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救星の魔法考古学者  作者: 村崎リラ
第二章 アストラの少女
58/125

58 ウラノメトリア三巻

 エンジュの出自を疑問に思うアリシアは次々と質問を投げかける。

 それに対して、エンジュが淡々と答えるだけの不思議な時間が流れていた。


「第八遺跡の、どこで出会ったの?」

「魔法結界の先。動く岩からカンナが助けてくれた」

「どうしてカンナくんに突進したの?」

「わからない」

「それ以前はどこにいたの? 故郷は?」

「記憶がなくて、わからない」

「……そうだったのね」


 以前どこかで聞いたようなやり取りに、カンナは苦笑した。


 二人がいまだ会話を続けているので、カンナはしらみつぶしに本に目を通すことにした。

 折角なので、エンジュが見たことあると言っていた『ウラノメトリア』三巻を手に取る。


 表紙を捲ると、目を見張るような美しい星図が描かれている。


 表紙や背表紙の文字から分かってはいたが、文字は比較的現代語に近いもので書かれている。

 これならば、いつも読んでいる本よりも早く読み進めることができるだろう。

 カンナは目次を開く。


「なんだこれ、メモか?」


 目次には小さいメモが挟まっていた。


 そこには”手紙の数”とだけ書かれている。


「アリシア、これって師匠の字だよな」

「ん? これは……父さんの字、よね。多分だけれど……」


 偽物の手紙がある手前、そう言い切れないのかアリシアの言葉は歯切れが悪い。


 それでもひとまずアディザの字だと信じて、カンナは手紙の枚数を改めて数える。

 魔法書家ベルギアに見てもらった時点で分かっていた事だが、手紙は確かに十三通だった。


「十三章か?」

「そんな安易なものかしら」

「まさかな」


 そう言って目次から、十三章を開く。


 すると中には、赤い紙が挟み込まれていた。


「これ、マギア試験紙だ。しかもこの色はかなり古い時代を示しているな」


 マギア試験紙とは、魔法考古学者が年代測定に使うものだ。調査対象に残留したマナに触れ、紙が(あか)くなればなるほど対象の年代は上っていくというものだ。


「本の年代かしら」

「いや、装丁からしてこの本は古くても8000年代後期だろう。だから別の物に使った試験紙だと思うが」


 それが何なのか、彼らには分からない。


 カンナは試験紙を裏返す。

 そこには、うっすらと何かが書かれていた。


 疑問に思い、光に翳す。そこには”第一遺跡の数”とあった。


「第一遺跡って、一箇所しかないよな?」

「え? わからないわ。というか、遺跡のことなら私よりもカンナくんの方が詳しいでしょう」

「そうだよな。第一遺跡の数、か。三角形の塔が中央に一つ、いや、取り囲むように三つの塔があったから合わせて四つか?」


 中央の塔が第一遺跡ならば答えは一、周囲の塔も含めるならば答えは四となる。

 だが二人は首を傾げる。答えが曖昧かつ複数になるような問いかけを、アディザがするとは思えないからだ。


 その横で何やら熱心に手紙を見ていたエンジュが、何かを思いついたように顔を上げる。


「三つかも。手紙に、『第一遺跡』って書かれていたのが三回だった」

「なるほど。確かに手紙を使って何かを伝えているのだとしたら、手紙から答えを導くべきだろうな」


 だが答えが分かっていても、それが何を意味しているのかは分からない。


「それで、第一遺跡の数が何なんだ?」

「十三章というのが正しかったのだから、十三章の三ページ目とかかしら」

「またそんな安易な……」


 安直にも程があると言わんばかりの呆れ顔で、三ページ目を開く。


 そこには、ページ全体を使って一つの星図が描かれていた。


「三角形……」


 三巻の題字の横にある紋様、三つの点とそれを結ぶ線によって作られた三角形。

 描かれていたのは、それと同じものだった。


「夏の大三角、というものらしいわね」


 横に小さく書かれている、恐らく図の名前を示すものをアリシアが読み上げる。


「夏っていうと、さっき話していた季節のことよね」

「そういえば三巻の副題は『季節の星座』だったな」


 そう話すカンナとアリシアだが、夏の大三角が何を示しているのか、アディザが何を伝えたいのかは不明なままだ。

 次へ繋がるメモもなく、行き詰まってしまった。


「もしかして、他の巻にもメモがあるのかしら」


 アリシアが別の巻を手にとってぱらぱらと捲るも、それらしいものは見つからない。


「エンジュが偶然手にとった、三巻が正解だったみたいだな」

「すごいわ、エンジュちゃん」


 アリシアがエンジュの頭を撫でると、エンジュは得意げににこにこと笑っている。


 その横でカンナは星図をじっと見つめている。

 そうして良いことを思いついたとでも言うように、本を抱えて立ち上がった。


「星のことなら、専門家に聞くのが早いな」


 善は急げだ。

 一行は、足早に教庁へ向かった。

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