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救星の魔法考古学者  作者: 村崎リラ
第一章 暗闇の魔物
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7 第六遺跡クロノス 三

 暗闇で満たされた通路を前に、イリスとウォットは立ち尽くしていた。


 ドンッ、と何かがぶつかる音がしたかと思えば。

 横に立っていたカンナが暗闇に落下し、後を追うようにエンジュが飛び込んで行った。

 ほんの一瞬の出来事だった。


「ど、どうしよう。二人とも飲み込まれちゃった……」


 突然の出来事に思考が止まりつつも、二人が暗闇の中へ消えて行ったという事だけを理解しているイリス。

 思わず暗闇に手を伸ばすも、その腕はウォットによって阻止される。


「駄目です、イリス君! あなたまで飲み込まれてしまいます!」


 彼の言葉にイリスはハっとしたように顔を上げる。


「すみません、ウォットさん。突然のことでびっくりしてしまって」


 イリスは座り込んでから、もう一度暗闇を覗き込む。

 幾度見ても暗闇のその先には何も映らず、音一つ無い。


 見ているだけで飲み込まれてしまいそうな闇に、イリスはもう一度光の魔法を使う。

 しかし、先程同様にその光は飲み込まれてしまった。


 ここにいてはどうにもならない。そう悟ったイリスは、立ち上がる。


「ウォットさん。私達は暗闇についての手がかりを探しましょう」

「そうですね。イリス君、大丈夫ですか?」

「……飲み込まれた二人のことは心配です。でも、カンナは”魔法書”も持っているから、大丈夫だと信じています」


 家族だからこその、信頼。

 それを感じとったウォットは、頷いた。


「一度地上へ行きましょう。まだ本部に運び込まれていない出土品があります。そこから手がかりを探しましょう」


 二人はそうして、地上へ戻って行く。


 暗闇が、広がっている事に気が付かないまま。




「何も見えないな」


 小さくなっていた灯りもすっかり消えてしまい、カンナは暗闇をひたすらに歩き続けていた。

 服の裾を掴んでいるエンジュが着いてきている事を確認しながら、慎重に歩みをすすめていく。


 これは魔法か、それともエンジュの言う通り何か大きな生物の体内なのか。


 あてもなく歩き続けても埒が明かないと思ったその時。


 カンナは足元に何かがぶつかるのを感じ、立ち止まった。

 突然立ち止まったカンナにぶつかったエンジュは、「うっ」と小さく声をあげる。


「カンナ?」


 思い切りぶつかった鼻をさすりながら、エンジュは目の前にいるであろうカンナに声をかける。


 一方のカンナは、恐る恐る足元に手を伸ばし、その正体を探る。


「うう……」


 それは、小さなうめき声を発していた。


「人だ! おい、大丈夫か」


 暗闇の中、手探りでそこに倒れ込む人の背中に腕を回し、起き上がらせる。


「話せるか?」

「……教団の……方ですか……」


 苦しそうに肩で息をしながらも、彼もまた自身を支える腕にしがみつく。


 暗闇の調査に出かけた魔法士(メイジ)が一人行方不明になっていると、ウォットが話していた事を思い出す。

 ともすれば、彼が。


 カンナは暗闇の中、なんとか倒れていたその人を背負って立ち上がる。


「俺はウォットさんに言われて調査しに来ている。なんとか出る方法を探すから、もう少しだけ頑張ってくれ」

「……は、い」


 カンナは自身の服の裾を、エンジュがしっかりと握っていることを確認してから再び歩き出した。




「イリスさあああああん!」


 イリスとウォットが地上に出るなり、遺跡に響き渡ったのは、今朝も聞いた元気な声だ。


「セイラ!?」


 イリスの姿を見て、勢いよく駆けてくるのは総合教務室のセイラだ。

 まさか遺跡にセイラが来ていると夢にも思っていなかったイリスは、驚きながらも彼女を受け止める。


「どうしてセイラがここに?」

「本部が大騒ぎになっているんですよ! 第六遺跡の真実が発覚して、大教士まで動いているんですから!」


 彼女の言葉を聞いて、イリスとウォットは思わず目を合わせる。


 第六遺跡の真実。

 それは、暗闇に関するものかもしれない。一縷の望みを胸に、イリスは彼女の話の続きを待つ。


「先程まで発掘隊と、解読室、大教士が、この遺跡をどうするか協議していたんです。そのことを私が先駆けて、第六遺跡の方々にお伝えしに来たんです、け……ど……」


 そこまで話して、セイラは辺りを見渡す。


 ウォットと目が合えば、彼は丁寧にお辞儀する。

 目の前には話の続きを待つイリス。

 周囲は、第六遺跡の出土品を運ぶ発掘隊員の姿。


 そう、二人足りていないのだ。


「カンナさんとあの小さい女の子は──」


 セイラの言葉に、イリスは背後にある遺跡の入口に視線を向ける。それが答えだった。


「まさか、二人とも……」

「だ、大丈夫だから。それよりも、協議の結果どうなったの?」


 青い顔のまま、セイラは一枚の紙をウォットに渡す。


「発掘隊長のウォット教士ですね。これを。大教士から預かってきました」

「拝読します」


 受け取ったそれに目を通すウォットの表情は、読み進めば進む程に険しくなっていく。

 何が書かれているのかイリスには皆目検討がつかないが、良くない事であるのは確かだろう。


 やがて紙から顔を上げたウォットはセイラに向かって頷いた。


「第六遺跡クロノスの再封印、承知しました」

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