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救星の魔法考古学者  作者: 村崎リラ
第一章 暗闇の魔物
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5 第六遺跡クロノス 一

 エンジュがアストルム教団に来た翌日。


 昨日も聞いた元気な声が、再び魔法考古学室内に響き渡った。


「カンナさんおはようございます! 派遣要請です!」


 彼女は教団の庶務をこなす総合教務室、通称”総務”に所属しているセイラという。

 セイラは愛想が良いためよく教団の受付をしたり、さまざまな雑用で団内を駆け回っている、色々な意味で有名人でもある。


「また第八遺跡か?」

「いえ。今日は第六遺跡ですね! こちらが資料です。では、いってらっしゃい!」




「なんであいつは、いつもこちらが返事をする前に送り出そうとするんだ」

「忙しそうだからね」


 忙しいのと関係あるのか、とカンナは思うも言葉にはせずに空を仰ぐ。


「空、綺麗だね」


 同じように空を見上げた記憶喪失の少女、エンジュはぽつりと呟いた。

 カンナが彼女の面倒を見る事になったため、今回の派遣も仕事見学と称して同行させる事にした。


「それじゃあ行くか。エンジュ、手を離すなよ」


 マナを大きく消費する転送門は、遠く離れた地へ向かう時にしか使えない。それも、仕事や緊急時という制限がついている。


 門の管理人に行き先を伝えると、管理人は魔法を使うための文言を唱える。

 それからすぐに門の色が変化し、扉が開く。

 扉のは光っていて先が見えないが、カンナやイリスはお構いなく足を踏み入れ、エンジュもそれに続いた。


 そして、もう一歩踏み出せば、その先はまったくの違う景色。


 目の前にあるのはこの星で最大級の古代遺跡、”第六遺跡クロノス”であった。




 第六遺跡に到着した三人を出迎えたのは、白髪交じりの男性だ。


「お待ちしておりました。カンナ君、イリス君。私は第六遺跡の発掘隊長、教士ウォット・ルグランです」


 ウォットはにこやかに一行を迎え入れるが、ふとカンナの隣に立つエンジュに視線を向ける。


「お隣にいるのは……」


 知らない人物に慣れていないエンジュは、カンナを盾にするようにして隠れてしまう。


「仕事見学で同行しているエンジュといいます。まあ、ウェントス大教士の指示と思ってください」

「大教士の? ははは、それはまた面白そうだ。ですが、積もる話の前に先に仕事の話をしましょう。会議室へご案内します」


 第六遺跡は発掘されてから年月が経っていることもあり、第八遺跡よりも整備が進んでいる。

 三人はウォットの案内で、会議室へ向かった。




「暗闇?」


 会議室へ案内された三人は、ウォットから第六遺跡の現状を聞く。


「はい。第六遺跡は発掘もほぼ完了し、遺物の調査も終わっていたので、そろそろ引き上げるところだったのです」


 運び出された遺物で溢れかえっていた第八遺跡とは違い、人も少なく閑散としていた。

 ウォットの話通り、引き上げる準備に取り掛かっていたのだろう。


「しかし、先日遺跡の奥にある壁が崩れまして。その先に、道があったのです」

「未調査のまったく新しい道、ですか?」

「そうなります。当然再調査という事になるのですが、一つ問題がありまして」


 ウォットは大きな紙を広げる。

 それは、この第六遺跡の構造図だ。

 ひと目見ただけでも頭が痛くなるような複雑な構造であり、最大級の遺跡と謳われるだけあった。


 第八遺跡は家屋のようになっていて、廊下と部屋が明確に分けられていた。

 内部もほぼ一本道で、発掘隊長ハダルの案内がなくとも進めそうなほど単純な構造だった。


 昨日見た遺跡がそうであったために、余計に第六遺跡の複雑さを引き立てる。

 一体なんの為に作られた建物であったのか、複雑すぎてまるで検討がつかない。

 

 カンナもイリスも、難しい顔をしてその構造を頭に入れようとその図を凝視する。


「ここです。この先が、新しい道です」


 ウォットが示すのは、書き足すように伸ばされた線。

 だが通路にあたる場所は黒く塗りつぶされている。


「これは一体……」

「暗闇で、先が見えないのです。光も通らず、物を投げ入れても音一つない、完全な真っ暗闇」


 光が通らない。

 それが魔法によるものなのか、ただの暗がりなのか。


「その日以来、既に調査済みであった箇所からも、まるで漏れ出すかのように暗闇が這い出てきたのです」

「這い出て、って。まるで生きているみたいな」

「まさしく、カンナくんの言う通り。生きているのですよ、暗闇が」


 言葉で聞いてもまるで意味の分からない、それでいて不気味な表現。

 カンナとイリスは黙って話の続きを待つ。


「調査すると言って暗闇に足を踏み入れた魔法士(メイジ)が一人、行方不明なのです」


 魔法士というのは、アストルム教団に所属する魔法による戦闘を生業とする者達の事だ。


 古代遺跡には罠や古代人が遺した魔法人形、マナで作られた魔物が眠っている場合が多い。

 遺跡発掘に魔法士が同行するのは珍しい事ではなかった。


「暗闇の正体を調査するついでに、魔法士の捜索といったところか」


 前者はともかく、後者は完全に専門外だ。

 それが分かっているのか、ウォットもばつが悪そうに頷く。


 それでも人が行方不明になっている中、見過ごす訳にもいかないカンナは立ち上がる。


「とにかく現場を見てみたい。その暗闇の通路に案内してください」


 ウォットは頷いて、ランタンを手に扉を開ける。


「エンジュ。危ないからお前はここで待っていてくれ」

「え?」


 いつの間にかカンナの手を握っていたのは、着いていく気満々のエンジュであった。


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