 村崎リラ
第三章 グラン・オルビット
72/125

72 水色髪の天才博士

 目立つ水色の髪に、無精髭を生やした男。

 彼はへらへらと笑いながら、遠慮もなしに椅子に座る。


 誰かと問うべくカンナはスバルを見るが、彼は何故か青い顔をしてファーミアナを見ていた。


 そのファーミアナはというと──。


「カンナくんも、考古錬金学に興味があるのなら嬉しいわ。人手が足りなくて困っていたのよ」


 無視をしていた。

 まるで、始めからその男が存在していないかのように。


 しかしそれで引く男ではないらしい。


「よっ、久しぶりだなファーミアナ!」


 彼もまた何事もないかのように、明るく彼女の名を呼んだ。


 それと同時に、カンナは背筋が凍るような感覚に襲われる。

 

 溜息が一つ聞こえたかと思うと、これまでのファーミアナからは考えられないくらい、低く冷たく声で、彼女が言うとも思えない言葉を発した。


「あらルミナス博士。まだ生きていたのですね」


 その表情もまた、凍りついていた。


 スバルは席を立って、誤魔化すように辺りの本棚を整理し始める。

 異様な空気に包まれた部屋で、口を挟む事もできずにカンナも立ち上がる。


「おい、スバル……」


 カンナは離れていくスバルの腕を掴む。


「暗黙の了解だ。いいか、あの二人には触れるな」


 スバルは、小声で言う。

 訳が分からないが、触れるなというのにはカンナも同感だった。

 不用意に割り込んで、巻き込まれてはたまったものではない。


 ファーミアナの酷く冷たい視線に対して、無精髭の男は未だへらへらと笑っている。


「ルミナス博士、か。昔を思い出すな」

「その思い出を今すぐ消し去ってほしいですね」

「しかし一段と美しくなったなあ。今夜、飲みにいかないか?」

「いつになったら、消えていただけるのですか?」


 話がまるで噛み合っていないというのに、会話が続いている。


 これだけ言われても男は笑っていた。

 ファーミアナは深い溜息をつき、背を向ける。


「不快だわ。スバル、カンナくん、私は他の用事を済ませてきます」


 それだけ言い残して、ファーミアナは研究室を出ていった。

 扉を閉める時の音は、少しだけ大きかった。


 残されたスバルとカンナは顔を見合わせ、ほっとしたように溜息をつく。


 同じくその場に残された男はなおも笑いながら頬杖をついている。


「ファーミアナは照れ屋だよねえ」

「博士、こんなことばかりしてたらいつか刺されますよ」

「彼女に刺されるなら本望だ。っと、そうだスバル」


 男はわざとらしくぽん、と手を叩く。


「ナナミが探してたぞ。約束があるとかって言ってたけど」


 それを聞いたスバルは、何かを思い出したかのように声をあげる。


「あー! やっべえ、忘れてた! 悪いカンナ、ちょっと行ってくる!」


 そう言って、彼もばたばたと急ぎ足で、その場から立ち去ってしまった。


 残されたカンナは、困惑した。


 勝手の分からぬ研究室に、見知らぬおかしな男が目の前にいる状況だ。

 教団で様々な人と関わってきたカンナであっても、どうすべきか分からない時はある。


 逃げるべきか、無視をするべきかと思案していると、彼はへらりと笑った。


「自己紹介をしよう。俺は天才博士ナイクラッド・ルミナス、よろしく」

「……カンナだ」


 ナイクラッドはカンナに向かって手を差し出すので、握手を返そうと手を伸ばす。


 その腕が引っ張られる。


「ファーミアナに免じて今は見逃してやっているが……」


 先程までの明るい声色とは違って、彼の声はひどく冷たかった。


「怪しい動き一つでもしてみろ。その喉元掻っ切るからな」


 それと同時に、いつの間にか刃物のようなものが首元にあてられていた。


「……肝に、命じておく」

「それでいい」


 カンナは冷や汗をかきながらも、なんとか返事をする。

 返事を聞いて、刃が喉元から離れるので一先ず安堵した。


()()()()の事もあってこっちも気が立っている。悪く思うなよ」


 彼はそれだけ言って、部屋を出ていった。




「……さっきは急に、ごめんなさいね」


 暫くして戻ってきたファーミアナは、部屋に入るなり謝った。


「あの人、ちょっと苦手で」


 申し訳なさそうに言うファーアミアナ。

 あの態度はちょっと苦手どころではないとカンナは思ったが、それは言わないでおく。


「まあ、苦手なものは誰にでもあるから」


 苦し紛れにフォローするが、実際のところカンナにとって苦手な人間というものは居なかった。

 強いて言えばブラオルイーネの研究者達だが、あれは人間というよりその雰囲気が苦手なだけなのだ。


 ファーミアナは気持ちを切り替えるかのように、深呼吸をする。


「さて、カンナくん。あなたに頼みたいことがあるの」


 そう言ってファーミアナは机の上に地図を広げる。


 彼女の家にあった地図とはまた違う、少し古びたものだ。

 地図上には、いくつか点が印されている。


「この印は、未だ手つかずの遺跡の場所を示しているの」


 それは北に一つ、南に二つ印されている。

 ファーミアナはその中から、北にある遺跡にトンと指をおく。


「あなたには、ここから更に北にある遺跡を調査してもらいたい」


 その遺跡の名は──。


「……北極遺跡ポラリス」


 それは、エカルラート最北端にある第七遺跡ポラリスと同じ名を冠していた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ