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救星の魔法考古学者  作者: 村崎リラ
第一章 暗闇の魔物
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1 魔法考古学者の兄妹

 アストルム教団・魔法考古学室。


 パタパタと小走りの足音が、朝の室内に聞こえてきた。

 その足音は予想通りこの部屋の前で止まり、形式だけの雑なノックをして扉を勢いよく開ける。


「お手すきの方はいますかー!」


 足音の主は、元気な金髪の少女。彼女は大声で叫んだ。


 天井高くまで積み上げられた数々の本。

 棚も机も、床にも散らかった資料の束。

 足の踏み場だけがかろうじて残された、散らかった狭い部屋に少女の声が響き渡った。


 乱雑に置かれた本の影から、一つに編まれた赤い髪がゆらりと揺れる。


「はい、ここに」

「案件です! いってらっしゃい!」


 元気な少女は、持ってきた紙を散らかった机に置いて、さっさと出ていった。

 少女の手には他にも多くの書類を抱えている。

 朝のルーティンとして、各部屋にその日の案件を配っているのだから慌ただしくても仕方がない。


 それを分かってはいても、毎回同じような事を口にしてしまう。


「何から何まで騒がしい奴だな」


 赤髪の青年・カンナ。

 そう言いながらも、雑に置かれた紙を手に取る。


「総合教務室はいつも忙しそうにしているもんね」


 唯一綺麗に整えられたソファから返事をするのは、カンナの妹・イリス。

 カンナとイリスは共にアストルム教団に所属する魔法考古学者(アーキマギアロジスト)である。


 イリスはカンナが手にしている紙を、横から覗き込む。


『発掘途中の第八遺跡にて、魔法結界が発見された。考古学者の派遣を求む』


 この星に点在する古代の構造物、遺跡。


 遺跡には古代の人々が高度な魔法を用いて、ありとあらゆる研究を行った跡がある。


 そういった古代遺跡の専門家、魔法考古学者。

 遺物に遺された痕跡から古代の魔法と知恵を解き明かすことが彼らの仕事だ。


 カンナとイリスは教団でも有名な、魔法考古学者兄妹である。


 二人が、アストルム教団が遺跡を調査しているその理由。

 それは、この星の人々の悲願である”救星”のため。

 滅びを預言された星、エカルラートを救うため。


 イリスは座っていたソファから勢いよく立ち上がる。その衝撃で、天井近くまで積み上げられた本が僅かに揺れる。


「第八遺跡。まだ名前もついていない発掘されたてほやほやの遺跡だね」


 その言葉に頷いて、カンナもまた、静かに椅子から立ち上がる。


「それでも古代遺跡だ。何か大きな手がかりがあるかもしれない。行くぞ、イリス」


 二人は教団の印でもある、揃いの黒いコートを羽織ってその部屋を後にした。




 この星──エカルラートは星陽暦1万年を迎えた時、滅びる運命にある。


 そう預言したのは古代人、”アストラの少女”。


 始めは誰もが戯言だと笑い、創作話だと信じていなかったという。


 しかし預言の年に近づくにつれ、星は滅びに向かって準備をし始めた。

 星に満ちる”マナ”は急激に減少し、その影響で植物や資源は枯れ、災いは各地を襲う。

 現代の文明では、それらを食い止めるための知識も魔法も、何もかもが不足している。


 そんな状況下でも、諦めずに立ち上がった一団がいた。


 滅びから星を救うために結成された、"アストルム教団"。


 アストルム教団は、夜空に浮かぶ(あか)い星、"アストルム"という星を信仰するという側面もあるが、実態は研究者集団だ。

 

 滅びから星を救うために、魔法と知識を集積し、研鑽を積む。

 エカルラートの文明の礎を築いた古代の知恵をも利用する、そのために各地の遺跡を発掘している。


 人々は決して諦めない。


 星を救う、その日まで。

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