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救星の魔法考古学者  作者: 村崎リラ
第二章 アストラの少女
39/125

39 ヴェガという名

 エーデルリアが見せてきた占星学者(アストロロジスト)の自伝。


 年代は星陽暦20年、発見者・翻訳者はともに教士長アディザだという。


 カンナは師匠の名が出てきて、動揺する。

 自身を落ち着かせるようにカンナは紅茶を啜り、深呼吸する。


「それで、こんな古い本がどうして観測室にあったんだ……じゃなかった。あったんですか?」

「ふふ。素の状態で話してくれて構わないよ。占星学についてはご存知か?」

「一般的な知識としては」


 そう答えるも、カンナは自信が無かった。

 遺跡とか魔法に関してならば一通り頭に入っているものの、星についてはからっきしだ。


 自信のない彼の様子を察したのか、エーデルリアは概要を説明した。




 占星学。


 それは、星を読み今後起こるであろう事象を事前に知り得る学問。


 星と星の距離、それから位置、動き方を知り、エカルラートにどのような影響があるのかを考察する。

 古来より星の位置によってマナの状態も変化し、魔法にすら影響を与えてしまうとまで言われている。


 エカルラートに王政があった時代には、今後の政治の成り行きなんかを占ったりする事もあったという。


 現代では専ら、マナへの影響と、そこから来る自然への影響について研究する事が多い。


 また星を読むという性質上、観測室に居る方が都合が良く、昔から占星学者は観測室に所属している。




「星の名前には興味は?」


 一通りの解説を聞き終えた後、エーデルリアは唐突に問いかけてくる。


 カンナは小さい頃に図鑑で目にした事はあるものの、興味があるかないかでいえば、無い。

 そもそも星より遺跡が好きだったからこそ、魔法考古学者の道を選んだのだ。


 答えないカンナを見て察したのだろう、小さく笑ってエーデルリアは話を続ける。


「アストルムは知っているな。我が教団が信仰する(あか)い色の一等星」

「それは流石に知ってる。確か、天の川だっけ。その横にあるとかっていう」

「そうだ。それがアストルム。別名を、ヴェガというらしい」


 アストルム教団が信仰している、大陸中央の真上にある紅い星の事は、子供でも知っている。

 しかし、その星の名前はあくまでアストルム。

 別名があるなんて話は、今まで聞いた事が無かった。


「この本に書いてあってな。別名、ヴェガ。ついでにいえば著者の名もヴェガというらしい」


 急に、話に信憑性が無くなってきたのでカンナは怪しいというように本をじっと見つめる。

 見かけ上は確かにかなり古いし、珍しく擦り切れていない表紙には確かに”ヴェガ”と書いてある。


「どうして教庁にあるのかという話だったな。およそ三ヶ月前だったか。教庁へ保管しておくようにと私が教士長から指示を受けたのだ」


 三ヶ月前、といえば丁度、暗闇の魔物クロノスの騒動があった頃だ。


 エーデルリアは続ける。


「私も理由を聞いたが、答えては貰えなかった。占星学者の自伝だから、此方で保管するものだと思っていたのだが」


 しかし、教団の規定で言えば、こういった古い書物や遺物は一律で法庁の保管庫に置いておくとされている。

 観測室で預かるというのは完全に教士長アディザの独断であった。


 アディザの近頃の不穏な噂に加えて今回の出来事。


 カンナは、思わず表情を曇らせる。


「それで、ここからが本題だ」


 漸くといったように、エーデルリアは本を開く。


「まず、私は古代言語が読めない。が、辞書を借りて最初の数ページだけ読んでみた」


 これほど古代ならば、古代言語も単純な単語で構成されている。

 素人のエーデルリアであっても、辞書さえあれば読めなくはないだろう。


「著者のヴェガは自らの事を預言者と言っている。占星学を使いこの星について預言した。星陽暦1万年に、この星は滅びると」


 それは、このエカルラートで生きる者ならば誰もが知っている話だ。

 ただし、預言者はアストラの少女であって、ヴェガという人物ではない。


 彼女は続ける。


「ヴェガが星を読んだ際の動向について著してある。読んでみてくれ」


 カンナは、彼女から本を受け取り、目を通す。


「中心の天上に、紅い星が来るように、各地に八つの観測所を作った。……観測所、とは観測室のようなものか」

「それが分からない。だから、魔法考古学者(アーキマギアロジスト)を……貴方を呼んだ」


 確かにそういう事ならば、依頼として魔法考古学者を頼るのは正しい。

 こういった本の内容を考察するのも、彼らの仕事だ。


「八つか。ちょうど大規模な遺跡の数と同じだな」


 カンナがぽつりと呟くと、エーデルリアはまるでその言葉を待っていたかのように言う。


「第九遺跡が発見されればこの推察は無しになるが、君はどうだ。気になるとは思わないか?」


 カンナからしてみれば、正直物凄く気になっている。

 ここまで話を聞いて、引き下がれる者はそもそも魔法考古学者にはならないだろう。


「俺が調べよう」


 そう答えると、安心したように彼女は微笑んだ。


「やはりカンナ、貴方を呼んで正解だった。よろしく頼んだぞ」

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