環境に優しい彼の欲望
もう別れてしまった私の彼は私よりも環境に優しかった。
私がコンビニでお菓子やアイスを買うと、過剰包装がどうのこうのと言い、プラスチックごみを処理するのにかかるCO2の排出量がなんとかかんとかと、いつも一人でぶつぶつ呟いていた。
ずっと我慢していたのだが、どうにも抑えきれなくなった私が意を決して文句を言うと、大真面目な顔で、「でもさ、あやなちゃん」、と彼は言った。
「あやなちゃんと同じような女の子は世界中にたくさんいるけれど、この地球は今のところ、たった一つのかけがえのないものなんだよ?
大切にしようと思う気持ちを持たないなんて、人としてどうかと思うな。
持続可能性の観点から言って。」
こういう経緯で、私と彼の持続可能にもなりえたであろう関係は、地球環境の持続可能性との優先順位との兼ね合いであっさりと終わった。
私たちが一緒に過ごした時間はかけがえがないと思っていたのは私だけだったらしい。
彼にとっては誰かが誰かと一緒に過ごす時間を大切しようと思うその気持ちすら、地球環境の持続可能性の邪魔になる何かでしかなかったようだった。
私の好みの痩せ型の、手足の長い顔の綺麗な男の子だったから、残念な気持ちがないわけでもない。
矛盾するようだが、正直別れられてせいせいしている自分もいる。
そして、せいせいしている自分を後悔している自分がまた別にいる。
後悔の主な原因は、私の好みをそのまま結婚適齢期の男の子にしたような彼の容姿のせいだけではない。
彼は、その高い環境意識に似合わず直情的で、ブライダル関連の企業が実施している調査の結果が示唆する、恋愛に淡泊な最近の若い男の子のイメージに真っ向から反抗しているかのように、夜の間、私といる時の求め方が強く激しかった。
私はそのあたりの経験が豊富なわけでもないし、日本の一般的な平均については正直よくわからないけれど、彼は間違いなく統計用語で言うところの異常値だったと思う。
普段はいかに環境に優しくすることが人類にとって大切かばかり話している彼の欲望は、自分と相手の気持ちに正直であることだけを追求したように真っすぐで、普段のつまらないことばかり言う彼とのギャップに戸惑いながらも、私は夢中になった。
繰り返しておくが、私はそのあたりの経験が豊富なわけじゃない。
彼ではない人にそういう意味で夢中になったことはなかったし、彼と付き合うまではそういうのは面倒くさいと思っていた方だ。
それでも、彼と同じ部屋に泊まる度に、ただただ夜が明けてほしくないと思ったのは嘘じゃない。
矛盾するようだが、正直別れて寂しく思ってる自分もいる。
そして、寂しく思っている自分が嫌になる自分がまた別にいる。
環境に優しい私の元彼が私に優しくなかったという話で、だからどうということも特にないのだが、どうしてもこのもやもやを吐き出さずにはいられず、むしゃくしゃしてここに書いた。
彼の欲望は前述のとおりで、あの情熱的な真っすぐさと激しさは、放っておけばきっと地球環境に負荷をかける原因となる人口を増やす方向に作用してしまうだろう。
彼がそのあたりにどう折り合いを付けていくのかが気になるといえば気になるのだが、それを知りたいがために自分の残りの人生ずっと持続可能性の重要性を聞かされ続けるというのはナンセンスなので、まあこれはこれでなるようになったというべきなんだろうけれど。
某Youtuberの動画で見かけた「ただただ夜が明けてほしくない」というパワーワードが忘れられず、お蔵入りになってはいたけれど気に入っていたタイトル案を使った短編として成仏させることにしました。
普段はこんなの書いてます。
よろしければこちらもどうぞ。
午後の最後の首相
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